デヴィッド・ボウイの「ヒーローズ」が主題歌となった映画だとは知らずに見て思わず落涙だった。
病気で休学していたチャーリー(ローガン・ラーマン)が復学して、サム(エマ・ワトソン)とパトリック(松潤エズラ・ミラー)のきょうだいと友だちになり、三人でドライブするシーンに使われていた。いい曲だと言って、車の荷台に立ち両手を広げて夜風を切っていくサムがキラキラとまぶしい。チャーリーは魅せられる。
「壁の花」はあまりいい意味ではないはずだけど、この映画では、心に傷を持ち周りにうまく溶け込めず壁の花でしかいられないチャーリーを、壁の花であるからこそ観察者になれるのだし、作家にだって向いているのだと肯定的に描いている。そのうえで、壁から離れ一歩踏み出す彼をやさしく見守っている。
青春映画の「もがき」は、パトリックのもがきのように大抵は派手だけれど、チャーリーのもがきは弱々しい。呼吸する空気の量が極端に少なそうだ。だから、アンダーソン先生も絶妙の距離感でチャーリーに接している。チャーリーの家族もなかなかに絶妙だ。
「進撃の巨人」は世界中で読まれているそうで、そこに描かれた壁が何を象徴しているか(香港では民主化を阻む壁として読んでいる人がいるそうだ)、人それぞれのイメージがあると思う。村上春樹は何かを受賞したときのスピーチでsystem(組織、制度、体制)と人を壁と卵に例えたこともあった。『ウォールフラワー』の壁は、映画の最後で語られたように「変えられない過去」を象徴しているのだろう。
「ヒーローズ」で歌われたのは言うまでもなくベルリンの壁だったが、壁が壊された今も歌われている。世の中の人が、行く手を阻まれたとき、何かに捕らわれたとき、乗り越えるべき壁、振り切るべき壁があまりにも大きいとき、それでも1日だけどヒーローになれるという希望の歌として、これからも歌われるだろう。そう気づかせてくれた、この映画の作り手に感謝。
THE PERKS OF BEING A WALLFLOWER
(2016/01/20 動画配信)