トーベ

友だちにムーミンシリーズはアニメと異なり面白いと遠い昔に薦められたが読んだことはなく、挿絵を見て繊細でいい絵だと思うだけだった。この映画で「ムーミントロール」のお話が少しはわかるかもしれないと期待していたが、トーベ(アルマ・ポウステイ)の話であってムーミンの話ではなかった(やっぱり)。
トーベの父ビクトル(ロベルト・エンケル)は著名な彫刻家、恋人アトス(シャンティ・ローニー)は社会主義の議員、もう一人の恋人ヴィヴィカ(クリスタ・コソネン)はブルジョアの舞台演出家。恋愛については恋人が二人いるだけあってキスシンーンガ多くやや引き気味(^_^;。むしろ確執のあった父との関係がパターンではあるが、もらい泣きだった。

ムーミンのようなイラストは芸術ではないというのが父ビクトルで、その影響を受けてトーベも絵画作家は芸術家、ムーミンのような絵とお話を売るのは芸術家ではないという認識だったようだ。なんとなくわかるような気もする。イラストレーターはアーティストだと思うけれど芸術家と呼ぶのは何かちょっと違う感じがするから。ただ、トーベが「作品は私自身よ」と言っていたようにムーミンの絵もお話も彼女自身だと思う。ムーミンは発表するつもりではなかったものだから尚更のことと思う。ヴィヴィカが「煙草を吸う女性」の絵を大好きだと言ったときと、ムーミンを上演して大成功を収めたときのトーベの喜びはいかばかりか。父に認められなかった自分がヴィヴィカに認められ大衆にも受け入れられたのだ。そして、父の遺品を整理していてムーミンの新聞連載などをスクラップしていたことを知ったとき、そう、そこが泣き所。間違いない。

世の中には心が不自由な人がいる、というかどんな人も時と場合によって自由になったり不自由になったりなんだろう。トーベは比較的自由な人だ。自分の感情に正直で環境(人間関係)も自由でいさせてくれるラッキーなものだった。芸術も恋愛も思いどおりにはならないが、区切りをつけて新たな一歩を踏み出すことが自由ってもんよという映画(トーベ)だったように思う。
(2022/04/01 あたご劇場)

ナイトメア・アリー

お金を掛けたデルトロ節。『デビルズ・バックボーン』の昔からホルマリン漬けが好きだなあ。(クライマックスはうへぇと思いながらも全体的に)面白く見た。上映時間の長さを感じさせられたわけではないけれど、この話なら2時間弱にしてほしかった。また、不満があるわけではないけれど、スタンをブラッドリー・クーパーより翳りのある俳優が演じたら「哀しみ」がプラスされたかも。だけど、それはピート(デヴィッド・ストラザーン)と被ってしまうから、やはりこのままでいいのだろう。ピートとジーナ(トニ・コレット)のカップル、いいなぁ(^_^)。
人の心を操る楽しさ(全能感と金儲け)と恐ろしさを描いていて、どんな因果があろうともそれは悪いことだとハッキリきっぱりの健全な娯楽作。やっぱり、ギレルモ・デル・トロ監督作品は良い。
エズラ(リチャード・ジェンキンス)、恐かった。こういう業を背負った人には近づかないに限る。リチャード・ジェンキンスは素晴らしい役者だ。今更ながら気がついた。
(2022/03/28 TOHOシネマズ高知3)

福富太郎の眼

感想を書く時機を逸してしまったが、よかったのでやはり書いておこう。
個人のコレクションをこうして披露してくれるのは本当にありがたい。「妖魚」(鏑木清方)なんて何とも惹きつけられる作品を作者は失敗作と言っていたとはビックリ。批判された作品だそうで時代が作者にそう言わせたのだろうか。それを福富さんは評価してコレクトしているのだから、時代に囚われない眼を持っていたということなのだろう。
福富さんの勉強ぶりや作家との遣り取りの様子も解説されていて、思い出したのは小夏の映画会の田辺さんだ。映画監督などと交流し、直にフィルムを借りて自主上映することもあったと聴いていた。思いがけないところで田辺さんを偲ぶこととなったのだが、福富さんや田辺さん(や山田五郎さん)のような人が作家及び作品と私たちを繋いでくれるのだなあと改めて思った。でもって、福富さんが作品を評した言葉が温かくよかったので、著作も読んでみたいと思った。

鏑木清方では「京橋・金沢亭」が意外に好きだった。落語を聴きに来た人たちの様子をスナップ写真のように捉えた作品で味わい深い。ちょっと欲しいと思った。

「軍人の妻」(満谷国四郎)なんて、実物を見れるとは。印刷物では背景と喪服の境がわかりやすいのだが、実物は下の方のシャープな白い線がひるがえった衽(おくみ)であることに気づいてから喪服が浮かび上がった。涙の方は印刷物ではよくわからず、実物で初めて気がついた。

「お夏狂乱」は池田輝方と鳥居言人の二作品あった。池田の方は菊の着物に柳の襦袢で呆けた感じ、鳥居の方は百合の着物にしだれ柳の襦袢で凄みのある感じ。いずれも着乱れて背景は秋だ。凄みのある方がドラマチックで訴えかけるものがあると思ったり、呆けた方が真実味があるかもと思ったり。

萩の庭で猫を抱いた女性が見つめる先には蝶。「秋苑」(池田蕉園)で何を見ているかわかったときは嬉しかった。

「道行」(北野恒富)、綺麗、カッコイイ、好き♥。

着物っていいな。季節感があるし模様を見ていても飽きない。木綿や絹の質感の描き分けは流石プロの絵描きさん。
(2022/02/14 高知県立美術館)