ベロニカとの記憶

『ベロニカとの記憶』の感想を毛筆で書いた画像

今が大事

久々に大人の映画を観た。
主人公トニー(ジム・ブロードベント)がバツイチで年金暮らしという十分な大人であり、若かりし頃の記憶を脳が都合よく書き換えたりというシニアあるあるが描かれているからだ。また、映画の手法としても時制が現在と過去を行き来するうえ、思い込みと事実の二つを描くに際しても、現在の登場人物に語らせたり過去に戻ったりと変化をつけていている。更に、物語の発端となった親友エイドリアン(ジョー・アルウィン)の遺品である「日記」の内容は謎のままなので、想像するしかないのも大人のオマケだ。なにより、トニ-の初恋の相手ベロニカ(シャーロット・ランプリング)の人生を思えば、トニーの人生より複雑で過酷な状況だったろうことが想像できて、A面とB面がある映画だと思う。

トニーがどれだけベロニカの現在を気に掛けようが、エイドリアンの日記を見てみたかろうが、大事なのは今だ。三十歳代でシングルの娘(ミシェル・ドッカリー)が初産を控えており、彼女は両親の助けを必要としている。彼は弁護士の元妻(ハリエット・ウォルター)に頼りっぱなしなのだが、娘のために頑張っている。娘のことも元妻のことも彼なりに思いやっているのだが、如何せん元妻からしたら、自分のことしか頭にない人だ。元妻も彼のことを思いやりがないとまでは言わないだろうが、全く足りないとは言うだろう。
彼が更に年を重ねて、また都合よく記憶の書き換えをしたとしても、物語の核となる大切な人は変わらないだろう。主人公を愛すべき人として描くことによって人の老年を肯定するような懐の深い作品だった。
(2025/01/10 高知県立美術館ホール シネマ・サンライズ シネマ四国)

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