C階段

eiga.comの藤山直美に阪本順治監督がヘアヌード要請!?「このおっさん、何考えているか分からへん」を読んで笑った。『顔』以来16年ぶりのタッグという新作『団地』、見たいな~。
その記事の下あたりにイザベル・ユペール主演、フランスの団地映画「アスファルト」9月公開というのもあった。「団地」つながりで2本立てにしてもらえたらイイな~。フランスにも団地があるのか、パリのアパートとはまた違うのかな?などと思いを巡らせているうちに、思い出したのが『C階段』(ジャン=シャルル・タケラ監督/1985年)だ。

C階段趣は異なるけれど日本の長屋話みたいな人情もの。皆の共有スペースである階段が長屋の井戸端にあたると思えばいいだろうか、C階段を使う住人の悲喜こもごもが描かれている。
主人公の若造(気鋭の美術評論家)がなかなか魅力的だ。エライ生意気で「ボッシュ礼賛、ルノアール痛罵」、とんがっていて(金持ちのぼんぼんというのを隠している)皆に嫌われそうなんだけど、育ちのよさでしょうかねぇ、ワルぶっても憎めなくて人の良さが透けて見える。でもって子どもには懐かれてしまう(^Q^)。

ボッシュ 快楽の園この映画で初めてボッシュという画家を耳にした。気持ち悪いけど、笑っちゃうくらいに面白い。

ルノアールの方は聞いたことも見たこともあったけれど、その頃の私は主人公と同じくルノアールのよさがまったくわからず、その生ぬるさが嫌いで、裸婦像のありえない豊満さに引き気味だった。(今となっては「ありえないこともない」と身をもって感じているが。)だから、ルノアールに関しては主人公に同感だったわけだが、C階段で人にもまれて角が取れてきた主人公は、「じょうろを持つ少女」を見て感動し、素直な涙を流すのだ!更に驚いたことに、私までも「ルノアールっていいなぁ」と感動していたのだ。それほど「じょうろを持つ少女」は美しかった。輝いていた。以後、私のルノアールを見る目は変わった。

この仕掛けというか演出は、その頃から感じていた。C階段とアパートは暗く閉塞感(セットっぽい)があるけれど、「じょうろを持つ少女」は明るく開放感のあるシーンになっていた。もう忘れてしまったが、音楽も付いていたかもしれない。とにかく、この絵を美しく印象的に見せることに作り手はかなり心を砕いていたと思う。おかげでルノアールの絵の大らかさ温もり、日常(人生)への肯定感を感じ取れるようになった。

ラストシーンは主人公が遺灰を撒くシーンだったと思う。遺灰撒きシーンで今思い出せるのは『C階段』『君がいた夏』『マディソン郡の橋』くらいだ。コレクションしていたのに・・・、やっぱり記録していかないとダメだなぁ。

人情もの、主人公のキャラクター、ルノアール、遺灰撒き。映画史に残らなくても大好きな作品だ。

じょうろを持つ少女

2015年覚書(マイ・ベストテン)

いや~、心の余裕、大切ですねぇ。2015年は若干それが減ってしまい、日本映画26本、外国映画28本だった。心の余裕が「なくなった」とは言えない本数だ。かるかん率63%。

毎年、好きを基準に選んでいるベストテンは、10本にとどかず次の2本だった。

2本とも全編にわたりハイライトシーンがつづき(それが徒とならず)、数々のシーンが印象に残っている。特に『百日紅』は、型に嵌らず自由で美しく、見ていてとても楽しかった。

ベスト・キャラクターは、『ヴィンセントが教えてくれたこと』のロシア系美女ダカ(ナオミ・ワッツ)だ。口は悪いし、態度はでかい。ねぐらはいずこのド貧乏。クスリを現金に換える道に通じているし、ちょい悪のヴィンセントとは腐れ縁。しかし、身重の身体でハードな仕事をこなし、心の根のよい頼りになる人。彼女をこそタフガイと呼びたい。

