麒麟の翼~劇場版・新参者~

面白かった!
青柳武明(中井貴一)が誰になぜ殺されたかという謎解きに、容疑者や遺族や刑事や聴き込み相手など様々な人物が絡んでくる。けっこうな人数だと思うし、殺人事件だけではなく労災隠し問題も浮上したりでエピソードが多い割にスッキリしていて、私の頭でもついて行けたし、結末がなかなかに感動的だった。それに、加賀恭一郎(阿部寛)と松宮脩平(溝端淳平)が聴き込みの途中、たこ焼きを食べる場面など可笑しくて、ぽつぽつ笑わせてくれるのが嬉しかった。高架下で窮屈そうな麒麟像もよかったし、福島へささやかなエールが送られていたのも印象に残った。
ただし、船越英一郎が断崖絶壁で何から何までしゃべってまとめるテレビのサスペンスものよろしく、加賀恭一郎が先生(劇団ひとり)に説教したり、挙げ句の果てに中原香織(新垣結衣)が「産みます宣言」したりでゲンナリさせられた。「彼女はきっと産むんだろうな」と思わせるに充分な流れなのだから、本当に余計なセリフだった。画竜点睛を欠く(残念)。

青柳悠人(松坂桃李)/八島冬樹(三浦貴大)

監督:土井裕泰
(2012/03/15 TOHOシネマズ高知1)

ゴーストライター

名無しのゴーストライター(ユアン・マクレガー)のいかにも英国人的な婉曲表現が笑える。ときどき真意とは反対の言葉で表現するので、他の俳優が演じたら皮肉っぽい人物になったかもしれないが、世界一チャーミングな俳優が演じたことによりユーモラスな人物になった。この名無しのゴーストライターの前任者は事故死したことになっているが、どうも殺されたらしい。誰がなぜ、アダム・ラング(ピアース・ブロスナン)元英国首相のゴーストライターを殺したのか。名無し君が真相に迫っていくとともに、自分もとっても怖い目に遭う政治サスペンス・ミステリーだ。

この映画にはいろんな人物が登場して名無し君に質問をする。その人物は前任者を殺した相手かもしれない。下手なこと(自分がどれだけ情報を掴んでいるか、前任者と同じくらい知っていること)を言って殺されたくないと思うはずだ。それなのに名無し君は知っていることを話してしまう。大丈夫かと心配していたら大丈夫だった。考えてみれば、名無し君はフリーのライターで、どこの誰にも組織にも属せず与しないのだから、自分の身の安全を確保できさえすればいいのだ。他人のために守らなければならない秘密はない。だとすれば、知っていることを話した方が断然助かる!(という論理が成り立つのかどうかわからないが、そう思ってしまった。)また、直情径行型人間(←名無し君のことではない)に悪人はいないということも再確認できた。

それにしてもポランスキーの演出力は凄い。冒頭、フェリーから車が一台ずつ出て行くシーンからしてジワジワと怖い。ラスト付近も手紙が手から手へ渡されていくシーンにドキドキした。この渋い演出と、ガラス張りの別荘やいかにも寒そうな風景をもう一度観たい。本当のことを言うと、名無し君の婉曲表現の他にもクスクス笑える場面がいっぱいあったので、また笑いに行きたい。

ルース・ラング(オリヴィア・ウィリアムズ)
エメット(トム・ウィルキンソン)

THE GHOST WRITER
監督:ロマン・ポランスキー
(2012/02/26 あたご劇場)

幻影師アイゼンハイム

欺されて爽快。
映画も手品も欺されて嬉しいお茶屋にピッタリ。
警部(ポール・ジアマッティ)、あなたもそうですね。真相が閃いて「やられた!」と振り返る嬉しそうな顔。その顔を見て私も心の底から嬉しくなった。

平民アイゼンハイム(エドワード・ノートン)と貴族ソフィ(ジェシカ・ビール)の身分違いの恋は、悲恋に終わるのが当たり前で、いと浪漫ちっく。警部の平民魂にも共感できる。
悪者皇太子(ルーファス・シーウェル)は冤罪なんだけど、それまで散々悪いことをしているから、同情の余地がなく、これまた爽快。
人を欺くならこの映画をお手本にしよう(^o^)!

THE ILLUSIONIST
監督:ニール・バーガー
(シネマ・サンライズ 2012/02/26 蛸蔵)

マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙

首相まで務めた母マーガレット(メリル・ストリープ)の老いと病に、涙目の娘キャロル(オリヴィア・コールマン)は何思う。見所はメリル・ストリープだけだろうと思っていたら、意識の混濁の境界線が上手く描かれていて思いのほか面白かった!自分が呆けつつあるのを自覚できているというのがにゃんとも!
格差社会創設(又は増強)の立役者の一人で、UK映画で良く言われたことがない人物ってことで浮かんだ感想は、「庶民の出だったの。知らなかった。」「紅一点だったのか。知らなかった。」「鉄の女は弱きをくじく。」など。
衣装の青、青。若手俳優から中高年俳優への移行に違和感なし。若手俳優、よかったよ。

デニス(ジム・ブロードベント)
若マーガレット(アレクサンドラ・ローチ)
若デニス(ハリー・ロイド)

THE IRON LADY 監督:フィリダ・ロイド
(2012/03/17 TOHOシネマズ高知3)