バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)

ドコスコ、ダンダン。ドラムがいいね!自分に合う映画は、始めの5秒でわかる。話はシンプル。承認欲求(愛されたがり)のお話と受けとめた。単純な話だけに台詞の深さや表情の豊かさが生きてくる。結末は破滅か否かのサスペンス。かなりドキドキさせられた。自分を認めてほしいという願いは誰もが持っているだろうけれど、ドラッグの吸い殻をみつけたとき、娘(エマ・ストーン)の心配より、スキャンダルとなって自分の仕事がダメになることを心配するほど利己的なのには(仕事優先で離婚もしているし、娘に残すはずの私財を投げ出しての公演だし)、私には共感できるところがほとんどないと思った。ただし、自信のない自分をもう一人の自分が叱咤激励する図はわからないではなかった。でも、何が描かれているかより、どう描かれているかの方が面白い作品だ。一筆書きをこよなく愛する私としては、映画で一筆書きを目にできてワクワクした。アカデミー賞で作品賞、監督賞を受賞したそうだけど、マイケル・キートンに主演男優賞を獲らせてあげたかった。

追記:中島敦の「山月記」っぽいところがある。

BIRDMAN OR (THE UNEXPECTED VIRTUE OF IGNORANCE)
監督:アレハンドロ・G・イニャリトゥ/撮影:エマニュエル・ルベツキ/音楽:アントニオ・サンチェス
(2015/04/11 TOHOシネマズ高知9)

ロリーポップ

映画『ロリーポップ』パンフレット
『第9地区』のニール・ブロムカンプ監督の新作『チャッピー』の公開が間近のようだ。『チャッピー』はアメリカ映画だけど、ブロムカンプ監督と言えばエビ宇宙人&南アフリカ共和国と刷り込まれている。で、南アフリカ共和国と言えば、同国制作の小品『ロリーポップ』(1975年)。

『ロリーポップ』の舞台は、南アフリカ共和国に囲まれた国レソトだ。黒人少年ツェポと白人少年ジャニーの友情物語で、映画史に残るような作品ではないけれど忘れられない。というのは、この映画でアフリカにも雪が降ることを知ったから。そういえば読んでないけど「キリマンジャロの雪」っていう小説があったっけ。でも、この目で見るまではアフリカに雪が降るとは思いもしなかった。

また、ペロペロキャンディのことをロリーポップと言うこともこの映画で知った。関係ないけど、『スタンド・バイ・ミー』で「ロリポップ、ロリポップ~」という歌が聞こえてきたね。

レソトを知ったのも『ロリーポップ』のおかげだ。『遠い夜明け』で主人公(ケビン・クライン)が南アフリカから亡命する際、レソトに入国してから更に別の国に脱出する。なんとなく地図がイメージできて助かった。
映画は学校と言ったのは淀川長治さんだったか。本をほとんど読まない私にとっても映画は学校だ。

ジャニーが大怪我をしてニューヨークだったか、どこか大都会で手術することになり、ツェポがお見舞いに行く。その街頭で初めてテレビを見たときのことをツェポが誰に話していたのかは忘れたけれど、「箱の中に小さい人が住んでいるだよ」と言っていたのが可笑しかった。それは、私の母が初めてテレビを見たときのことを、「どうやって箱の中に入ったのか不思議だった」と話していたからだ。

そんなこんなで、多分同時上映のもう1本の方を見に行ったんだろうけど、印象に残っているのは『ロリーポップ』のみである。

評決

3回目の鑑賞。アルコールからカフェインへ。

1983年の公開時に(とでんで)見ていたことを忘れていた。当時の感想文を見るとコンキャノン(ジェームズ・メイソン)の裏工作に腹を立てていたようだ。正義や真実などそっちのけの裁判や、挫折をひきずっているなさけない男フランク(ポール・ニューマン)を厳しい目で見ていたかもしれない。フランクの最終弁論は抽象的で説得力があるとは思えず「甘いなー」という感じがしたけれど、ローラ(シャーロット・ランプリング)からの電話と知りながら受話器を取らないラストは「苦いなー」と思ったと書いていた。

フランクは、かつて正義と真実を信じていたが裏切られた過去がある。そこからの転落人生、解雇に離婚、やさぐれて酒浸り。葬式の最中、遺族に対して弁護士の営業をして「心がない」と非難される始末だ。お金があり要領のいい者が勝者となる嘘だらけの世の中で、一旦軍門に下る(←旧知のミッキー(ジャック・ウォーデン)がローラに語ったことからわかる)とその一部と化して生きるしかない。その苦い現実を酒で紛らわせているのだろう。ところが、医療過誤で植物人間となった女性の姿を見ていて、事実を隠蔽しお金で片を付けてよいものかという考えがむくむくと蘇る。しかし、そこからも七転八倒がつづくのだ(^_^;。

とにかくポール・ニューマンは名演。示談でよかったのに裁判しやがってと怒り心頭の依頼人にタジタジとなったり、証人に逃げられて「負けだ」と言ってもローラには慰めてもらえず追い詰められてバスルームに逃げ込んだり、鎌を掛けたり嘘も方便の聴き込みしたり。一番胸が痛かったのは、ローラを叩いたときの表情(ToT)。そして、「次はない。次はないんだ。」も。実にカッコ悪い主人公だったのがカッコいい。

裁判であれだけの決定的な証言を得ながらもフランクには勝てるという気がしなかったようだ。世の中甘くないと身をもって経験しているからだろう。裁判が終わって事務所で一人きり飲む一杯のコーヒー。嘘だらけの世の中でも酒で自分を誤魔化さず、苦みを味わって行きまっしょい。

The Verdict
監督:シドニー・ルメット
(2015/04/05 DVD 鳴謝>シューテツさん)

味園ユニバース

記憶喪失の男の歌に鳥肌〜。カスミ、可愛い〜。関西弁の台詞、赤犬、笑える〜。レトロなごちゃごちゃ感が美しい。お金じゃない、好きなことが出来るのが幸せ。それが音楽ならなお良し。歌の映画は、本当にイイわー。ほぼ満席の99%は女性(やっぱりね)。

チラシにもなっているカスミ(二階堂ふみ)とポチ男(渋谷すばる)が並んでスイカの種を飛ばしているシーン。映画館で偶然遭った見巧者様(鑑賞のプロ)が演出を頑張っているシーンだと教えてくれた。
私の好きなシーンは定番の演出なんだけど、赤犬とのライブ中にどこからともなくおっさんの声で「古い日記」が聞こえてきて、ポチ男が「誰や?」という顔をするスローモーション。ライブハウスの音が消えて、ポチ男の頭の中にシンクロできそうな感覚が味わえてよかった。
もう一つ好きなのは、シゲオ(記憶が戻ったポチ男)が「出演するかどうか自分で決め」とカスミに言われる場面。深刻な表情のシゲオの向こうに、花笠で扇がれる赤犬のヴォーカルがアウトフォーカスで映っているところ、笑える〜。

渋谷すばるは、やはり歌がうまい。でも、本人も言っているように、まだまだだ。私にとっての日本三大歌手は、美空ひばり、沢田研二、忌野清志郎なので、すばる君にもお三方のように歌詞を大事にして三分間劇場を作れるようになってほしい。とは言ってもアカペラ「古い日記」には鳥肌が立った。そして、一週間、関ジャニ∞祭りがつづいている。

監督:山下敦弘
(2015/03/28 TOHOシネマズ高知8)