天才ヴァイオリニストと消えた旋律

見始めてやや驚いた。久々のティム・ロス。クライブ・オーウェンも出演。若い俳優を覚えられなくなったロートル映画ファンには嬉し懐かしの配役だった。

第二次世界大戦前にヴァイオリンの英才教育のため、ポーランドの家族と離れロンドンのマーティン(ミシャ・ハンドリー:長じてティム・ロス)の家へ引き取られた天才少年ドヴィドル(ルーク・ドイル:長じてクライブ・オーウェン)。二人は兄弟のように一緒に育ち大人になるが、ドヴィドルはデビューコンサート会場に現れず行方不明となる。30年以上経ちドヴィドルにヴァイオリンを習ったという人物に遭ったことをきっかけに、マーティンは彼を再び探し始める。なぜ、デビューコンサートを前に忽然と姿を消したのか、ミステリー仕立ての話は面白いし、ヴァイオリンの演奏も楽しめる。

ルーク・ドイルは本当に弾いているのだろう、大人顔負けだった。収容所みたいなところで一対一のヴァイオリン合戦をするところが一番の見所だ。

あとはドヴィドルがなぜ姿を消したかわかるところ。街かどのシナゴーグで戦争中に収容所などで亡くなった者の氏名を何時間もかけて唱歌するラビ(?)と、家族の名前が唱えられるか否か聴き続けるドヴィドルの場面が印象深い。記録できなかったから歌にして記憶し伝承していくというのは、『サウルの息子』でゾンダーコマンドたちが写真やメモを埋めて出来事を伝えようとしたことを彷彿させられた。民族としての受難だからだろうか、決して忘れず伝えていく意思と共同体の堅さ(それゆえ入って行きにくいもの)を感じる。ただそれは、差別しておいて「入って行きにくいかよ」ってなもんで反省すべきことだ。

再会して一度きりという約束のコンサートを済ませ、30年前の借りは返したとばかりに関係を断ち切るドヴィドルには、断絶以上のものを感じ何だかやりきれなかった。
(2022/09/21 市民映画会 高知県立美術館ホール)

「天才ヴァイオリニストと消えた旋律」への2件のフィードバック

  1. 私にとっては、予想外のコトに
    何度も出合った映画でした。
    (こんな映画とは思ってなかった)

    天才少年を引き受けて、身代傾けて?支援してくれるほど
    親切な音楽好きの実業家。
    亡くなった人の名前を口伝えで継承してきたという
    ラビ?たちの詠唱。(見てる聴いてる自分は…もう唖然)
    ダメ押しが、お茶屋さんも最後に書いておられた
    「借りを返しただけ」のようにきっぱりと姿を消す
    ヴァイオリニスト。
    (彼にとっては音楽よりはるかに大事な事なんだ…と)

    音楽聞けて、それは良かったんだけど
    曰く言い難い気持ちで映画館を出ました。
    (ホロコーストが出てくる映画はいつも
    こういう気持ちが残る…まあ、当然なんですが)

  2. なんか作りすぎかもしれませんね。
    最後のコンサートは、制作上は初めのコンサートと同じときに撮ったんだろうなと思いながら観ていましたもん。クライブ・オーウェン、弾いてないな、とか(笑)。

    >曰く言い難い気持ちで映画館を出ました。

    ほんま、ほんま(・_・)(._.)。
    けど、もう一本が気持ちのいい映画で良かったですね(^_^)。

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