竜とそばかすの姫

面白かった。昔々の少女まんがのような味わい。竜の正体と物語の落としどころは、その辺にしておくしかないだろう。
それにしても、細田守監督とは相性がよろしくない。『時をかける少女』『サマーウォーズ』『おおかみこどもの雨と雪』『バケモノの子』と今作を見て、『サマーウォーズ』以外は面白く見たけれど、何か好きになれない。どうしてだろう?考える気力もない。
(2021/09/29 TOHOシネマズ高知4)

ブータン 山の教室

じわじわくる。とても多くのもの、大切なものを含んだ作品だ。
ブータンってどんなところか、幸せってなんなのか。

都会に住むウゲン(シェラップ・ドルジ)は、祖母に教師はいい仕事と言われてもオーストラリアで歌手になることを夢みている。彼にとっては新しい派遣先のルナナ(最後の町からの交通手段はなく、険しい山道を歩いて8日、標高5千メートル、人口56人の僻地。学校はあれども、電気水道ガスのない生活環境のため教師が定着せず、子どもたちが充分な教育を受けられない。医者もいないため、お産で亡くなったりも。)は、到着して早々「無理です。帰りたい。」と訴えるような場所だが、厳しくも美しく雄大な自然の中、いろいろと役だつヤクのお陰で人々の暮らしは成り立ち、村人は皆歌が歌えて、酒浸りの父を持つ少女さえも屈託のない笑顔を見せてくれるところなのだ。
念願叶ってオーストラリアで歌うウゲンが幸せそうかというと、明らかに違う。都会では、やる気のない先生だったウゲンが、学ぶ意欲に溢れた瞳キラキラの子どもたちに囲まれてよい先生になっていた。ウゲンも離れてみて、わかったのではないか。
セデュ(ケルドン・ハモ・グルン)が教えてくれた歌の歌詞を取り出して歌おうとするラストシーンが、ルナナでウゲンを待つセデュの後ろ姿のファーストシーンにつながる。見事な構成だ。

ウゲンを主人公としたストーリーからするとルナナの人たちが幸せなのだと思う。原題(?)の「ルナナ 教室のヤク」からすると、衣食足りて意識が外国へ向かいだしたブータンの人向けに、ルナナの人たちのような「足るを知る」心持ちが幸せにつながると作り手は言いたいのかもしれない。あるいは、寒さよけに窓に貼られた紙を剥がして子どもたちの勉強用の紙にしたことを感謝したりされたりの交流こそが幸せなのだと。

ルナナの村長さんが村人に諭した言葉が印象に残っている。「先生(教師)は未来を知る人だから敬いなさい。」
太古の昔なら占い師とか神子に当たると思う。vision、見通す力、先見性、洞察力。ルナナの人たちの幸せに必要なもの。私たちにも必要だと思う。
(2021/09/22 あたご劇場)

#クリント・イーストウッド監督作品オールタイムベスト10

いつか誰かがやると思っていました(^o^)。
103名の投票者ってけっこうスゴいな~。
監督38作品の投票結果は次のリンク先のtwitterスレッドで見ることが出来ますが、ベスト10だけは下に改めて記載しました。

第1位 『許されざる者』 513点 80票
第2位 『グラン・トリノ』 492点 79票
第3位 『ミリオンダラー・ベイビー』 340点 59票
第4位 『ミスティック・リバー』 320点 58票
第5位 『アメリカン・スナイパー』 291点 53票
第6位 『ペイルライダー』 211点 35票
第7位 『ガントレット』 202点 32票
第8位 『チェンジリング』181点 36票
第9位 『運び屋』 176点 41票
第10位 『ハドソン川の奇跡』 171点 35票
次点 『パーフェクト・ワールド』 167点 35票

『許されざる者』、意外と人気なんだ。『アメリカン・スナイパー』と『ガントレット』見てないです。
『チェンジリング』『運び屋』がテンに入っているのが意外。逆に『ブロンコビリー』はテンに入ると思ったのに、近作がやや有利なんでしょうか。
20本くらいしか見てないけど、お茶屋がツイートしたマイベスト10は次のとおりです。カタカナばっかり(笑)。

1 グラン・トリノ
2 スペース・カウボーイ
3 ペイル・ライダー
4 ミスティック・リバー
5 ブロンコビリー
6 ヒア・アフター
7 パーフェクト・ワールド
8 インビクタス
9 ミリオンダラー・ベイビー
10 J・エドガー

10位は 『目撃』にしようか迷ったけど、ディカプリオのフーパーをもう一度見たいと思って。
『グラン・トリノ』は、「うぅ~」と犬みたいに唸る東森さんの演技が可笑しかったな~。
『スペース・カウボーイ』は、月にいるあの人にズームインしていくラストが大好きです。
監督・主演の最新作『クライ・マッチョ』、楽しみですね!

ドライブ・マイ・カー

やっぱり、こういう映画がいいなあ(しみじみ)。179分という長尺を感じさせない端正な作り。生きることの力添えになる作品。
事実を受け入れて自分に正直に生きる。つらいことがあっても死ぬまでは生きる。古今東西の文学作品で書かれてきたことだと思う。きっと映画でも何本も観た。
また、幾重にも面白く、カンヌで脚本賞を受賞したのも納得、見るたびに発見がありそうだ。

妻の音(霧島れいか)の浮気を見て見ない振りをしていた家福(西島秀俊)が、ありのままを受け入れて正直な気持ちを吐露できたのはみさき(三浦透子)がいたからだ。みさきに愛車を任せられないと思っていた家福が運転を絶賛するようになり、次には亡くなった娘が生きていたら同じ年頃と意識するようになり、おしまいでは愛車内でいっしょに煙草を喫するまでになる。愛する者を救えなかった・殺してしまったという共通の思いを抱える二人が、戯曲「ワーニャ伯父さん」のワーニャとソーニャに重なっていく。

高槻(岡田将生):事実を受け入れて自分に正直に生きすぎた。過ぎたるは猶及ばざるが如し。
音の語る物語:左目グサッの衝撃。交歓の乏しいセックスは自慰と同じか。
夫婦模様の欧米化:昔の日本映画では見られない家福夫婦の模様。洋風の生活様式にピッタリ。この何だかおしゃれな感じが村上春樹らしいと思うのは「ノルウェイの森」しか読んでないからか。
「ワーニャ伯父さん」:家福や高槻にグサグサくるセリフの戯曲。
棒読み演技の面白さ:家福がセリフ合わせのワークショップで棒読みを指導する。その意図は述べられないが、映画の登場人物であるみさきと演劇祭の女性スタッフのお陰でとても面白かった。棒読みでも自分を語ってくれるみさきは人物が立体的に見えるが、女性スタッフはよくわからないが凄く面白い人に見えた。
お芝居内の複数言語:異なる言語で一つのお芝居が成り立つことがわかって面白かった。そこに手話も含まれていたのが見識だと思った。
役者の演技:西島秀俊の代表作。マイカー内で高槻の話をじっと聴いている受けの演技と、みさきの故郷で「音に会いたい」と感情を爆発させる攻めの演技がそろって、どちらも良い。
(2021/08/25 TOHOシネマズ高知1)