悪魔のいけにえ

複数の人から別々に「『ソウ』(シリーズ)が面白かった」と勧められても見たいと思わないし、『ウィッカーマン』は好きだけど『ミッドサマー』はウワサを耳にして見に行くのをやめた。『クワイエット・プレイス』でさえ見たくないし、『悪魔のいけにえ』などもってのほか。
ところが、怖いのが苦手な映画友だちが数年前に見て「面白かった可笑しくて笑えた」と言うので、それなら見てみようと思っていたところだった。
しかし、思ったとおりの映画だった(ToT)。
いや、しかし、友だちの言うことも本当だった(゚Д゚)。

実際、若者5人のうち4人は、あっさり殺されるので怖がる暇がなかった。占いで「現実とは思えないほど酷い目に遭うが、それは現実」と出ていたサリーは、あっさり殺された方がマシではないかと思えるほど怖い目に遭うが、なんか食卓のシーンあたりからは「明らかに現実じゃないでしょう」と思える余裕さえ生まれ、一撃で殺すのが得意なおじいさんが何度もハンマーを取り落とすのを見ては「おちょくっているのか(笑)」と確かに可笑しかった。一家の皆さんは、意外と邪気がなかったりして、なかなか可愛らしいと思う。

それにしてもホラーの登場人物は、無頓着にやばそうなところへよく行くものだ。そうしないと話が始まらないからだけど、「やばそうセンサー」がいかに大切か、やばいと思ったら引き返す勇気がどれだけ必要かとマジで思う。
そして、ホラーのお約束「むじな」。のっぺらぼうから逃げ出して助けを求めた人に「こんな顔ですかい?」と言われて、のっぺら顔を見せられるという。本作もちゃんと「むじな」を踏襲。
考えてみれば、あのあたりでガス欠になったら、5人のような運命をたどるということか。ガス欠をあまく見ない方がいいと思った。
(2021/08/21 高知県立美術館ホール)

怪談雪女郎

う~ん、約束は守らんといかんねぇ。
与作(石浜朗)が山で遭った雪女(藤村志保)は、彼に一目惚れ。他言無用を約束し、殺されずにすんだ。
約束を守りさえすれば、恋女房と愛息としあわせに暮らせたのに。でも、そうすると別れのときの雪女の慈悲の表情を見ることもなく、受注した観音像の顔のモデルがないということになり、彫りあげることが出来なかったかもしれない。人生、すべてが好カードというのは難しい。

怖い怖い雪女も恋をするといじらしいし、子どもを育てると善き母だ。愛する夫と子どものために能力を隠して大人しく暮らしているのに、魔を察して湯玉を掛ける巫女さまが憎らしい。
大映作品はなぜかエロティックなイメージがあるけど、本作も与作とゆき(実は雪女)の新婚初夜の様子や、ゆきの脱げかけた着物からのぞく白い肩や、いろんな所作がたおやかで官能美が匂う。昔の映画のよさだと思った。
雪女の金色の目や睨みは怖いと言うより綺麗だった。辷るように移動していくが、台車か何かに乗っているのだろうか、それとも能のような足運びをしているのだろうか。

ぜんぜん怖くなくて最後の別れが哀しいくらいの作品だけど、雪は美しいが人の命を奪う恐ろしいものという自然を畏怖する人間が生み出した怪談・悲恋物語として楽しめた。
(2021/08/21 高知県立美術館ホール)

映画で覚えた外国語

やっぱり英語が多いです。


コブクンカー(タイ語「ありがとう」):織田裕二主演の『卒業旅行 ニホンから来ました』という能天気な映画で。男女でありがとうの言葉が異なるそうで、「コブクンカー」は女性が言う「ありがとう」だったと思う。

スパシーバ(ロシア語「ありがとう」):『誓いの休暇』で。どんなシチュエーションだったか忘れてしまった。まさに「ありがとう」の場面で言われていたと思う。若い兵士が休暇中に帰郷するんだけど、帰る途中でいろんなことがあって、やっと帰り着いたら母と一目会っただけでもう部隊に帰らないと休暇が終わっちゃうというお話。母と抱き合うシーンが無音で感慨深い・・・・って記憶のねつ造かもしれないが、名作!

