マラーホフの贈り物 ファイナル

フェスティバルホール
先週、大阪で命の洗濯をしてきた。すぐ汚れるので、できたら1日置きに洗濯したい。残念ながら、そうもいかないので反芻あるのみ。

まずはホールがよかった。2008年の「マラーホフの贈り物」もフェスティバルホールで観たが、その後、建て直された。前のホールは何だか圧迫感があって舞台も遠く感じたが、新しいホールは開放感があり、座席も前の人の間に後ろの人の席というふうに配置され、とても観やすい。舞台も近く感じた。それに大阪の女性観客はおしゃれで、夜の公演にふさわしくアクセサリーやお洋服がキラキラしていて私の気分を盛り上げてくれた。

公演はプログラムもダンサーもよくて、おしまいには思わず席を立って拍手していた。これまで前の人が立ちあがり見えなくなったので立ち上がるということは何度かあったが、自発的スタンディングオベイションは初めてだ。やっぱり、「最後のアクション超大作」とか「ファイナル」というのに弱いらしい(笑)。

Cプロ
「白鳥の湖」第二幕より
(振付:レフ・イワーノフ/音楽:チャイコフスキー/オリガ・スミルノワ、ウラジーミル・マラーホフ、東京バレエ団)
オデット役のスミルノワちゃん、若いのに堂に入った踊りだ。でも、それよりも王子が~、素晴らしい。王子はサポートに徹してあまり踊らないんだけど、オデットに向ける視線や身体の傾け方で、このうえなく大切に思っていることが伝わってくる。マラーホフの「白鳥の湖」全幕は見られないのかなぁ。

「トゥー・タイムス・トゥー」
(振付:ラッセル・マリファント/音楽:アンディ・カウトン/ルシア・ラカッラ、マーロン・ディノ)
数年前のバレエ・フェスティバルでシルヴィ・ギエムが一人で踊った「トゥー」の二人バージョンだ。閃光が力強いリズムと金属音に合わせて暗闇と空間を切り取っていく。素早く弧を描く腕が、ライトが当たるところに触れると閃光のように見えるのだ。マーロン・ディノのパワフルな踊りが、音楽にも演出にもピッタリだった。

「椿姫」より第一幕のパ・ド・ドゥ
(振付:ジョン・ノイマイヤー/音楽:ショパン/マリア・アイシュヴァルト、マライン・ラドメーカー)
マルグリットを追いかけるアルマン。マルグリットは年上の余裕でいなしていたが、ついに根負けか(笑)。二人の演技力と、踊りで物語れる振付をしたノイマイヤーに敬服。

「海賊」より奴隷のパ・ド・ドゥ
(振付:マリウス・プティパ/音楽:コンスタンティン・フリードリヒ・ペーター/ヤーナ・サレンコ、ディヌ・タマズラカル)
出た、タマズラカル君(笑)。←なぜ、笑う(^m^)。この人、「ニーベルングの指環」(2005)の仰天キャラクターと「チャイコフスキー」(2011)
のそつなき王子の両方を踊れてしまう器用な人。どちらかというとキャラクターが向いているような気がする。今回は元気いっぱいで本当に楽しそうに踊っていた。太陽のタマズラカル君と月のサレンコちゃん。二人の温度差が見物だった。

「瀕死の白鳥」
(振付:マウロ・デ・キャンディア/音楽:サン=サーンス/ウラジーミル・マラーホフ)
雄の白鳥や~。トロカデロ・モンテカルロバレエ団のダンサーに掛かると笑いが取れそうな振付だ。(フォーキン版「瀕死の白鳥」を初めて観たのはトロカデロ・モンテカルロバレエで、そのときは笑ってしまった。後年、コミックじゃない方を観て、トロカデロ・ダンサーの踊りとあまり違わないのに驚いたことがある。)笑いが取れそうやなと思いながら、切なさに涙がにじんでくるという不思議な体験をした。この公演でもっとも感動した。

-休憩-

「ロミオとジュリエット」より第一幕のパ・ド・ドゥ
(振付:ジョン・クランコ/音楽:プロコフィエフ/マリア・アイシュヴァルト、マライン・ラドメーカー)
やっとヌレエフ版の呪縛から解放されたような気がする。クランコ版もいいなぁと思えるようになった。第一部で「椿姫」を踊ったアイシュヴァルトとラドメーカーが、十代の恋を初々しく踊る。特にジュリエットが、可愛いーーー!

