平川恒太 Cemetery 祈りのケイショウ

大変よかった、アーティスト・フォーカス#02。
高知ゆかりの作家を県民に紹介し、作家の応援にもなる、一企画で二度美味しい。ぜひ、今後も続けてほしい。

作品の前に作家が虫食い式の試験問題みたいに一部を伏せ字にした短い文を掲示していた。この伏せ字にはもちろん作家の思う言葉があり、試験問題ならそれが正解と言うべきものだろうが、悪しき歴史を繰り返し、未知の言葉がそこに入るかもしれないという思いもあるだろうし、鑑賞者銘々の思いもあるので、正解がない謎解きとも言える。そして、この謎解きはミステリー小説が苦手な者にも楽しいものだった。
という思いになったのは、最初の作品「The Bells 広島」「The Bells 長崎」の解説を読んでからだった。文字盤に黒い絵が描かれた柱時計と別の箱の中の大きなネジを見ただけではサッパリわからなかったのだが、解説を読んでそういう見方をしていけばいいのかと眼からうろこが取れたのだ。そこから後は、自分なりの謎解きが解説と異なっていようと謎が解けないままであろうと面白くなった。「Black Square」は、「Black Squareのためのドローイング」を見なくても日の丸とわかって嬉しかったし、ドローイングの方はSFみたいで面白かった。おしまいの方では、これがコンセプチュアル・アートというものかと閃いて、初めて接したように感じた。

ほぼ一筆書きのように鑑賞していける展示の仕方もありがたかったが、圧巻は一番奥の区画全体だ。
黒い箱のうえにモービルが揺れている。そのまわりをバババーーーンと真っ黒な絵が取り囲み、区画に踏み込んで振り返った左右の壁には宇宙が広がっている。

壁の宇宙はモービルも込みで「何光年も旅した星々の光は私たちの記憶を繋ぎ星座を描く 夏の大三角」「何光年も旅した星々の光は私たちの記憶を繋ぎ星座を描く 冬の大三角」という作品。私はこの作品が一番好きだ。宇宙の星々は戦争で亡くなっていった人たちのように思える。星の素材となっている従軍記章はネットのヤフオクなどで購入したものらしく、その領収書みたいなものも貼り付けてあって金額が一つ千円もしたりしなかったり。出品者を想像したり、金額などから複雑な思いに駆られる。そういうことも含めて二つの大三角とモービルは独特の美しさがあると思った。

三方の壁の真っ黒な絵は、すべて第二次世界大戦中に「作戦記録画」として陸海軍の委嘱で制作された戦争画を引用した作品とのこと。普段、「あ~、○○が描かれている」とザッと見て終わる絵画も、真っ黒だといったい何が描かれているのか舐めるように観ていくことになる。軍人ではなさそうな人たち?おんな子どもも?自決しているところ?黒い画面に虹色のラメがキラキラして人々が星になったと言っている?そう思うと涙が出そうになる。「Trinitite サイパン島同胞臣節を全うす」だった。
虹色のラメが輝く真っ黒な絵は、その他に「Trinitite 山下、パーシバル両司令官会見図」と「Trinitite シンガポール最後の日(ブギ・テマ高地)」。「Trinitite 十二月八日の租界進駐」「Trinitite 渡洋爆撃」はあまり虹色感はなかった。解説書によると、Trinitite(トリニタイト)は、人類初の核実験(1945年7月16日実施でコードネーム「トリニティ」)で生成された人工鉱物で軽度の放射性物質とのこと。「ラメ=星」?「ラメ=トリニタイト=戦争画=遺物」?
この区画の中心にあった黒い箱は「BLACK SUN BOX」という作品で、レッドサン(日の丸)の黒歴史の核という感じ。

会場は作品の素材となった時計の音(?)がしていて、「現在、過去、未来」の「現在」という「時」を感じさせられた。
ケイショウは「警鐘」「形象」「継承」とのこと。

「死の島(広島)」「死の島(長崎)」「死の島(第五福竜丸)」「死の島(福島)」の4作品は、絵としてはぺらっとした感じなのだが、やはり段々に絵の世界が暗くなっていく内容がよいと思う。4作品いっしょにタグチ・アートコレクションが所有しているようで、よかった。
(2022/01/31 2022/02/14 高知県立美術館)

令和4年 第10回県展書道 無鑑査展と高橋雨香展

令和4年 第10回県展書道 無鑑査展

とても面白かった。
無鑑査の方々は10名で、それぞれ2作品から4作品を出品している。全部で28作品だからじっくり見ても1時間くらい。複数作品の出品だから個性を発揮しながらも同じ人の異なる雰囲気の作品を見れる。漢字、かな、漢字かな交じり、漢字の書体も色々でバラエティに富んでいる。嬉しいのは頂いた目録を片手に作品の字が読める~!目録の活字と作品の文字を見比べて「ははぁ」とわかってくるし、漢詩の読み下し文なんかありがたかった。無料でいいの!?という感じ。また来年も行こう。
(2022/01/07 高新画廊)

高橋雨香展

美術館のカフェに入ったら個展をやっていた。しかも、最終日。よいものが見れてよかった。
篆書が多く、奥の方に今年の干支の寅があって、12月に書いていたので読めて嬉しかった。雨香さんの寅はすごく可愛らしい寅だった。また、壁一面の大作には驚いた。入り口から小品が並んでいて角を曲がると大きめの「寅」と大作「飛龍」(?)が目に飛び込んでくる。ふと目を転じた窓から見える池にはヨットが浮かんでいて、その帆にも一文字の篆書。企画・製作力に感服した。また、「トンパ経典」のトンパ文字は初めて見聞きしたもので大変興味深かった。
カフェでの個展は、よいめぐり逢いの機会だ。でも、他のお客さんが座っているところの作品は遠慮があって見にくい。機会があったらまた見たいと思い、記名してきた。
(2022/01/31 高知県立美術館のマルクカフェ)