ヴィジョン(英語、いっぱい意味がある):『バグダッド・カフェ』でvisionの本当の意味がわかったような気がした。それまでは「見晴らし」とか「青写真」とか漠然として意味をつかみかねていた。ジャスミン(マリアンネ・ゼーゲブレヒト)がモデルとなってルディ(ジャック・パランス)が絵を描く。ジャスミンが、その絵を見て一言「ヴィジョン」と言う。それで「見通し」とか「吉兆」とか、とにかく時間も空間も遠くの遠くまで見えて明るい感じ、辞書には載っていないかもしれないけれど、そういう意味を感じた。お話はアメリカ旅行中に横暴な夫と別れた失意のジャスミンと、家族がらみの鬱憤やカフェの切り盛り虚しく涙に暮れるブレンダ(CCH・パウンダー)が、お互いになくてはならない者同士になっていく過程を描いている。ドイツ人であるジャスミンが、ブレンダの供したコーヒーを薄いと思ったのだったか、ジャスミンが持っていたポットのコーヒーをブレンダが濃いと思ったのだったか、アメリカのコーヒーって世界的に薄いとわかった作品でもあった。

マミー(英語「ミイラ」):友だちと大英博物館へ行ったとき、閉館までの1時間で何を見たいかというと皆ミイラだった。博物館は広大でミイラがどこにある(いる?)のか係の人に聞かないと、あっと言う間に閉館になってしまう。4人のうち英語が出来るのは唯一人。「ミイラって英語で何だっけ???」、あせる友だちに答えることが出来たのは『世にも不思議なアメージング・ストーリー』を見ていた私だった。オムニバス作品で、その中に「パパはミイラ」という話があったのだ。英語圏の観客には「パパはマミー(母さん)」とも聞き取れて、きっと面白いんだろうなと思った記憶がある。

プロビデンス(英語「神の摂理」):アラン・レネ監督で、ダーク・ボガード、ジョン・ギールグッド、エレン・バースティンの豪華キャスト『プロビデンス』。調べたら「(神の)摂理」という意味であり、米国ロードアイランド州の州都でもあった。映画を観始めた頃の鑑賞だったので見ている間中「???」だったが、あちらにいた人が次のカットではこちらにいたりと映像表現を駆使した格好で、そういうのも初めてだったので非常に刺激的だった。そして、人物の関係などの「???」がラストシーンでわかって、アハ体験の快感がありとても面白かった。まるで悪夢(?)のような不可思議さは、スクリーンでの鑑賞がふさわしく、再映されたら是非観たいが、それほどの作品ではないみたいで、あまり話題にもならない(検索したら1977年のセザール賞作品賞などを受賞している)。

オーディナリー・ピープル(英語「普通の人々」):ロバート・レッドフォードの初監督作品『普通の人々』。今なら邦題も『オーディナリー・ピープル』としているかもしれない。

コンペティション(英語「コンクール」):当時の旬の俳優エイミー・アービングとリチャード・ドレイファス共演の『コンペティション』。ピアノのコンクールで出会った二人は、ライバルだけれど恋に落ちる。色々葛藤がある面白い作品だったと思う。映画史に残らないかもしれないけれど、もう一度観たいなぁ。初めて聴いたピアノ曲が耳に馴染みよく、作曲家プロコフィエフもこの映画で知った。プロコフィエフって本当にキャッチーなメロディばっかり。

ノーバディズ・パーフェクト(英語「完璧な人はいない」):『お熱いのがお好き』のあまりにも有名な最後のセリフ。爆笑して映画館を後にする。監督・脚本のビリー・ワイルダーの墓碑にこのセリフが刻まれているのは、ずっと後になって知った。

パンソリ(朝鮮語「パンソリという芸能」):韓国版旅芸人の記録(?)『風の丘を越えて』。歌で物語を語るパンソリという芸能があることを初めて知った。日本の浪曲を思い出して少し似ていると思った。また「恨」という意味を初めて意識させられ、わからない(今もってよくわからない)と思ったことだった。初めて観た韓国映画と言ってもよく、感動したし、風の丘を遠くからこちらに向かって主人公たちが歩いてくる値千金の素晴らしいショットがあり、名作だと思う。