『世界の果ての通学路』、通学距離や方法がいろいろで面白かった。段取りをふんだ撮影が、ドキュメンタリーとしては意外性や広がりをそいでいると思うけれど、作り手の関心事はそこにあるのか~という感じだった。共通するのは学校に行って勉強したいという気持ちと、そうすることによって未来を拓けると知っているということかな。

『進撃の巨人 前篇』、巨人の造形や戦い方が面白くて後篇も見るつもりだったけれど見なかった。やっぱり美しいものを見たいので。死屍累々及び巨人の食べ散らし方が無残である。

『ミッション・インポッシブル ローグネイション』、トム・クルーズの底力を見た!トム・クレイジーと呼びたい!ジェット機にしがみついているシーンは、予告編で何度見てもたいしたことなさそうだったのに、本編では鳥肌が立った!話はすっかり忘れたが、面白かった!ローグネイションってどういう意味か調べようと思って未だ果たせず。

太平洋戦争関係の『日本の一番長い日』(原田眞人監督)、『野火』(塚本晋也監督、市川崑監督)、『プライド 運命の瞬間』(伊藤俊也監督)を見た。いずれも見応えがあり面白かった。『日本の一番長い日』における昭和天皇や『プライド 運命の瞬間』における東條英機の描かれようを見ると、『鉄の女の涙』を見に行くかと問われて「見ないし、作らない」と答えたケン・ローチ監督を思い出す。作品の登場人物として描くと観客から共感を得るようになってしまうこともあるので、権力者は描かず歴史の評価にまかせることにしている・・・だったかな、そんなことを言っていたように思う。権力者(例えばヒトラー)も人間だもの そこのところを踏まえたうえで見るようにしたい。

名作『おとうと』を見るのは2度目。1度目からだいぶ時が経っているので、わかるようになったかしらと期待して見たが、ちっともわからなかった。なぜ、名作なのか!?

『バクマン』のハイライトシーンは、ラストのクレジット。

『黄金のアデーレ 名画の帰還』は、黄金は金塊のようなイメージがあるので、「金襴緞子のアデーレ」はどうでしょう(笑)。「金衣女人」がいいと思っていたら中国語圏のタイトルになっているみたい。『イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密』もそうだけど、副題がつくとつい「ハリー・ポッターとなんとか」や「スター・ウォーズなんとか」のように子とも向けか純正娯楽作のような感じがして、見る前はいいけど見た後はちょっとイメージがちがう感じがする。この2本は目玉となるシーンが一つあればベストテンに入れたかも。

『預言者』は、ヨーロッパの娯楽作の渋さに唸った。何者でもなかった青年が、刑務所でアイデンティティを確立していく。しかも自ら選び取ったわけではなく過酷な流れで。見た目で判断され仲間には仲間に入れてもらえず、仲間ではない方からは仲間扱いされ仲間になった。その物語に移民問題も反映されている。多分、旧(?)植民地からの移民でフランスに限らず昔からくすぶりはあったろうけど、フランスでは数年前から暴動がニュース沙汰になっていた。この映画は2009年制作とのことなので、そういう動きを受けて作られたのだろう。独房に現れた殺したはずのあの人。あの人をどう解釈するのか。あれは主人公の良心が見せた幻だと思う。自分で自分を励ましていたのだろう。だから、最後には自分自身の励ましも必要ないくらいたくましくなったってことだと思う。預言者=主人公で、主人公はアングラ組織の教祖的存在になると言うことなのかな?あんなに可愛い19才だったのに・・・・。もとの19にしておくれ~。(イスラム教徒も日本人みたいにクリスマスを楽しんでいるのが面白かった。『パピヨン』で見たのとそっくりな懲罰房も。)

PC画面でもいろいろ見た。今年はできるだけ感想を書きたい。

MUD マッド♥♥♥
バニー・レークは行方不明♥
トム・アット・ザ・ファーム♥
胸騒ぎの恋人
マイ・マザー♥
リピーテッド
パレーズ・エンド 第5話完結
ペーパーボーイ 真夏の引力(苦手)
ウィズネイルと僕♥♥♥
レイ♥♥♥
somewhere
彼女が消えた浜辺♥
ロスト・イン・トランスレーション♥
レイヤー・ケーキ♥
昼下がり、ローマの恋♥
ランナウェイ・ブルース