書の道 一日一歩

9月 噛み合わせ

お師匠様が「切るように(斬るように)書きなさい」と言われる。それがどういうことか、わかってきた気がする。揮毫パフォーマンス(テレビ)で紙に筆をぐりぐりとめり込ませるようにしているのを見たことがあるが、半紙に書くときもあれが必要なのだと思う。筆を半紙に沈めるというか、紙と筆先の摩擦の加減が絶妙で筆と紙が噛み合っている状態で書くと強い点画になる。長い縦画は、おおかた真っ直ぐ書けないが、筆と紙が噛み合えばどこまでも真っ直ぐな線を引ける。

摩擦の加減は、紙と墨によって違ってくる。ザラザラした紙は、墨がすぐに染みて噛み合いやすい。ツルツルした紙は、墨がある程度まで紙に染みるのを待って噛み合わせる。墨の濃度や分量も影響してくる。(夏は蒸発が激しくて硯の墨がどろどろになる。お師匠様に言われるまで水で薄めるという発想がなかった(涙)。夏の紙は湿気があるそうだが、あまり感じない。冬になると紙の乾燥を感じるかもしれない。楽しみだ。)
噛み合わせ具合は筆によっても異なるのかもしれないが、今のところあまり感じない。
新型コロナのまん坊(まん延防止等重点措置)の影響で教室はお休み。自主トレに励む。

7月 書きたいことがある

8月末締めきりの昇級試験を受けることになり、同じ文言の楷書、行書、草書の計三枚の半紙を提出すべしで稽古に励んだが、書いている文言の意味がわからない。お師匠様もわからないとのことで、どうして会報のお手本に意味を書いておいてくれないのだろうと思いつつ、自分で調べもしなかった。あまり気持ちのよろしくないことだ。

臨書用に買った本には、巻末に訳があったり、訳はなくてもページの端に読み下し文があったりで、ふむふむと思いながら稽古をしている。書いてあることの意味は大切でしょう。展覧会などで文字自体が読めなくてイラっとしたり、読めても中国語だから意味がわからず詰まらなかったりの経験を積んでいると、書より絵の方が断然面白いと思ってしまう。それでも言葉は最大の発明で最高の道具だと思ってきたので、私におあつらえ向きの趣味だと気がつき入門して本当に良かったと思った。そして、書きたい言葉があることにも気づいた。今はそれをどう書くのかイメージできないけれど、いろんな書に触れるうちにイメージも出来てくるだろう。

6月 臨書

5月 バネ

筆にバネがあることを知った。起筆でバネを生かす。収筆も次画の起筆へ向けてバネを生かす。筆の腹ばかり使うとバネが生かせない。穂先をS字型に曲げるとジャンプできる。

4月 入門

書道教室に通い始めた。月3回の全集中。帰りはスッキリ。スポーツをした後のようだ。
「永」の字が書けるようになった。2画目のハネが、ようよう出来た(ToT)。

「ミロコマチコ いきものはわたしのかがみ」展

年間の企画展などを載せたリーフレットで「海の呼吸」を見て、「よさそう」と思って行って「ビンゴ!」だった。アンリ・ルソーや田島征彦、田島征三、茂田井武など、わたし好みの系統だ。食べたもので私たちの体が出来ていたり、私たちと動植物が土や水を介して繋がっているということが感じ取れる絵からは、宮沢賢治を彷彿させられたりした。初めて知ったミロコマチコさん、閉幕までにもう一度行きたい。(こんなこともあろうかと、年間鑑賞券を買ったのだ。えへへ。)

配色がとてもいい。描かれている生き物や植物も大らかで面白い。音楽のライブで即興で描いた絵など、そのまま完成形!
雑誌の表紙や本の装丁、デパートの紙袋などなどを見ると、おしゃれ~。製品と原画が展示されていて、製品はデザイナーさんが一手間かけているのかな?いずれにしても、原画からおっしゃれ~。そりゃ、受けます、売れますって。と思っていたら売店にはグッズがたくさんあって、あれもこれもほしいな~という感じ。
生き物が擬人化されていないのもイイ。何を考えているのかわからない目が生き物の目だ。とにかく生き物は(野生動物のテレビ番組や飼い猫やなんかは)、そんな目をしている。
絵本の原画の展示の仕方は絵の迫力と擬音擬態語がうるさくて、息が詰まりそうでちゃんと見ることが出来なかった。次回は流さず見たい。
もともと金色とか印象深い作品があったが、奄美大島に移住してからの作品は金銀(?)がうまく使われていて、南の島の明るさが伝わってくる。奄美では得体の知れないものを描くようになったなぁ。

子どもの頃読んでいた絵本、人形劇の人形(?)、焼き物などの参考資料も面白かった。特にクロッキー帳(なんでもノート)は、私も作りたいと思っていた(映画のよかったシーンとか、植物のスケッチとか)が、ぜんぜん頭に浮かばないし手も動かないのでやめたことがある。日々、あふれ出るイメージを描きとめ、メモることが出来るミロコマチコさんは、やはり作家になるべくしてなった人だと思った。
(2021/08/02 高知県立美術館)