マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙

首相まで務めた母マーガレット(メリル・ストリープ)の老いと病に、涙目の娘キャロル(オリヴィア・コールマン)は何思う。見所はメリル・ストリープだけだろうと思っていたら、意識の混濁の境界線が上手く描かれていて思いのほか面白かった!自分が呆けつつあるのを自覚できているというのがにゃんとも!
格差社会創設(又は増強)の立役者の一人で、UK映画で良く言われたことがない人物ってことで浮かんだ感想は、「庶民の出だったの。知らなかった。」「紅一点だったのか。知らなかった。」「鉄の女は弱きをくじく。」など。
衣装の青、青。若手俳優から中高年俳優への移行に違和感なし。若手俳優、よかったよ。

デニス(ジム・ブロードベント)
若マーガレット(アレクサンドラ・ローチ)
若デニス(ハリー・ロイド)

THE IRON LADY 監督:フィリダ・ロイド
(2012/03/17 TOHOシネマズ高知3)

幕末太陽傳

居残り佐平次(フランキー堺)が、走る走る走る。遊郭の廊下を右へ左へ、階段を上へ下へ。そして、ラストシーンが素晴らしい!狭苦しい墓場から脱出して、海を左に画面の奥へ奥へ、タッタカターっとみるみる小さくなっていく。「まだまだ生きるんでい!」とうセリフも最高だ。痛快さに一滴涙が混じっているのがいい。声が割れて聴き取りづらかったけれど、きれいな映像で観れて本当によかった!

おそめ(左佐知子)
こはる(南田洋子)
高杉晋作(石原裕次郎)

監督:川島雄三
(2012/03/17 あたご劇場)

恋の罪

園子温監督作品は、登場人物の性質や考えを誇張して描いているのがとても面白い。『恋の罪』も信じられないくらい無垢な菊池いずみ(神楽坂恵)が全裸で「試食いかがですか?おいしいですよ。」と連呼するところや、尾沢志津(大方斐紗子)と尾沢美津子(冨樫真)母子の毒々しい遣り取りに、いささか引きつつも面白がれたのは、「そんな人いないけどいる(人を裏返したり、まぜくり返したりし、底の方を取り出したりしている)」感じがするからだろう。

何も知らないいずみ(イブ)に知恵の実を与える美津子(ヘビ)。その二人のドラマを日常から観ている吉田和子(水野美紀)。そんな作品だったように思うが、これまで観た園作品と比べて迫ってくる力がないように思う。作り手の情熱が感じられない。詩と言葉と体験の講釈や、ゴミ袋を持ったまま収集車を追いかける主婦のエピソードなど作意が前面に出てきてしまった気がする。言い換えれば、私にとって『愛のむきだし』『冷たい熱帯魚』『ヒミズ』は、作品の勢いによって小難しい作意を目くらましされていたということだろうか。

監督:園子温
(2012/03/10 あたご劇場)

菊之助 御園座二月

弁天小僧菊之助を通しで観れる。昼夜出ずっぱりで、色悪、直侍に初挑戦。なんかチケット、余っているっぽい。というわけで、初日から1週間経った頃に観に行った。

いや~、行って良かった!登場しただけで色っぽい~。いい匂いがしそう~。綺麗で可愛くて格好よく、凛として透きとおった佇まい。見た目の美しさもあるけれど、それは、あの張りと艶のある声によるところろが大きいかもしれない。その声で河竹黙阿弥の七五調のセリフを「ビシ!」「ぱーん!」と決めてくれると気ン持ちいーことこの上なし。稲瀬川勢揃いの場での大見得、スカッとした。
白波五人男は通しで観ると、弁天小僧七変化だった。御家再興のため雌伏中の若侍に化けて千手姫(尾上右近)をたぶらかしたり、娘に化けて呉服屋で騙ったり、弁天小僧としても実父に巡り会ったり、大立ち回りの末立ったまま切腹したり。菊之助びいきとしては大満足だ。話は行き当たりばったりでも役者の魅力で十分楽しめる。
これまで稲瀬川勢揃いで捕り手を前に五人の白波が自己紹介してくれても、弁天小僧、南郷力丸以外は「?」という感じだったが、通しで観ると日本駄右衛門、赤星十三郎、忠信利平と自己紹介の中身もよくわかった(今は忘れた)。こうして一度通しで観ておくと、今後、切り取り上演でも楽しめそうだ。

初役の直侍は、客席から「カッコイイ!」と声がかかった。私の代わりに言ってくれたの?菊ちゃんは女形だけではないのだ。数年前、児雷也をやったとき、あやうく後援会に入りかけたくらい立ち役はカッコイイのだ。
侍くずれの小悪党直次郎は追われる身だが、愛する三千歳(時藏)に再会して、いっしょに逃げようかというときに捕り手がやってきて、三千歳を残し、後ろ髪を引かれる思いで逃げていく。この幕切れは胸がキュッとなるくらい切なかった。今回の御園座公演で一番感動した。
田之助さんの按摩丈賀も、このうえない人のよさで、大いに楽しませてくれた。

渡海屋と大物浦は、船問屋の女房が実は安徳天皇の乳母という役どころ。昨年、盟三五大切で、芸者に化けた世話女房という役どころを上手く演じていたので、大丈夫だろうと思っていたけれど、本人が難しいと言うだけあって、伸び代は大きいと思う。

若手が中心となった公演で、阪東亀三郎、亀寿兄弟は手堅く、中村梅枝、萬太郎兄弟は瑞々しく、尾上右近ちゃんはお顔がシャープになったわね~という感じで、皆の先が楽しみだ。

 

<昼の部 2012/02/11>
一 義経千本桜
渡海屋
大物浦
二 女伊達
三 雪暮夜入谷畦道き
直侍

<夜の部 2012/02/10>
一 青砥稿花紅彩画 白波五人男
序幕  初瀬寺花見の場
神輿ヶ嶽の場
稲瀬川谷間の場
二幕目 雪の下浜松屋の場
同蔵前の場
稲瀬川勢揃いの場
大詰  極楽寺屋根立腹の場
同山門の場
滑川土橋の場