十九の春

ウィズネイルと僕

みーすけさんの裏!!『英国男優総選挙』 なりよーを拝読し、UK男優、いいよね~♥。というわけでUK男優見たさにレンタル。それが!
ベンチいや~、このベンチ、懐かしい~。唯一行ったことのある外国イングランドで目にしたこのベンチ。私が行ったのは1993年頃だったかなぁ、公園にこんな風に並んでいたのだった。この映画は1969年が舞台で1988年制作。もしかして、ずーっと同じベンチだったりして(笑)。映画の中では煉瓦壁の建物が鉄球で壊されていくカットが挿入されていたりするので、ちょうどその頃、いろんなものが新しいものに換わって行ったかもしれない。60年代からずーっとそこにあったベンチなのかも(UK浪漫~)。

季節は冬。ベンチのシーンは朝8時ごろ。パブが開くまであと4時間。ウィズネイル(リチャード・E・グラント)はウールのコート、“僕”(ポール・マッギャン)は革のコート。雨に濡れても泥がついても日本人のようには気にしない。
ウィズネイルロングコートはカッコいい。だけど、この二人はちょー情けなくカッコ悪い(笑)。UK男優にピッタリぢゃありませんか(^m^)。
ちょっと脅されただけでビビリまくり。あるいは脅されたわけでもないのにビビリまくり(^Q^)。特にウィズネイルってば、尊大なくせに小心で。ウィズネイルをシリアスにしたら「山月記」の李徴になりそうだ。見た目は、マイケル・キートンだと思うんだけど(?)。「俺は見た目もイイし、演技力もある。バカみたいなヤツらがテレビに出演して、やってられないよ。」
吹き替えもなかなかよかったけれど、リチャート・E・グラント本人の声の方がウィズネイルの可愛さが倍増だ。“僕”の方もけっこう可愛い。というかバスタブで髭を剃るシーンの横顔なんかノーブルだ~。売れない俳優が、うだうだしているだけの作品だからキャラクターの魅力は必須なのだ。あとモンティおじさん(リチャード・グリフィス)が善い人で、可笑しくて哀しくてとてもよかった。

さらば60年代真ん中はクスリの売人ダニー(ラルフ・ブラウン)。この人、ものすごく自由だ~!あと数週間で1970年、ダニーは言う。「歴史上、もっとも素晴らしかった10年が終わる。結局、俺たちは黒く塗れなかった。」
「Paint it black」と言えば、ローリング・ストーンズなんだろうけど、私はそれを大森一樹監督の『ヒポクラテスたち』で知った。30年以上前、高知医大の学園祭で上映されたのをわざわざ見に行って、ストーリーもほとんど忘れてしまったが、傷心の主人公が白衣を黒く塗りつぶす、そんな痛々しさが心に残っている。
・・・という話は置いといて。
就職が決まって髪を切ってきた“僕”を見た瞬間に「いちご白書をもう一度」って感じなんだけど、二人の別れのシーンからおしまいまでが胸が締めつけられるほど切ない。それまでケラケラ笑かされてたのにぃ。
雨の中、傘とワインのボトルを持ったウィズネイルが、超絶美しい!ウィズネイルの取り残され感。そして、“僕”と別れたあと、金網の向こうの狼を観客にハムレットを演じる。
ああ、やっぱり英国で役者を目指す者にとっては、この厭世王子なんだね~。モンティおじさんさえも役者を目指したことがあったというから、演劇人口の多さは推して知るべし(?)。

60年代の終焉というか、惜別というか、それは過ぎてから描けることなんだろうなぁ。

映画: ウィズネイルと僕 ブルース・ロビンソン監督作品 Withnail and I ←このページでこの映画のことを知ったと思う。
『ウィズネイルと僕』Withnail and I(1986)  ←チーキーさんの英国党宣言のページ。ワンポイント解説がありがたい。

60年代のイギリス映画、見てみたいな~。
『アルフィー』『ナック』『長距離ランナーの孤独』『ミニミニ大作戦』