北の桜守

吉永小百合のスタア映画だった。夫役の阿部寛がなかなかの貫禄で夫婦として違和感がなかったのに感心した。
小百合さんの映画だと思って観に行った母は、堺雅人が出ていたので「儲けた!」と思ったそうな。
その堺雅人は、いつもの(?)優男ではなく猛烈経営者を演じて、これまた違和感なし。
樺太からの引き上げ、飢え、闇米、シベリア抑留、高度経済成長、母子愛の大河浪漫。

樺太からの引き上げの描写は、母から聴いた満州からの引き上げを思い出した。母は引き上げ時に二人の兄を亡くしており、祖母はもぬけの殻のようになっていたと話していた。
引き上げ時の描写で一つだけ惜しいと思ったのは、横死した人から食べ物を拝借する場面で、食べ物をポリ袋に入れていたこと。ここは新聞紙か油紙でないと雰囲気が出ない。

映画中の舞台劇部分は、チャレンジだと思った。ケラリーノ・サンドロヴィッチの演出が面白かった。通常の映画部分は登場人物に感情移入しやすいが、舞台劇で物語進めていく部分は登場人物の人生を客観的に見ることになる。こんな風にされると、単に主人公の人生を見て終わりではなく、演劇でも映画でも口伝でも「この物語」を語り継いでいく必要があると作り手が言っているように感じた。
(2018/03/11 TOHOシネマズ高知2)

シェイプ・オブ・ウォーター

シェイプ・オブ・ウォーター
エロティック、バイオレント、ビューティホー!色んなものが隅々まで美しかったが、特に緑色が美しい。水底のヒンヤリとした心地よさが伝わってくる。劇場周辺の落ち着いた臙脂の温もりもいい。イライザの魂の叫びに圧倒されたし、ラストシーンの美しさに涙が出た。孤独を癒してくれるもの、生きる力を与えてくれるものが映画だというのもいいし、劇場のうえに住まいがあるなんて、映画ファンからしたら夢のよう。昔、ティム・バートンが出始めの頃は、彼が「妖怪人間ベム」を見たら何と言うか聴いてみたいと思ったものだったが、ギレルモ・デル・トロにも聴いてみたい。

心が通じ合うというのは何と素敵なことか。一方、さかなクン(ダグ・ジョーンズ)を始め、イライザ(サリー・ホーキンズ)をいたぶるだけではなく、博士(マイケル・スタールバーグ)への拷問ばかりか妻とのセックスにおいても思い遣りのかけらもないストリックランド(マイケル・シャノン)を理解しがたい(『パンズ・ラビリンス』の将軍を思い出す)。どうしてこんな人物になったのか。もっと映画を見ていれば情けも育まれたろうに。

イライザの友だちの絵描き(リチャード・ジェンキンズ)と同僚(オクタビア・スペンサー)も寂しさを抱えた人たちだ。絵描きの視点で語られるおとぎ話は、私たちにも力を与えてくれる。さかなクンとイライザは、遠い水の国で仲良く幸せに暮らしているにちがいない。
(2018/03/03 TOHOシネマズ高知2)

グレイテスト・ショーマン

さすがミュージカル。リズミカルにとんとんサクサク話が進んでイイ感じ。
ハートはあるし(貧乏な人、のけ者にされている人、虚ろな人の気持ちが伝わってきた)、音楽もいいし、空中ブランコ乗りの黒人女性(ゼンデイヤ)と名をなした脚本家(ザック・エフロン)である白人男性のデュエットシーンは名シーンだし(エフロン/ジャックマンの居酒屋シーンも楽しかったし)、なかなかよかった。
良妻賢母のチャリティがミッシェル・ウィリアムズだったとは気がつかなかった(^_^;。好感を持てる役を初めて見た気がする。
ヒュー・ジャックマンは、山っ気のあるバーナムを演じてスマート。当たり障りのない、ほどほどの山っ気だった。(若い頃のゲイリー・オールドマンが演じたらどんなになるか(笑)。)
(2018/02/27 TOHOシネマズ高知4)

ビガイルド 欲望の目覚め

この題材をソフィア・コッポラが?と思いながら、好きな監督なので観に行った。で、驚いた~。スクリーン6で上映されていたのだ。このシネコンで2番目に多い座席数だゾ。そんなに集客力があると思ったの?『シェイプ・オブ・ウォーター』は、少ない座席数のスクリーン2で上映されていたし、どういう読みをしているのかサッパリわからん。まあ、それを言いたいために書き始めたようなものだ。

作品の方は思ったとおりで、特にどうということもなく。女のドロドロをやってみたかったのかもしれないが、ソフィア・コッポラにかかるとサラサラになっちゃう。南部のレディーの窮屈さは出てたかな。怖がる人々の恐ろしさも出てた。エドウィナ(キルスティン・ダンスト)を見ていると、淑女がスパークするのをやりたかったのかな。北軍兵士マクバニー(コリン・ファレル)は、バカみたいに単純だった。絵画のような絵作りはよかった。
(2018/02/27 TOHOシネマズ高知6)