風立ちぬ

夢破れても風立ちぬ。
堀越二郎(声:庵野秀明)の飛行機と女性という夢は二つとも(というか夢も愛も)破れたが、それでも生きるという話だった。追い風であれ、向かい風であれ、死なないかぎりは生きないと。(う~ん、愛に破れたわけでなく、このうえなく美しく成就したんだけど。夢も破れたわけでなく、思いどおりの飛行機は作れたんだけどね。しかし、・・・・というところがミソ。)

関東大震災のスペクタクルを始め、航空機の対比(ドイツの厳めしさ、イタリアの軽やかさ)、自然や風景の描き込みの繊細さなどなど、見飽きることがなかったけれど、この力の抜け具合は微妙~。程よい加減とみるか、平板とみるか。いいところは皆、予告編で使われたような気がしないではない。ワタクシ的には、恋愛部分が「うへ~」だったもので(^_^;。そのかわり、二郎の上司の黒川さん(声:西村雅彦)が歩くたびに、髪の毛がわっさわっさと浮き上がるのがツボだったりして。←お子ちゃま?

飛行機も道具なので爆弾を運んだり、人を運んだり。道具の作り手としては、良いことの方に使ってほしいわけで。カプローニさん(声:野村萬斎)は、人を運ぶことに使ってほしそうだったけれど、二郎はどうだろう。あの美しさへのこだわり様は、芸術家のようでもあった。(つまり役に立たなくても美しく飛んでりゃそれでイイという。それが人の命を奪うとは、二郎の気持ちはいかばかりか。芸術と戦争のベクトルは真逆だ。)

ともあれ、煙草をいくら吸っても煙たがられることがなかった近い昔(震災から敗戦まで)を背景に生きることを描いた良作だった。荒井由実の「ひこうき雲」も含めて、音楽がとても気持ちよかった。

[追記]
堀越二郎って私にはほとんど超人に思える。10年という期間限定ではあるけれど、夢にも愛にも並ではない情熱を燃やすことができるなんて凄いや。それなのにちっともギラギラしてなくて飄々としているのは奇跡のよう。(菜穂子の後追い問題。)

この作品は、美しさにこだわったファンタジーだと思う。時代背景は美しさを際だたせている。

監督:宮崎駿
(2013/07/21 TOHOシネマズ高知3)

CUT

ジョン・レノンが「言いたいことをビートに乗せて歌えば、それがロックだ」みたいなことを言っていたと思うけど、それでいけばロックな映画だった。で、言いたいことというのは「映画、好き好き!」(笑)。主人公は正しくビートされており、へとへとになって横たわると映画が愛撫してくれる。映画とのラブシーンまである(^_^;。そして、映画ファンの大好きなベストテン選びまで(^Q^)。

かつて映画は、娯楽であり芸術だった。ところが今や芸術作品を上映する場がなくなっている。それは金儲け優先のシネコンがはびこって、芸術性のある映画が上映されにくくなったから。そう言って、娯楽であり芸術である名作を上映しつづける主人公に共感するのは映画ファンとして必定。この映画が、2012年高知のオフシアター・ベストテン日本映画第一位に選ばれた理由がよくわかった。

兄の借金を返済するため、シネフィル青年秀二(西島秀俊)が殴られ屋として稼ぐ話と聞いて、暴力的なシーンは指の隙間から観ることになると思っていたが、なぜだかそれほど痛くはなくて、目の潰れ具合が前の場面と違うとか、余裕で観ることができた。しかし、西島秀俊は、あいかわらず青年役が似合うなぁ(笑)。

陽子(常盤貴子)・・・・ブラボー。
ヒロシ(笹野高史)・・・・この人がハラハラドキドキすると観ているこちらまでドキドキ。
ボス(菅田俊)・・・・お金貸したらいかん。もう、返せませんから~。

監督:アミール・ナデリ
(高知オフシアター・ベストテン上映会 2013/07/06 県民文化ホール(グリーン))