「タランテラ」
(振付:ジョージ・バランシン/音楽:ルイス・モロー・ゴットシャルク/ヤーナ・サレンコ、ディヌ・タマズラカル)
出た、タマズラカル君(笑)。タンバリン、タンバリン(^o^)。ぴょんぴょん、くるくる~。
熱帯タマズラカル君と寒帯サレンコちゃん。二人の温度差が見物だった。

「ラ・ペリ」
(振付:ウラジーミル・マラーホフ/音楽:ヨハン・ブルグミュラー/吉岡美佳、ウラジーミル・マラーホフ)
マラーホフの衣装がスカート(?)だったので、はじめ女性かと思ってしまった。エジプトの王子と妖精のお話だそうだが、衣装になれる間もなく終わってしまう。全幕じゃないからね~。
この二人の踊りを観ていると、バレエってテクニックだけじゃないんだと改めて思う。吉岡さんがマラーホフのサポートを受けて、片足でゆっくりと回転する。この簡単な動きが本当に美しい。このとき、吉岡さんだけでなくマラーホフ込みで美しい。これが一体となると言うことなんだろう。

「椿姫」より第三幕のパ・ド・ドゥ
(振付:ジョン・ノイマイヤー/音楽:ショパン/ルシア・ラカッラ、マーロン・ディノ)
ノイマイヤー、すごいわ~。「椿姫」第三幕のパ・ド・ドゥといえば、18禁バレエ。世界バレエ・フェスティバルでジョエル・ブーローニュとアレクサンドル・リアブコの踊りを観たときも凄いと思ったけど、今回も圧巻だった。振付どおりに踊ったら物語になるものね~などと思いながら観ていたのが、いつの間にか引き込まれていた。拍手の嵐~。

「白鳥の湖」より”黒鳥のパ・ド・ドゥ”
(振付:レフ・イワーノフ/音楽:チャイコフスキー/オリガ・スミルノワ、セミョーン・チュージン)
黒鳥のパ・ド・ドゥは盛りあがる。32回転があるものね。チュージンさんは滞空時間が長かった。

「ヴォヤージュ」
(振付:レナート・ツァネラ/音楽:モーツァルト/ウラジーミル・マラーホフ)
マラーホフといえば「ヴォヤージュ」、「ヴォヤージュ」といえばマラーホフなんだそうである。今回は、全5公演、全てで「ヴォヤージュ」を踊るということだった。初めて観てなるほどと思った。マラーホフはクラシックもコンテンポラリーもOK、王子も踊ればキャラクターで笑わせたり泣かせたりできるし、ポワントを穿かせば女性ダンサーも顔負けなのだ(と噂に聞くばかりなのが残念なのだが)。そういう多才な彼が「ヴォヤージュ」を演じれば、その時々によって変幻自在に楽しませてくれるだろう。「ヴォヤージュ」は、パントマイムが加味された踊りなのだ。
旅から旅への旅ガラスだから、手を振る場面が何度かある。これまでどんなにして手を振っていたのだろう。今回は何だか、とても切なかった。

(2013/05/27 大阪フェスティバルホール)

桂ざこば独演会

やっぱり面白かった~(^o^)。
マクラから噺へのつなげ方が、うまいな~。

そうばさん、聴きやすかった~。福岡出身だそうで、大阪に出てきて言葉が違うので苦労したというマクラが、大阪では通じる「手水」という言葉が、少し離れた片田舎では通じないと、すんなり噺に入って行く。
ざこばさんも、泣くばかりで言葉が通じない孫との遣り取りを描写して「孫は宝ってウソでっせ」と、どっかーん、ドッカーン大受け。かなり熱が入って珍しく長めのマクラ(孫は可愛くない)が、可愛くない子ども代表とも言える丁稚が主役の噺につながる。
塩鯛さんも大学で講師をしていた経験から今どきの学生の不勉強加減を面白可笑しく話し、「金色夜叉」を「きんいろよるまた(夜になったらマタが金色にひかる)」と読む生徒の噺につなげる。
米紫さんの結婚式の司会の話は面白かったけど、「宗論」とのつながりがわかりにくかった。でも、裾を乱す熱演で面白かった。熱演過ぎると聴いていて疲れるので要注意。年を取って力が抜けたら聴きやすくなるかも。
笑って温まると北風が気持ちいいくらいだった。

