かぐや姫の物語

月は『アザーズ』の世界=涅槃なんだろう。かごの鳥となって弱っているところに本当に嫌なことがあって死にたくなる。死にたい気持ちが迎えを呼び寄せたのだと思う。お迎えの楽の調べを聴き、淡い虹色の雲を見ていると憂いのない世界が良いように思えるけれど、竹の子と捨丸の飛翔シーンを思い出すと、生き生きと生きる喜びに心が躍る。あの色彩もスピードも光も雨も、あの世にはないものだ。心ない人の言葉に傷つき、憤怒の形相で屋敷を飛び出し、丘を駆け上がり、野辺を疾走する。それだって、やはり生きるということだ。「姫の犯した罪と罰」というのが予告編の惹句だったが、生きることを諦めた(死を願った)あの一瞬が罪で、その罰として別れのときが訪れたということなんだろうか。90分くらいに凝縮したらよかったと思ったけれど、じゅうぶん面白かったし美しかった!

[追記]
幸せになるには、とことん我が儘になるに限る。姫はもっと我が儘になればよかった。でも、他にしようがなかったとも思う。
四季の巡りなど回ること(循環)がとても強調されていた。そのせいかどうか、全体的に生きるということが、天体規模のスケールで描かれていると思った。
2回目の収穫。雪の降る音が聞こえると友だちに聴いて、注意していたら確かに聞こえた!

監督:高畑勲
(2013/12/01 TOHOシネマズ高知4)

ペコロスの母に会いに行く

予想どおり笑えた。予想を超えていたのは泣けたこと。なんか色々いっぱい包んだ風呂敷づつみを広げて、ハタハタと叩いて、最後にその大きな風呂敷の布をちょいと丸めてキュッキュと涙をぬぐった感じだ(笑)。←風呂敷を広げたと言っても法螺を吹いたという意味ではない。文字どおり包んでいたものをオープンにした印象なのだ。何を包んでいたのかというと、みつえさん(赤木春恵)の記憶だ。夫(加瀬亮)、親友(原田知世)、妹。特に原爆症で亡くなった親友からの手紙の場面では(ToT)。
痴呆症になったみつえさんが今何を思っているか、本人から聴くことはなかなか出来ないと思う。息子のゆういちさん(岩松了)がそういうことを思い遣ったから、原作が生まれてこういう映画にも出来たのだと思う。

一方、息子の心の内も包み隠さず広げてくれている。駐車するとき、車の後ろに母、発見。危険だ(笑)。あの寿命が縮まる感じが私にもわかる。そんなことがありーの、日々何かしら笑えることもあって、やっていけるのだろう。介護制度や施設は、まだ充分とは言えないけれど、昔に比べればよくなっている。ゆういちさんやその友だち(温水洋一)みたいに利用するのもいいと思う。利用しないと介護は大変だ。

私にとってはみつえさんの記憶の比重が大きい作品だったので思いのほか泣けたけど、はて、皆さんはいかがでしょう。是非、観てほしい作品だ。

監督:森崎東
(2013/11/24 あたご劇場)

ロベレ将軍

これは、ネオレアリズモじゃないよね?しっかりした物語になっていて、結末は物語でしかありえないような立派さだった。詐欺罪でナチスに捕まったバルドーネ(ヴィットリオ・デ・シーカ)は、無罪放免と交換条件にパルチザンの英雄ロベレ将軍になりすまし、刑務所内の囚人の中からパルチザンの指導者をスパイすることをミュラー大佐(ハンネス・メッセマー)から持ちかけられる。こそくな詐欺師が、ロベレ将軍に化けて将軍の家族からの手紙やパルチザンの心意気に触れているうちに、すっかり本物みたいになっていくお話。少々長く感じた。

感心したところ。
バルドーネは、ナチスに捕まった男たちを釈放されるよう交渉してやるとか、差し入れを持っていくと言って、その家族から金品を受け取っていたんだけど、包みを開けてみるとサラミだったことがあって、ちょっと触ってサラミの脂が指先についたのか、包み紙にその脂を拭きつける。で、カットが変わって別の場所になってからも、指先の脂をちょっと気にした演技をしていて感心した。

IL GENERALE DELLA ROVERE
監督:ロベルト・ロッセリーニ
(ベルトルッチとイタリア名作選 高知県立美術館 2013/11/24)

*同時上映の『フェリーニの道化師』は、観念をセリフにしているわけでも詰まらないわけでもないのに、ほとんど寝てしまった(^_^;。とても残念。

孤独な天使たち

ベルトルッチの新作というだけでなく、デヴィッド・ボウイがイタリア語で「スペース・オディティ」を歌っているというのも楽しみの一つだった。そしたら何とイタリア語の歌詞はオリジナルとは別物で、まるでこの映画のために作られたかのようだった。「孤独な少年よ、どこへ行くのか。泳ぐなら手を貸すけれど。/でも、僕は死にたい。傍に天使がいるから。飛べなくなった天使が。」

孤独は映画でも文学でも、ありとあらゆる作品で描かれてきた。孤独の深海から少し浮上して、そういう作品に触れると皆一人一人だけれど「独りじゃない」ということがわかり生きる勇気が湧く。ロレンツォ(ヤコポ・オルモ・アンティノーリ)も姉のオリヴィア(テア・ファルコ)もそれぞれ独りぼっちだったけれど、ロレンツォはもう隠れないこと、オリヴィアはドラッグに手を出さないことを約束し合う。この約束で、離れていても独りぼっちじゃないことを思い出すだろう。そうして強く生きていってほしいけれど、オリヴィアは挫折するかもしれない。そのオリヴィアを背後にしたからこそ、少年の面影を遺すロレンツォの前向きなストップモーションが言い得ぬ余韻となっている。

誰だったか評論家が、『ドリーマーズ』の後、大病を患い、車いす生活となったベルトルッチの潜伏期間が、潜伏少年を撮ることで終わりを告げたと言っていた。そういえば、この映画の冒頭で登場したロレンツォの精神科医も車いすだった。精神科医はロレンツォに何と言ってたんだっけ。まったく思い出せない。
アルマジロや蟻や昔のものの詰まったトランクなど、色々と象徴性に富んでいそうな作品だと思う。私自身は象徴性の解析は苦手なので作品を味わい尽くすところまでは行かないけれど、それでも美しいものに触れたという満たされた感覚がつづいている。

IO E TE
ME AND YOU
監督:ベルナルド・ベルトルッチ
(ベルトルッチとイタリア名作選 高知県立美術館 2013/11/23)