茜色に焼かれる

とてもよかった!
茜色の堤防を母子が自転車で行く。支えは互いに対する想いしかない、この先を考えると途方に暮れる。茜色の美しい空、暮れていく空が、本当のラストシーンだと思う。その後はおまけで、作り手がお客さんに明るい気持ちで劇場を後にしてもらおうとしているのだと思う。

息子純平(和田庵)が13歳というのが微妙な線で、まだまだ子どもらしい今は「母ちゃん好き」と言ってくれるけれど、その後はどうかわからない。もう少ししたら母ちゃんに酷いことを言うかもよ。もし、作り手が純平の立場だったとしたら、この映画は母ちゃんに対する「ありがとう」と「ごめん」なのかもしれない。すごく立派な感謝と罪滅ぼしになったと思う。それだけ母ちゃん田中良子(尾野真千子)のキャラクターが立っていた。人としての筋を通し、息子命で健気で面白く、ド迫力のある人を嫌う人はいないでしょう。ケイ(片山友希)との居酒屋の場面は出色。また、純平の愛の証しの跳び蹴りも。即行で新型コロナ禍の状況を織り込んで作っていることにも感心した。冒頭に出てくる字幕「田中良子は芝居がうまい」が本当かどうか、実生活でも演じているのかどうか、最後の最後まで効いているのも面白かった。

サブタイトルで家賃や飲食代の金額が出てくるのは、お金に縛られる「心の不自由」を表していると思う。お金がなければ寝る間もない。心の不自由な人が溢れている。心の不自由を自覚している人はどれだけいるのか。

純平のアゴのほくろは父ちゃんゆずり。父ちゃん役のオダギリジョーのアゴにほくろがあったと思うから。(検索したら庵くんのアゴにもほくろがあった!)
(監督・脚本:石井裕也 2021/05/24 TOHOシネマズ高知1)

ルオー、シャガール、石元泰博

生誕150年 ジョルジュ・ルオー「ミゼレーレ」展

ルオー「ミゼーレ」展の広報ハガキ

父親の死がきっかけとなった制作は1922-27年だけど出版は1948年。何度も作り直したり、原画を預けていた人が亡くなったり、その遺族と訴訟になったり、戦争もあったし、というわけで。
第一部は「ミゼレーレ」、第二部は「戦争」からなる58枚の版画は、短辺でも35cm前後で60cm四方に収まる大きさ。当時の機械で刷れる最大の大きさだそうだ。気合い入ってますなぁ!という感じで力のある作品群だ。だから、同調して気が滅入りそうになったりするのだが、きっと良い作品なのだろう、穏やかで温かみがあるしユーモアさえ感じることもあり、疲れなかった。
47枚目の「深き淵より…」は、手前に横たわる人がいて、そのそばの壁にはキリストの顔の絵が掛かっている。壁の途切れた左端はこの家の入り口に向かう通路だろうか、遠景として両手を挙げた人影がうっすらと見える。映画でよくあるゲシュタポに踏み込まれたユダヤ人を連想するが、手前に横たわる人(死んでる?)はキリスト教徒だ。一人の人物の内面を描いた絵が多い中、劇的な一枚だ。
44枚目の「我がうるわしの国、どこにあるのだ?」は、とてもわかりやすい。一目見て戦争でめちゃめちゃになった町に残った建物と死体の山だとわかる。一瞬「うわっ」となったが、屍の向こうの建物の二つの窓に一つの入り口が人の驚いた顔に見えて、それが並んでいるものだから「クスッ」となってしまった。高い建物は窓がいくつもあるが、それも顔に見えてしまった。建物が驚き嘆いていると思うことにした。
聖ヴェロニカの聖骸布のイエスの顔は美しい。キリストの顔が何枚かあるがどれも美しい。いばらの冠から流れる血が生々しいものもある。でも、57枚目の美しさには、キリスト教徒でなくても何かありがたみを感じた。ただし、全身を描いたものは左の胸が乳房に見えてしかたなかった。また、女性は母や尼さんは穏やかで良い人っぽいのだが、それ以外は悪者みたいな感じだ。男性も軍人なんかは悪者みたいな感じ。あと、肩というか腕の付き方が変だなぁと感じたものもあった。もちろん、全体的にはバランスがとれていて問題ない。太ももとか肩とか面白い描き方だなぁ。
目を伏せたり伏せてなくても伏し目がちの人物が多いのだが、瞼が白っぽく描かれているため一度白目を剥いた目(ゾンビ目)に見えてしまうと、どれもこれもゾンビ目に見えてしまい見方の修正に苦労した。
ともあれ、また見たくなる作品が地元の美術館のコレクションなのは嬉しい。尋ねると購入したのは平成11年度(1999年)とのことだった。

2021年度 第1回石元泰博・コレクション展「ヌード」

石元泰博「ヌード」展広報ハガキ

「ヌード、撮ってたっけ?」と思って行ったら、見たことがある写真もあって、見るたびに「撮ってた撮ってた」と思っているのかもしれない。主役は「女体」ではなく「形(フォルム)」だったり「形と形の響き合い」だから、ヌードと聞いてエロスとイメージする頭では「撮ってたっけ?」になるのだろう。
「六つの作品 三」は、左にあぐらをかいて俯いた女性、背後の壁の右に文字なのかシミなのかよくわからないもの、柱が中央よりやや左にある。壁の文字なのかシミなのかよくわからないものと女性は、形や質感が響き合っていて面白い。
画像は広報ハガキをスキャンしたものだが「六つの作品 一」で、乳房と石のテーブル(?)が響き合っている。石畳の石の丸みや大きさもイイ感じ。

シャガール・コレクション展「ダフニスとクロエ」第1期

ルオーも石元も面白く疲れなかったので苦手なシャガールも観る気になった。誰かシャガールの良さを教えてほしい。
(2021/05/14 高知県立美術館)

早くも梅雨

こんなに早く梅雨入りするとは。いろいろ段取りが狂うなぁ。
木香薔薇の挿し木をしていたが、失敗率100%(ガックリ)。原因はなんだろう。枝が細すぎたのか、花の培養土に挿し木したので栄養過多だったのか。水は切らしてなかったゾ。
挿し木は発根するまで水を切らしてはいけないのだ。ということは、梅雨に入ったら水の補給の手間が省ける。再度挑戦しよう。他のも色々増やしてみようかな~。

JUNK HEAD

日本語にすると「ガラクタ頭」かな?もっと短時間にまとめてほしかったが面白かった。続きを見てもいいかな。上映されたらの話だけど。
SFと言うよりファンタジーっぽいと思った。ほとんど一人で作ったというストップモーション・アニメーション。
長寿と引き換えに生殖機能を失った地上の人間界から、主人公が単身で地下のマリガン(人工だけど独自に進化して増えている生物)を調査に行き、滅亡しかけの人間を増やすヒントを得たいというお話は、そんなに面白いと思えなかった。でも、登場するマリガンのキャラクターに魅力があるし、いつも飢えている様々な地下生物のいつかどこかで見たような造形も手が込んでいて見飽きない。もちろん、地下世界の構造物やなにやらかにやらの悪夢のような暗さ汚さも可愛らしさがあって引き込まれる。
しかし、もっとも魅力的な三バカ兄弟がいない続編は寂しい予感。
(2021/05/10 TOHOシネマズ高知9)