桂そうば「手水廻し」手水の意味がわからないのに「手水ください」と言ってみる。
桂米紫 「宗論」父と息子の宗教論争。
桂ざこば「月並み丁稚」丁稚が口上を忘れてお尻をつねってもらう。
 -中入り-
桂塩鯛 「読書の時間」クラスで読み上げた「竜馬がゆく」はポルノだった。
桂ざこば「青菜」植木屋さんがおかみさんに頼んで教養人のマネをする。

(2013/02/23 グリーンホール)

四国フィルハーモニー管弦楽団創立25周年記念演奏会

楽しかった!よくまとまったオーケストラだと思った。アマチュアってすごいなー。トヨタコミュニティコンサートは今回だけでなく、全国のアマチュアオケを応援して演奏会を開いているそうだから、日本にはハイレベルな演奏を聴かせる楽団がたくさんあるということだろうか。昔の田舎歌舞伎も全国の村々でハイレベルな上演をしていたのかもしれない、などと想像が飛んでいった。

ヴァイオリン協奏曲のゲストは五嶋龍とのことで、私はヴァイオリニストで五嶋と言えばみどりちゃんでしょうくらいしか知らなかったのだけど、解説の三枝さんによるとこの人のお陰でホールが満員になったのだとか。帰宅して調べたらみどりちゃんの弟だった。24才で東大卒で天才ヴァイオリニストでイケメンと紹介されたものだから、なぬ、天は二物以上与えたかと構えて聴き始めたが、とてもよかった。楽器がよく鳴るし、音色が多彩だし、何より伸び伸びしている。クセがなく、ゆとりがあるようにも感じて、年季の入ったベテランの若々しい演奏みたいと思った。

ブラームスは30年くらい前にN響の演奏で交響曲を聴いて、同じフレーズをいやというほど繰り返すとは粘着質なヤツ(嫌い)と思っていた。だけど、クララ・シューマンの映画を観て、彼がクララをずーっと好きだった(イケメンだった)ことを知り、粘着質にも種類があるよねとちょっと好感を持ち、この日の協奏曲では、ヴァイオリンて色んな音が出る不思議な楽器だと思っていたけど、色んな音色をいっぺんに聴けるよう作曲したブラームスも偉いと思うようになった。(まだ好きになったわけではない。)

三枝さんが「ベートーヴェンは凄いんですよ」「音楽は芸術だと初めて言った人なんですよ」「とにかく凄い人なんですよ」と言うのでやたらと嬉しくなった。そして、第5番を「運命」というのは日本だけ、大正時代にレコード屋さんが宣伝のため言い始めたと教えてくれた。
第2楽章、第3楽章と「あれ?初めて聴くかも(^_^;」と思ったのはないしょ(笑)。

指揮:澤和樹
ゲスト:五嶋龍(ヴァイオリン)、三浦章宏(コンサートマスター)、広田智之(オーボエ)、三枝成彰(お話)

歌劇「ウィンザーの陽気な女房たち」序曲(ニコライ)
ヴァイオリン協奏曲ニ長調作品77(ブラームス)
交響曲第5番ハ短調「運命」(ベートーヴェン)
アンコール:トリッチ・トラッチ・ポルカ(ヨハン・シュトラウス二世)

(2013/01/27 県民文化ホール・オレンジ)

