終の信託

塚原検事(大沢たかお)、悪役(^_^;。黙秘権があると言っておきながら黙っていると返事を強要するし、事実なら言いたいことを言ってもいいという最初の注意とは裏腹に、事実を言おうとすると「訊かれたことに『はい』か『いいえ』で答えればいい」と高圧力。江木(役所広司)と折井(草刈民代)の遣り取りを観てきたこちらは、折井先生はいいお医者さんと思っているから、どうしても先生の味方をしたくなる。ただし、冷静に考えれば、江木の喉からくだを取り出すまでは尊厳死(自然に任せた死)と言えても、予想外に苦しみだしたのを早く楽にしてあげたい思いで薬を投与したのは安楽死(積極的に死に向かわせたという意味で善意の殺人)になるのかもしれない。このへん専門家でもないのでわからないが、激しくグレーゾーンだ。ものごとはグレーのグラデーションであることが多いのに、法律ではどこかで線を引き白と黒に分けなければならないのが辛いところだ。(灰色は白とみなすってことにしたら、黒に見える灰色か灰色に見える黒かでまた悩む(^_^;。)

もう一つ気になったのが、江木が延命措置を望まなかった理由に、看病人生の妻と家計への気遣いがあったことだ。その気持ちがよくわかるだけに気になる。家族や家計のことを思うと庶民は延命どころか、治らないんだったら早めの昇天が望ましいと自ら思いかねない。江木もそんな気配がなきにしもあらずだった。

最期の判断を主治医に託すのは酷だし(江木のケースは単身者を思わせるが、あんな家族でもいるのだから家族に話しておくべきだった)、主治医も一人で判断するのは荷が重すぎだ(江木の願いを叶えることを優先するあまり一人で判断したが、複数の医師の合議で判断した方がいいのでは?)。江木と折井の間柄だからこそ、このようなことになったのではないかという気がする。

俳優がみんなよかったと思う。浅野忠信の不実な恋人役なんかピッタリ(^o^)。草刈民代の演技は硬いけれど、この役柄にとても合っていた。

監督:周防正行
(2012/10/28 TOHOシネマズ高知6)

「終の信託」への2件のフィードバック

  1. お茶屋さん、こんにちは。

     明日付の拙サイトの更新で、こちらのかるかんをいつもの直リンクに拝借したので、報告とお礼に参上しました。「ものごとはグレーのグラデーションであることが多いのに、法律ではどこかで線を引き白と黒に分けなければならないのが辛いところ」と的確に適示されておいでの本作の核心部分が、実によく炙り出されている流石の作品でしたね。
     期せずして僕と同じく、難問に係る苦しい判断に際しての合議について言及しておいでだったので、大いに目を惹きました。回答は真逆とも言えるものになっていますが、衆知に寄せるお茶屋さんの信頼感と、組織的意思決定に対する僕の不信感の好対照ぶりに、痛撃を食らった気もします(苦笑)。
     どうもありがとうございました。

  2. ヤマちゃん、いらっしゃいませ。
    リンクとコメント、ありがとうございます。

    >衆知に寄せるお茶屋さんの信頼感と、組織的意思決定に対する僕の不信感の好対照ぶりに、痛撃を食らった気もします(苦笑)。

    私もがびしょーんデシタ(笑)。
    他の医師に相談したら患者第一ではなく、病院の都合とか色々あるかもとは思いましたが、単独で決めると独善に陥ることもあるし、責任も一人で負うことになるし。
    だから、「衆知に寄せる信頼」というよりも、私の自信のなさと保身だと思っています。

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