この空の花 長岡花火物語

賛否があるのはもっともだと思う。私自身は可もあり不可もありといった感じだ。おしまいの方は、過剰さと繰り返しとに疲れてきて、もう結構といった感じだった。ただし、この映画の趣旨は大いに買っているし、表現方法はとても面白いと思っている。

歴史を学ばず欺され続け、事件・事故の検証も不十分なまま流されていく日本人に対して(私自身が学んでいるわけでも行動を起こすわけでもないが)、どこまでも欺され流されたらいいわと、どうでもよくなっていた今日この頃、「歴史を学び、名も無き人の声を聴け」と声を大にして繰り返し唱える大林監督のパワーには敬服する。東日本大震災後の作品としてもポジティブでよいと思う。

いつどこで何がどんな原因で起こり、その結果何人亡くなったというような歴史を学ぶだけなら、当時生きていた人々への共感性はなかなか得られないだろう。証言を聴いたり読んだりする中で当時の人々へ想像が及ぶようになり共感性も生まれるのではないだろうか。遠藤玲子(松雪泰子)が「あなた、お名前は?」と尋ねて、防空壕の中にひたすら水を掛けていた少年が答える。歴史上の人物の名前を覚えるのも大切だけど、名も無き人々へ思いを馳せることも大切だと作り手は言っているように思う。

表現方法については、ワイプでの空間移動など大林監督らしい~と嬉しくなった。山古志の片山健一(高嶋政宏)の部屋の窓から棚田が、天草の玲子の部屋からは海が見える、その見え方が絵のようで面白かった。セリフでの説明を字幕でも繰り返し、念をおす格好になっていたのは、小学校で「六年生のお兄さん」「お姉さん」「ご卒業、おめでとうございます。」「おめでとうございます。」という繰り返しに思えて面白かった。登場人物がカメラに向かって話すのも、昭和と平成や、演劇と映画とアニメや、その他諸々がごっちゃになっているのもヘンテコリンでよかった。空襲のシーンや花火のシーンも綺麗だった。

私自身、花火を比較的近くで見たとき、空襲や大砲を連想したので(ドーンというのは爆発音、ヒュ~~というのは焼夷弾の落下音みたい)、元木リリ子(富司純子)が打ち上げ花火を怖がる気持ちはよくわかる。広島・長崎で被爆した人たちが、キノコやブロッコリーなどから原爆を思い出して辛さが蘇るという新聞記事を読んだときもあまり驚かなかった。ハリウッド映画で核爆弾が軽々しく扱われているのに対して憤慨した日本人の感想を目にしたこともある。これらは感じる方も感じさせる方も、どちらも止められないが、傷ついた人の気持ちを想像できるくらいにはなりたいものだ。そんなことも思いながら観ていた。

監督:大林宣彦
(高知オフシアター・ベストテン上映会 2013/07/06 県民文化ホール(グリーン))

「エロ事師たち」より 人類学入門

性の賛歌は生の賛歌。人類学入門にエロは必須という、今村監督らしい喜劇だった。
1966年の作品だけど古びてなくて、この感覚は今でも通用する新しさだ。8ミリフィルムの映写に始まり8ミリに閉じて終わる、スクリーン中スクリーンの入れ子細工になっているので、今回は緒方義元:通称スブやん(小沢昭一)というエロ事師について描いたが、他にもエロ事師はおるで~といった感じが伝わってくる。これ一作の中にスブやんだけでなく、たくさんのエロな人々がいたのに、他にもおるで~となると、もう世の中、エロ人だらけだ(笑)。
また、松田春(坂本スミ子)の亡き夫の化身のような巨大な鮒が、あるときはスクリーンを浮遊し、またあるときは占領し、何ともコミカル、かつ、シュールだった。

幸一(近藤正臣)/ケイコ(松田恵子)

監督:今村昌平
(2013/07/05 あたご劇場)