ものすごくうるさくて、ありえないほど近い

「Silent Snow, Secret Snow」を「ひそかな雪、ひめやかな雪」と訳したのと同じくらい良い日本語タイトルだと思う。このタイトルと主人公の男の子の美しさに惹かれて観に行った。そして、なんだかとても感動した。

少年オスカー・シェル(トーマス・ホーン)の喪の仕事を描いた作品と思った。もしかしたら、911で遺族となった人たちへのエールでもあるのだろうか。そんな感じは受けなかったけれど、それくらいのスケール感があった。また、世間に触れることの大切さと親心のありがたさを感じさせてもくれた。

私は繊細すぎるのは良いことではなく、少し鈍感なくらいが生きるのに好都合と思っているのだが、オスカー少年は良いことでない方のよい見本だ。感受性が鋭く、自傷行為がヤバイと自分を客観的に観ることもできる。同年の子どもより物知りなんだろうけど、ガラスの箱入り少年は何ごとにつけ体験不足なのだと思う。少し世界が広がると怖いことが増える。触れてみないことには恐れは払拭できないので、パパ(トム・ハンクス)はオスカーのために小さな冒険を仕組む。ところが、パパの死とそれにまつわる最も怖くて悲しいことのために、オスカー少年はますます過敏になっていく。ここでひそかにママ(サンドラ・ブロック)の出番。とまあ、ストーリーを書いても仕方がないのでやめるが、オスカー少年もこの辛い時期を乗りきれば、間借り人(マックス・フォン・シドー)のように味のある老人になることは可能だ。

だけど、いったい何に感動したのだろう。少年と老人と鍵。
ものすごくうるさくて、ありえないほど近いって何なんだろうと今も考えている。

おばあちゃん(ゾー・コードウェル)
アビー・ブラック(ヴァイオラ・デイヴィス)
ウィリアム・ブラック(ジェフリー・ライト)
スタン(ジョン・グッドマン)

EXTREMELY LOUD AND INCREDIBLY CLOSE
監督:スティーヴン・ダルドリー
(2012/02/18 TOHOシネマズ高知6)

ドラゴン・タトゥーの女

オリジナルと比較をするのは良いこととは思えないし、したくもないけれど、どうしてもしてしまう。
役者が異なればキャラクターにも違いがあるのはあたりまえで、リスベット(ルーニー・マーラ)がフェミニンな下着を着けているのも、トラウマになるような過去がありながらも、どこか純粋性を帯びていて可塑性や線の細さを感じさせられるのは悪くはないと思う。また、ミカエル(ダニエル・クレイグ)がめっぽう色っぽく、ただただセクシーで、半ケツサービスまでしてくれて、寒がったり怖がったり痛い目にあったり、これまた悪かろうはずがない(?)。
問題は、この主役二人の化学反応が私にはまったく感じられなかったことだ。『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』のリスベット(ノオミ・ラパス)とミカエル(ミカエル・ニクヴィスト)の間には、二人の微妙な感情と距離感が感じられた。手負いの獣のような謎の女リスベットへの戸惑いと労り。けっして踏み込んでこない気遣いも優しい大人の男ミカエルから与えられる安心感と怖れ。そういうのに比べると、今作の二人は味気ないと思ってしまった。

演出もいけない。ミレニアム編集長とミカエルの関係は、オリジナルではほのめかしがあるだけだったが、今作では直接描写ありのわかりやすさ。それなのに、ヴァンゲル一族の相関関係やレベッカ事件のあらましは、わかりにくくなっているし、ナチスの印象なども薄くなっている。これは私の頭の調子がよろしくなかったのかもしれないけれど、動体視力を要する映像や字幕(セリフ)で説明されると、頭の調子のよいときでも付いていけないかもしれない。
それと、ベッドシーンで久々に見たモザイク!これはフィンチャー監督が、「ご想像にお任せします」式にワザと掛けたんではないかと思った。モザイクの範囲が広いし~。もし、ワザとなら失敗だったと思う。わざとでなくても興ざめなのに、作り手の作為を感じさせるようでは尚更だ。

タイトルバックは物語とちぐはぐなような気がしたけれど、その気持ち悪さはなかなかよかった。また、マルティン(ステラン・スカルスガルド)の家のガラス張りの部屋が昼と夜のシーンあり、不安で寒気がする夜の感じがよかった。それと『ゾディアック』の霧の中の橋もよかったが、今回も橋が印象に残った。

THE GIRL WITH THE DRAGON TATTOO
監督:デヴィッド・フィンチャー
(2012/02/20 TOHOシネマズ高知9)

ひろしま

この作品で最も力を入れたという原爆投下直後のシーン、実はそれほど衝撃を受けなかった。観たことあるぞーと思ったのだ。テレビドラマや映画やその他の媒体で少しずつ観たことがあるような気がした。皮がむけて、むけた皮が両手の先からぶら下がっている。そこまで描いているのかと思っていたので、私の想像よりはきれいだと思ってしまった。
ただ、東京電力の福島原発事故についての政府の発表やら対応やらと重なるところがあって、よく事故と同じ年にフィルムが発見されたものだと思った。

監督:関川秀雄
(高知県高等学校・障害児学校教育研究センター 2012/02/18 自由民権記念館)