ペーパーバード 幸せは翼にのって

妻子を空襲で亡くしたホルヘ(イマノール・アリアス)の嘆きの場面、あるいは暴行を受けて帰ってきたエンリケ(ルイス・オマール)にホルヘがありったけの優しさを見せる(エンリケの髭を当たる)場面、はたまた極めつきは撃たれたホルヘを呼ぶミゲル(ロジェール・プリンセプ)たちにペーパーバードが舞う場面など、今や古くなったと思しき音楽と一体となった劇的な演出が全くイヤミにならず、スペインの内戦の頃を振り返る昔の色合いにピタリと嵌り、しかも旅芸人の歌と踊りとで楽しませてくれて、笑えるところもあり、とてもよかった。(子どもには盗むなと厳格にしつけるが、背に腹は代えられないという状況下、二人の大人が懐や帽子からジャガイモを取り出すところが哀しくも可笑しい。また、芸人を辞めて、やもめ村長に嫁ぐと決めた女性のエピソードも可笑しくて、やがて哀しい。)

ホルヘが総統批判の歌を歌ったとき、水を打ったように静まりかえる客席だったが、それからウン十年。老いたミゲルが同じ歌を歌うと客席が沸く。独裁政権下とは隔世の感である。スペインのことなどあまり知らない私でも隔世の感を味わえるということは、スペインの若者もそうなんだろう。映画は、こうやって、自由にものが言える喜びを伝えて行けるのだなぁ。

PAJAROS DE PAPEL
PAPER BIRDS
監督:エミリオ・アラゴン
(シネマ・サンライズ 2012/05/24 高知県立美術館ホール)

ダーク・シャドウ

家族の話だった(^_^)。アンジェリーク(エヴァ・グリーン)にとっては、悲恋物語であった。バーナバス(ジョニー・デップ)とジョゼット(ベラ・ヒースコート)にとっては、形を変えて恋愛成就。ティム・バートン夫妻が円満なせいでしょう。実生活がこんなにも作品に反映するものなのか(?)。前からのことだけど、バートン監督は見事なストーリーテラーだ。今回もリバプールから始まって、あっという間に物語に引き込まれる。70年代のファッションなども懐かしく観た。バーナバス姿のジョニー・デップが織田裕二に似ていると思うのは私だけだろうか。

エリザベス(ミシェル・ファイファー)/ホフマン博士(ヘレナ・ボナム・カーター)/ウィリー(ジャッキー・アール・ヘイリー)/ロジャー(ジョニー・リー・ミラー)/キャロリン(クロエ・グレース・モレッツ)/デイヴィッド(ガリー・マクグラス)

DARK SHADOWS
監督:ティム・バートン
(2012/05/19 TOHOシネマズ高知7)

ブリューゲルの動く絵

これは目のご馳走だ。絵画そのものの美しさが横溢している。小さく描かれた遠景の人々が微妙に動いているのも面白い。
一枚の絵について、映画で懇切丁寧に解説してもらった感じがする。赤い服はスペイン軍の服とか。モチーフが蜘蛛の巣状に配置されているとか。粉ひき風車は神の視点とか。疲れていてものすごく眠かったので、全編うつらうつらしながら観たのが本当にもったいない。ブリューゲルの絵はあまり好きではなかったが、今後観る機会があったら、もっとよく観ようと思った。そして、他の絵画もこのように解説してもらえたら、どんなに楽しいだろう。ぜひ、シリーズ化してほしい。

ブリューゲル(ルトガー・ハウアー)/マリア(シャーロット・ランプリング)/ニクラース・ヨンゲリンク(マイケル・ヨーク)

THE MILL & THE CROSS
監督:レフ・マイェフスキ
(こうちコミュニティシネマ 2012/05/19 メフィストフェレス)

少年

昨年の福島第一原発の事故の際、テレビにかじりついていた私たちは、政府は事実を公表したがらないということを学んだのだから、先頃、北朝鮮が「人工衛星と称して弾道ミサイル」を打ち上げるというときに、政府発表を鵜呑みにした人は多くはないだろうと思う。しかし、津波警報の出し方について、「命令調の方がよかった」などという被災者の声を聴いていると、お上的なものに頼り主体性を持とうとしない方向に流れていく心性を危惧しないではいられない。
また、ゴールデンウィークの新聞(憲法記念日だったろうか)に澤地久枝さんにインタビューした記事が載っていて、澤地さんは戦争を経験して政府は信用できないことを学んだと言っていたのだが、私は次の言葉に衝撃を受けた。それは終戦後、政府の言うことを鵜呑みにしてきたことに「恥と罪」を感じたということだった。

そんな日々を過ごしているところへ『少年』を観たものだから、終盤で少年が雪で作った宇宙人が日の丸に見えた。雪像に赤い長靴は「白地に赤く日の丸染めて」の日の丸(お上)ではないか。少年は、宇宙人像に向かって体当たりし、壊す。少年にとって宇宙人は正義の味方で頼みとするところのものだったのに。大島渚も政府に体当たりしたかったのだろう。それとも政府を当てにして堪るかという意思の表明だろうか。
こういう見方が許されると思うのは、この映画がのっけのタイトルバックから日の丸だったからだ。家族が行く先々の軒先に日の丸が掲げられている。極めつけは、家族が泊まった部屋の奥にたくさんの位牌があり、その背後の壁は大きな日の丸で覆われている異様な場面だ。この場面で少年の父(渡辺文雄)は戦争で受けた肩の傷をさらし、障害があるため働き口もないと息巻く。もはや位牌は「お国のために」死んで行った兵士たちとしか考えられなくなってしまう。(生きている者、死んだ者に対して責任を負うべきではないかという作り手の声が聞こえてきそうだ。)

少年には子どもらしいところもあるけれど、作り手の観念を背負ったような言動に見えることもあった。日の丸のことと合わせると、青年の主張のような観念先行のゴツゴツした作品に見えるが、大変やわらかく繊細な場面もある。私は義母(小山明子)と少年の気持ちが通じ合うブランコの場面が素晴らしいと思う。継母であることを気にしている母は、自分を好きになってほしくて帽子を買い与える。ところが、少年がその帽子をどんなに大切にしているかはちっともわかってない。少年は母のことが嫌いではないのだが、当たり屋をしながら転々とする暮らしより田舎の祖母がよいのだろう、“家出”を試みたりする。
そんな二人が並んでブランコを揺らしながら、もう少しお金が貯まったら当たり屋をやめて普通の暮らしをしようねと約束し合う。二人の声の調子、小さな公園、ささやかな願い。ハートがあるからこそ残ってきたし、残っていく作品だと思う。

監督:大島渚
(小夏の映画会 2012/05/13 あたご劇場)