KANO 1931海の向こうの甲子園

なんと、先月は野球映画が同時に3本も上映されていた。『アゲイン 28年目の甲子園』(中井貴一が出ているので見たかった)、『バンクーバーの朝日』(実話ベースで石井裕也監督なので見たかった)。普段なら全部見ているのにと悔しい思いをしつつ、『セデック・バレ』のウェイ・ダーション監督がプロデューサーにまわった本作を選んだ。『セデック・バレ』は日本統治下で差別に耐えかねた台湾原住民が武装蜂起した霧社事件を描いた作品だが、その取材中に嘉義農林学校の三民族混合チームが甲子園に出場したことを知り、「えい話や~」と思って映画化を決意したそうだ。

CG(?)映像がぎこちなく、演出もややぬるめな感じながら、実に爽やかで3時間があっという間だった。こういう映画でも見ない限り、当時の高校球児に思いを馳せることもなく、ましてや植民地の球児を知るよしもない。大連などの外地から甲子園へ集結していたのに「へぇ~」と思った。

へなちょこ野球部員の元に訳あり鬼監督が来て猛特訓の末の快進撃。和人、漢人、蛮人という呼称を含む差別がある一方、三民族それぞれの特長を生かした強さと球児らしいチームプレイが感動を呼び、甲子園の観客は「天下の嘉農」と大声援をおくる。青春映画の王道に感涙だった。

あわせて、日本人技術者よって堰やかんがい水路が作られた植民地時代の光の部分が描かれていた。それだけではなく、甲子園で嘉義農林と対戦した札幌商業の元選手(現軍人)が、戦況悪しき1944年の時点から当時を回想する視点も盛り込まれている。この暗い1944年があるおかげで、日本の敗戦や『非情城市』へつづく台湾の激動期を意識させられる。大きな歴史の流れに三民族混合の青春をうまく乗っけたと思う。

監督:マー・ジーシアン
(シネマ・スクウェア2015年2月号)

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