マイケル・クラーク・カンパニー come,been and gone

マイケル・クラークって聞いたことあると思ったら、『グリーンマイル』のマイケル・クラーク・ダンカンの方だった。ダンサーで振付師のこの人は、今回初めて知った。

「come、been and gone」は、三つのパートからなるダンスで、休憩を挟んで「gone」、「been」、「come」の順に上演された。アフタートークによると過去の作品を改訂したものもあるとのことだった。
チラシにはパンク・バレエと書かれていたので覚悟して行ったが、いたってクラシックで驚いた。衣装や照明は飛んでいるかもしれないが、動きはクラシックの美しさが横溢している。しかも、ゆるやかなテンポで動くので動体視力の弱い私向き。ゆっくりとした踊りは、連続写真をながめているようだ。ダンスでは、ビデオ風に脳裏に活写できる記憶もあれば、瞬間的な美しさを写真風に目に焼き付けた記憶もあるのだけれど、マイケル・クラーク・カンパニーのダンスは、写真と活動大写真の中間とでもいおうか。美しいポーズの連続である。(跳躍は少なくて、寝転がる動きが多い。これを至ってクラシックと言う私は変かも。)

一番よかったのは、「gone」だ。背景のスクリーンには、いきなり「THE END」と映されたり(笑)。こういう音楽は何というのだろう。工場の機械のような音とリズムで、踊りと合っている。二人が絡み合って一体となると別の生き物のようで面白かったり。無機質っぽい音楽も最後の方には、テンポが速くなり音も段々大きくなり、踊りもフィナーレという感じで盛りあがっていって、本当に仕事の疲れも吹っ飛び、気分も高揚した。

「beeb」は、スクリーンに映し出されるものが、公序良俗に反するものらしく(笑)、サブリミナル映像のような素早さで切り替わっていった。ミラーボールに当たった光が舞台に水玉模様を作って、衣装も水玉になった。裸の乳首にスパンコールを付けているのだろう、ときおり乳首光線が飛んできて可笑しかった。

「come」は、いよいよデヴィッド・ボウイの登場だ。と言ってもスクリーンに登場するのは「Heroes」のときだけであとは歌のみ。ところが、これが裏目に出た。「Heroes」のビデオなんて見飽きるほど観ているはずなのに、ボウイが登場すると釘付け。踊りを観なければと思っても、すぐスクリーンに目が行ってしまう。その後、ボウイの姿が消えても、踊りは歌唱パワーに負けっ放し。ボウイの歌ってこんなに力強かったのかとマジで驚いた。もっと激しく熱を持って踊らなければ!機械的な踊りに見えてしまうぅっ。・・・・と音楽最高潮、ダンス冷え冷えの妙な空気に眉間にしわが寄りかけた頃、終了。「え?これで終わり?」という私のはてなマークをよそに拍手の嵐。指笛口笛ピーヒャララ。・・・・わたくし、呆然。

振付はリフトなどほとんどないし、男性がバニーガールのように見えるレオタードを着たり、女性がゴルゴサーティーンのように見えるカツラをかぶったりするとき以外は、性差は関係なさそうだった。また、物語性もあまりないので、肌の色も関係なさそうだった。ただ、どのダンサーもスタイルが抜群によいので、近年体形がよくなったとはいえ日本人ダンサーは採用されるかなぁと思っていたら、アフタートークで英国までオーディションに来るのは大変だろうから、明日の公演前の練習時間に来たら踊りを見せてもらうよというような話だった。
振付家はダンサーに触発されることもあるから、いろんなダンサーを採用するのはよいことだと思うなぁ。
というわけで、また観る機会があるなら、ぜひ、観たい。

ダンサー:ケイト・コイン、ハリー・アレキサンダー、フィオナ・ジョッブ、シモン・ウイリアムズ、オクサナ・パンチェンコ、ベンジャミン・ワルビス

☆gone(SWAMP)
作曲:ブルース・ギルバート、ワイヤー
音楽:Feeling Called Love ワイヤー/Do You Me? I Did ブルース・ギルバート
衣装:ボディーマップ
照明デザイナー:チャールズ・アトラス

come,been and gone
作曲:デヴィッド・ボウイ、ブライアン・イーノ、ルー・リード
衣装:スティービー・スチュワート、マイケル・クラーク
照明デザイナー:チャールズ・アトラス

☆been
音楽:Venus in Furs,White Light/White Heat,Heroin,Ocean ザ・ヴェルヴェット・アンダーグラウンド

☆come
音楽:Mass Production イギー・ポップ/Sense of Doubt,”Heroes”,After All,Future Legend,Chat of the Ever Circling Skeletal Family,Aladdin Sane,The Jean Genie デヴィッド・ボウイ

(2012/05/17 高知県立美術館ホール)