パピヨン(フランス語「蝶」):胸に蝶の刺青があるから『パピヨン』と呼ばれていた囚人が主人公の作品。主演はスティーブ・マックイーン、親友役はダスティン・ホフマン。小学校6年生のとき見て、ゴキブリを食べるところとラストの波間に消えていくところが印象に残っていた。リバイバルで見てその面白さがやっとわかった。小学生の頃は併映の『ドーベルマン・ギャング』の方が面白かった。映画館を出ると真っ暗になっていて、なぜかわかるまでの間の不思議体験もいい思い出だ。

アポカリプス(英語「黙示録」):『地獄の黙示録』で知った言葉だけれど、『X-MEN:アポカリプス』とか色々タイトルに使われているみたい。メル・ギブソン監督の『アポカリプト』の意味を検索したら、ギリシャ語で「新たな時代」を意味すると一般社団法人ラテンアメリカ協会の『アポカリプト』のページにあった。

ホワイト・トラッシュ(英語、くず(貧困層)の白人):蔑称というか自嘲というか、使うのは慎重にした方がよいと思った言葉。エミネム主演の『8mile』で覚えた。2002年の作品で、当時アメリカで貧困層といえば黒人とばかり思っていたので驚いた。無知は罪。以後、アメリカ映画でトレーラーハウスで暮らす白人などを目にすることが増えていったと思う。

花シリーズ

もう何度も書いたような気がするけど(^_^;。

オランダー(英語「夾竹桃」):『ホワイト・オランダー』で。毒のある植物、夾竹桃。白い夾竹桃が象徴するのは、ミシェル・ファイファーが演じる美しい母(毒親)で、娘が母の影響を離れ独立していくお話だったと思う。

マグノリア(英語「木蓮」):『マグノリアの花たち』は、よい俳優ぞろいだったと思う。映画初出演のジュリア・ロバーツはアメリカ南部の出身なんだろうか?この映画も南部が舞台だし、他にもいくつかあったような気がする。『プリティ・ウーマン』『エリン・ブロコヴィッチ』など元気印のイメージの彼女だが、糖尿病の色白女性を演じていた。糖尿病の発作の応急処置に甘いジュースを飲んでいた場面があったような気がするけど、応急処置として正しいのだろうか?

ランブリングローズ(英語「つるバラ」「奔放なローズ」):『ランブリング・ローズ』で。一つの言葉にいくつも意味があるのは、日本語も外国語も同じだ。ローラ・ダーン演じる家政婦は奔放で身持ちが悪いということになっているが、自由で自然な人という捉え方をしているのが本作の善いところ。タイトルバックは、つるバラが蔓を伸ばして花を咲かせていくアニメだったと思うが定かではない。優生保護法が記事になるたび本作を思い出すのは、身持ちが悪いから避妊処置をされそうになるのを阻止した人を演じたのはローラ・ダーンの実母というエピソードがあるからか。アメリカではとっくに優生保護法みたいなのは廃止されていたと、この映画で知ったような気がするんだけど。

