塩田千春展 ありがとうの手紙

塩田千春展 ありがとうの手紙
第一会場の一部屋がまるごと一つの作品と化していた。水族館で左右と上方の魚をながめながら歩くチューブ上の通路を思い浮かべてもらったらいいかな?水族館でのガラスの向こうに当たる部分は、この作品では黒い糸が張り巡らされている。通路は回廊になっていて、中央部分には色んな人が誰かに宛てた「ありがとうの手紙」がホチキスで留められている。近くの手紙は読めるので、いくつか読んでみる。書いた人の年齢層は幅広いみたいだ。張り巡らされた糸は、あやとりのよう。一定の法則があるのか、トンネル状のカーブなど美しく見える。こんなことをよく思いつくな~。制作と撤収過程をちょっと覗いてみたい。

第二会場も奥の方に黒糸を張り巡らした作品があった。一つは家のような骨組みに糸を張り巡らしたもの。もう一つは、婚礼衣装の紋付き袴と打ち掛けを対にしたもの。婚礼衣装の方は、家の方より糸が細く、密度が高い。横から見ると衣装の前面に空間を作ってあった。そのため、糸の向こうに衣装が綺麗に見える。
奥の間には、赤い絵の具をつけた手で描いたものも三作品あった。これはあまり新規な面白さはないと思ったが、ご本人の手によるものだろうから、太陽丘とか月丘の盛り上がりが芸術家っぽいな~などと手相を見ていた。
手前の間は、指揮者台に向かって譜面台が並べられており、譜面台には透明なチューブが張り巡らせられていて、その中を赤い液体が流れている。しばらく献血に行ってないな~と思った。
何を表現しているのか考える気も起こらなかったが、とにかく、よくこんなことを思いつくな~と感心した。そして、やっぱり、制作と撤収に思いを馳せた。

Chiharu Shiota(公式)
(2013/08/03 高知県立美術館)

最終目的地

丸く収まって、めでたしめでたし。とても面白かった。
神が人間に与えると約束した土地ではなくても、自分に合った土地で暮らすのがいいよねということだと思った。同時に自分に合った土地でくらすのもいいけど、それよりも相性の良いパートナーといっしょにいるのが(周囲の者も含めて)幸せというものだと思った。

登場人物のキャラクターが立っていた。オマー・ラザギ(オマー・メトワリー)、可愛い~(^_^)。ディアドレ(アレクサンドラ・マリア・ララ)、傑作~(^Q^)。

オマーがウルグアイにやってくるまで、アダム(作家ユルス・グントの兄:アンソニー・ホプキンス)やキャロライン(作家の妻:ローラ・リニー)、アーデン(作家の愛人:シャルロット・ゲンズブール)、ピート(アダムのパートナー:真田広之)はいったいどんな生活を送っていたのか。平穏で均衡がとれた生活だったろうけど、退屈していたみたい。そこへユルスの伝記を書かせてほしいとアメリカからオマーがやってきて均衡がくずれた。パズルのピースが一つ増えて、うまく収まらないな~というところへ、オマーの恋人ディアドレもやってきて、ひっちゃかめっちゃか(笑)。

3年後、ニューヨーク(?)のオペラ劇場でディアドレとキャロラインが再会して、その会話からウルグアイ組もうまくいっていることがわかる。キャロラインもディアドレもパートナーに恵まれて幸せそうだ。パズルが完成した。いや~、めでたい。

それにしても、ウルグアイにオマーがやってきたとき、オマーとアーデンの仲をやっかんでいたかに見えたキャロラインが、実は欺されやすいアーデンを心配していたのだとわかって、ちょー面白かった。ユルスが書いた自伝的小説をキャロラインだけが読んでいる。その内容からすると、ユルスは妻と愛人の壮絶なバトルを期待していたみたいだ。だけど、現実には妻と愛人の力に差がありすぎて嫉妬心など生まれようがなかったようだ。あるいは妻が夫に不足を感じていたのか。妻には圧倒され、愛人では物足りない、ユルスの立場はーーー(笑)。妻への当てつけに自死したってこともありえはしないだろうか。
キャロラインが原稿を焼こうとしたのはなぜか。また、焼きかけた原稿を炎の中から取りだしたのはなぜか。そういうところも面白かった。

THE CITY OF YOUR FINAL DESTINATION
監督:ジェームズ・アイヴォリー
(シネマ・サンライズ 2013/07/26 高知県立美術館ホール)

風立ちぬ

夢破れても風立ちぬ。
堀越二郎(声:庵野秀明)の飛行機と女性という夢は二つとも(というか夢も愛も)破れたが、それでも生きるという話だった。追い風であれ、向かい風であれ、死なないかぎりは生きないと。(う~ん、愛に破れたわけでなく、このうえなく美しく成就したんだけど。夢も破れたわけでなく、思いどおりの飛行機は作れたんだけどね。しかし、・・・・というところがミソ。)

関東大震災のスペクタクルを始め、航空機の対比(ドイツの厳めしさ、イタリアの軽やかさ)、自然や風景の描き込みの繊細さなどなど、見飽きることがなかったけれど、この力の抜け具合は微妙~。程よい加減とみるか、平板とみるか。いいところは皆、予告編で使われたような気がしないではない。ワタクシ的には、恋愛部分が「うへ~」だったもので(^_^;。そのかわり、二郎の上司の黒川さん(声:西村雅彦)が歩くたびに、髪の毛がわっさわっさと浮き上がるのがツボだったりして。←お子ちゃま?

飛行機も道具なので爆弾を運んだり、人を運んだり。道具の作り手としては、良いことの方に使ってほしいわけで。カプローニさん(声:野村萬斎)は、人を運ぶことに使ってほしそうだったけれど、二郎はどうだろう。あの美しさへのこだわり様は、芸術家のようでもあった。(つまり役に立たなくても美しく飛んでりゃそれでイイという。それが人の命を奪うとは、二郎の気持ちはいかばかりか。芸術と戦争のベクトルは真逆だ。)

ともあれ、煙草をいくら吸っても煙たがられることがなかった近い昔(震災から敗戦まで)を背景に生きることを描いた良作だった。荒井由実の「ひこうき雲」も含めて、音楽がとても気持ちよかった。

[追記]
堀越二郎って私にはほとんど超人に思える。10年という期間限定ではあるけれど、夢にも愛にも並ではない情熱を燃やすことができるなんて凄いや。それなのにちっともギラギラしてなくて飄々としているのは奇跡のよう。(菜穂子の後追い問題。)

この作品は、美しさにこだわったファンタジーだと思う。時代背景は美しさを際だたせている。

監督:宮崎駿
(2013/07/21 TOHOシネマズ高知3)