いっしょに観た母は、「これくらいの苦労は誰にでもある」と言って、この作品をベストテン圏外に位置づけた。
これくらいの苦労とは、木下恵介監督(加瀬亮)が自作『陸軍』を戦意高揚にならないと批判され次作を思いどおり撮らせてもらえないので、松竹に辞表を提出したことだ。母は「(しかも)自分のための苦労じゃないか」と言うので、お母さん(田中裕子)のために苦労したではないかと反論すると、「ほんの2、3日のことだ」と手厳しい。
私は木下恵介監督に対する尊敬の念がよく表現されていて、『陸軍』の有名なシーンをたっぷり見せてもらえてうるうるきたし、木下監督の兄敏三を演じたユースケサンタマリアを初めてよいと思えたし、山越えしたときお世話になった方々や縁の人たちがクレジット・バックに登場をしたり、悪い映画ではないと思ったけれど、便利屋(濱田岳)に救われているとも思った。
涙考
それより気になったのが、涙と洟と涎だ。母たまが、病で不自由になった身体で一言一言絞り出すように「戻って映画を作りなさい」と言うシーン。息子は滂沱の涙。洟も長く伸びてきたので、早く拭いてほしくてイライラした。やっと手ぬぐいで拭ったと思ったら、今度は母が(口を動かすのも不自由なので)涎を出している。ああ、息子よ、早く拭いてやって~と思っても、息子は感極まったまま、更なる涙と洟を流している。
これは何もこの映画に限った話ではなくて、登場人物が流れる涙をそのままにしておくのは何百回も観た。先日観た『グランド・マスター』でもチャン・ツィイー演じるルオメイが右眼から流れるままにしていた。ルオメイの涙は唯々美しく、流れるままでも気にならなかったが、ほとんどの場合は、なぜ、涙を拭わないのか気になってしかたがない。涙というものは、ハンカチで、袖口で、ティッシュで、あるいは指先などで拭われるものではないのか???
仮に、流しっぱなしが人類普遍の慣わしであったとしても、映像で見せる場合は、気に掛かって感動どころではない観客がいることを考慮して、早々に拭ってもらえないものだろうか。涙と洟と涎の三拍子ともなれば、切に願わずにいられなかった。
[追記]
そうそう、今日(7月1日)ヤマちゃんと話して思い出した。芸術家(力のある映画作家)というのは妥協を知らぬと言うか、常人が持ち得ない一徹さを持っているが、誰もが唖然とする道のりをリヤカーを押して歩きとおした木下恵介は正に芸術家というにふさわしく、やはりそれだけ力のある映画を撮ることができたんだと思う。そして、その人が何のおごりもなく庶民の立場に立った映画を撮る、それでいいのだと決意する原点を描いた作品だと思ったことも思い出した。「涙考」だけではあんまりだったので、つけたし(^_^;。
監督:原恵一
(2013/06/02 TOHOシネマズ高知2)
お母さんのコメント面白い〜
また載せてください
(^O^)
ほんと?ありがとー(^o^)。
また載せます!
お茶屋さん、こんにちは。
僕との話がきっかけで追記となったことに喜んでいます。
それにしても、お母さんの、
年に差はあっても同時代を生きた方ならではのコメント、
素晴らしいです。
作り手として、ワンエピソードに絞り込むことの
勇気の値打ちについて、再認識させていただきました(礼)。
こちらこそ、思い出させてもらって喜んでいます(感謝)。
「ワンエピソードに絞り込むことの勇気」というと、「ワンアイディアでしか撮れないことのお茶目」なシャマラン監督を思い出しました(^_^;。映画館主・Fさんとこで『アフター・アース』のレビューを読んだばかりだからでしょうか。
母にコメントが好評だと伝えると喜んでました~(^_^)。
お茶屋さん、こんにちは。
今日付けの拙サイトの更新で、いつもの直リンクに
こちらの頁を拝借したので、報告とお礼に参上しました。
ナント・ツマラン監督と密かに呼んでいるワンアイデア監督と
並べられて原監督としてはどうなのかという気もしますが、
ワンエピソードに絞り込む勇気って、かなりのものなんですよ、多分。
どうもありがとうございました。
シャマラン、つまらんデスカ?(笑)
私は好きなのもありますが。>『シックスセンス』『サイン』『アフター・アース』
そうか~、シャマランも勇気があるのか~。←ちょっとちがう(笑)。
原監督、今後も実写で色々観たいですね。
女性を上手く描けそうな気がするなぁ。
というわけで、リンクとコメント、ありがとうございました。