原題シリーズ

コクーン(英語「繭」):ロン・ハワード監督の『コクーン』。繭の中で老人が若返る話だったと思うけど、淀川長治さんがけっこう気に入った作品じゃなかったけ。この映画を観ていたから、渋谷のコクーン・シアターへ入ったとき、「なるほど繭みたい」と思えた。
パッチギ(朝鮮語「頭突き」):『パッチギ』で。
アジョシ(朝鮮語「おじさん」):『アジョシ』で。
ビルボード(英語「広告板」):『スリー・ビルボード』で。
グラビティ(英語「重力」): 『ゼロ・グラビティ』。通信システムの4Gとか5GはgenerationのG。
インビクタス(英語「不屈」):『インビクタス 負けざる者たち』で描かれたネルソン・マンデラ(モーガン・フリーマン)は正に不屈の人だった。ラグビーのワールドカップが自国で催されるのを利用して人種の融和作戦を試みる。決勝戦当日、会場上空を旅客機が飛んでいくのを捉えたショットが印象に残っている。あのワンカットで気分が上がり、決勝戦に臨めた。『米軍が最も恐れた男 その名は、カメジロー』を観たときも民主主義について考えるときも「インビクタス」という言葉が頭に浮かんだ。
エネミー(英語「敵」):『エネミー・ライン』。俳優を引退したジーン・ハックマンは、どうしているだろう。
テルミン(ロシア語、テルミンという楽器):『テルミン』を演奏したことはないが、口まねは出来る。
ギフト(英語、贈り物という意味の他に「天賦の才」):『ギフト』を観るまで「贈り物」の意味しか知らなかった。
ペイシェント(英語「患者」):『イングリッシュ・ペイシェント』で。patientは形容詞だと「忍耐強い」という意味があるそうな。今、知ったけど名詞だと「受動者」という意味も。受け身の人ということかな?それなら、どんな映画だったかもう一度観てみたい気はする。レイフ・ファインズが「受け身の人」、いいねぇ(笑)。
シャロウ・グレイブ(英語「浅い墓」):『シャロウ・グレイブ』で。
ミミック(英語「擬態」):『ミミック』は、初めて観たギレルモ・デル・トロ監督作品。時計屋の親子がしっとりイイ感じ。『デビルズ・バックボーン』もお気に入り。
サイダー(英語「りんごの発酵酒」):「サイダー」というと甘い炭酸飲料しか知らなかったが、『サイダーハウス・ルール』で英語圏ではりんご酒のことだと知った。フランス語ではciderをシードルと読むみたい。飲んでみたいと思ったことを今の今まで忘れていたが、思い出してしまった。
ムーラン・ルージュ(フランス語「赤い風車」):映画『ムーラン・ルージュ』で覚えたのか、ロートレックの絵で覚えたのか。

歴史シリーズ

リーベンクイズ(中国語、日本鬼子、日本の悪魔、日本兵のこと):ドキュメンタリーの『日本鬼子 日中15年戦争・元皇軍兵士の告白』と、チアン・ウエン監督・主演で香川照之出演の『鬼が来た!』で頭に定着した言葉。中国語と言っても北京語、上海語、福建語、広東語などは方言と言っても意思疎通できないレベルらしい。香港映画でおなじみの広東語は抑揚が激しいが、一度通りすがりで耳にした中国語が流れるように耳にやさしく、(映画でいろんな国の言葉を耳にするが)一番美しいと思った。

ゾンダーコマンダー ゾンダーコマンド(ドイツ語、強制収容所における特任部隊員):『サウルの息子』でユダヤ人がゾンダーコマンダーをやらされ、同胞を殺したり、遺体を焼いたりしていたことを知った。写真やメモを埋めて隠して、自分たちがやらされたこと、したことの記録を後世に伝えようとしていたことは、町山智浩さんの解説で知った。

シュタージ(ドイツ語、東ドイツにおける日本の特高みたいな部署、秘密警察?):『善き人のためのソナタ』で。人間は古今東西、似たようなことをしてきたのだなあ。

その他

アロー(フランス語「ハロー」):フランス映画で登場人物が電話で話し始めるとき「アロー」と言っていて、ああ、本当にハ行は発音しないんだと確認できた。

ニエット(イタリア語「否」):何年も前のパゾリーニ特集で。

(おまけ)
ヒミズ(日本語、モグラの仲間、閉じこもって人前に出ない人、12月31日(吉日と決まっていて日を占う必要がない日)):園子温監督の『ヒミズ』で。

キネマの神様

面白かった。役者が皆イイのだ。
ジュリーは志村けんを思いながら演じたんだと思う。驚くほど志村けんだった。

新型コロナウィルスが登場した現在、78歳のゴウ(沢田研二)が若い頃(菅田将暉)映画監督を目指していたというのは良いとして、若い頃って1960年代だと思うんだけど、私のイメージでは1950年代に見えた。桂園子(北川景子)のような女優さんは、60年代までかな。70年代とそれ以前はぜんぜん違うと思うけど、50年代と60年代はあまり違わないのかも(?)。そう思えば納得。

ほんと、役者がいいので配役を書いておこう。そうすると、いいところを思い出せる。
ゴウの妻、淑子(宮本信子/永野芽郁)、娘(寺島しのぶ)、孫(前田旺志郎)
テラシン(小林稔侍/野田洋次郎)、出水監督(リリー・フランキー)

気になったのはテアトル銀幕の男子小用便器。いまどき、あそこまで汚す必要があったろうか?
(2021/08/06 TOHOシネマズ高知4)