その街のこども 劇場版

この映画、見逃していたけれど、2011年高知のオフシアター・ベストテン選考会で日本映画第1位になったおかげで、再上映され観れた。東日本大震災のあった年に上映されたということもベストテンに推す理由となっていたと記憶しているが、なるほど、どうしても東日本大震災のことを考えてしまう。

阪神淡路大震災の15年後、追悼集会に参加しようと神戸に帰ってきた美夏(佐藤江梨子)と、東京から広島への出張途上、追悼集会があることを知り、思い立って神戸で新幹線を降りた勇治(森山未來)。二人とも子どもの頃震災を経験している。出会ってから別れるまでの24時間で二人の距離が微妙に変化していくのが面白い。夜の街の空気感がよく伝わってくるし、美夏が亡くなった友だちの父親と手を振り合う場面などうるうるっと来る。建設会社で設計の仕事をしている勇次が、震災に遭ったとき出来るだけ安全なビルを建てたいと思っているのに、安全性より経済性が優先される現場でやるせない思いをいだいているところに、普遍性を感じたりして、こんなのが普遍なんてイヤだと強く思う。

この映画では身近な人を失う悲しみも描かれていたけれど、それよりも印象深かったのは人間関係の喪失だった。美夏の亡くなった友だちのお父さん。妻も子も失ったこのおっちゃんの様子が怖くて美夏は疎遠になってしまう。勇次の方は、震災後、父が儲けに走ってしまったお陰で恨まれ、友だちをなくしてしまう。
「絆」もあるだろうけれど、東日本大震災と福島第一原発事故で、生きている人間同士の関係性が壊れていってしまうとしたら、これほど悲しいことはない。怒りの矛先を間違えないように、よりよい解決策の方向性を見失わないように願っているのだけれど。

震災から15年、美夏はようやく気持ちの整理がついたのだろうか。勇次の方は、まだ追悼集会へ行く気になれないみたいだ。二人はお互いの気持ちを尊重して別れる。それぞれの思いを抱え続けるというラストだった。

監督:井上剛
(高知オフシアター・ベストテン上映会実行委員会、朝日新聞高知総局 2012/04/29 高知県立美術館ホール)

エリックを探して

さらりと愉快に作られているうえ、「やはり」というべきか、ケン・ローチ作品らしかった。

一番よかったのは、仲間っていいなと感じさせてくれたところ。仕事仲間というのは、家族の次に時空間を共にする人たちなので、うまくいけばエリック(スティーヴ・エヴェッツ)やミートボール(ジョン・ヘンショウ)たちのような関係を築けるだろうとは思う。だけど、世の中逆方向に進んでいるものだから、ケンちゃん、おとぎ話を作ったなと感じてしまう。それでも、集団違法行為で悪者をぎゃふんと言わせ、「エリックと家族に指一本触れるな」とその目的を告げ、「おれたちゃ、郵便配達員だ。覚えとけ。」と誇らしげな啖呵で締めくくられると、「このスクラムは、オールブラックスでも崩せまい」などとニマニマしてしまう。
それにおとぎ話と言えども、うえの結末に向かうまでの起承転結の「転」の演出はさすがで、エリックの義理の息子が拳銃を持って飛び出して行った後は、どうなることかと身が震えた。このへんの引き締まり具合は、『この自由な世界で』で突然やってきた覆面男に主人公が怖い目に遭わされる場面を思い出した。

「エリックを探して」は、主人公エリックが失った自尊心を探して取り戻すまでの話だと思う。それには、別れた妻リリー(ステファニー・ビショップ)に家出した理由を話せたことが大きかった。話せるようになったのは、外見を整え、体力を付け、リリーに向き合えるだけの下準備が必要だった。
私は自尊心については心配はないが、体力がまるでなく、何をする気も起こらないときが再々ある。だから、ジョギングでも始めたいのだけれど、靴だけ買って一度も走っていない。エリックにとってのカントナ(エリック・カントナ)は、私にとっては誰なのか。・・・・、そんなこと考えるより先に走った方がいいような気がしないでもない・・・・。

LOOKING FOR ERIC
監督:ケン・ローチ
(高知オフシアター・ベストテン上映会実行委員会、朝日新聞高知総局 2012/04/29 高知県立美術館ホール)

ラビット・ホール

悲しみ方は人それぞれ、何によって慰められるかも人それぞれ。
けれど、愛する人を失ったつらさと、それでも前を向かなくちゃならないのは皆同じ。そこには時間が平等に働いて、悲しみをポケットの小石に変えてくれるという。

夫婦仲にしても、加害少年に対する夫婦の気持ちとしても、こうあってほしいと願ったとおりになって、美しさが沁みてくる。
キャストがいいし(理想の夫!少年の驚くべき深い瞳!)、脚本も構成といいセリフといい完璧だ。脚本については、犬だけを取りだしてみても凄い。ファーストシーンで空っぽの犬小屋がチラリと映される。その後、ベッカ(ニコール・キッドマン)が実家に帰ったとき犬に吠えられる。餌を与えに来たオーギーが「預かっているんだけど、バカ犬でスミマセン」と言うと、ベッカが「うちが預けた犬で、スミマセン」(笑)。こうして笑いを取ったかと思えば、夫婦げんかの場面で、ハウイー(アーロン・エッカート)は、子どもが亡くなった遠因が犬にあると思ったから預けたのだと訴える。ケンカの末、犬を取り戻してきたハウイーは散歩に出て、犬を叱り飛ばしたことをきっかけに(自分でもそれほど怒るつもりはなかったのだろう。また、ベッカとの間が思いどおりにいかないことや、亡くした息子のことなどが頭を離れないのだろう)、犬を抱きしめて泣き崩れる(涙)。

原作は舞台劇だというが、それがまったく想像すらできないくらい映画的美しさに満ちた作品で、どの場面も印象に残る。プロローグのためらいなく引かれる一本の線から始まり、クライマックスの無音スローモーション(ジェイソンとベッカ)を経て、夫婦二人だけの哀しくも穏やかな黄昏時まで。ジョン・キャメロン・ミッチェル監督。今度は名前を覚えておきたい。

ナット(ダイアン・ウィースト)/イジー(タミー・ブランチャード)/ジェイソン(マイルズ・テラー)

RABBIT HOLE
監督:ジョン・キャメロン・ミッチェル
(シネマ・サンライズ 2012/04/20 高知県立美術館ホール)

バトルシップ

はははははははは、ははははははは!
は~あ。ふぅ~(あほらし)。(^m^)

まったく好みではないが、アレックス・ホッパー役のテイラー・キッチュは、主役を張るだけあってチャーミングで比較的背が低いところも可愛く思えてなかなかよかったし、ナガタ(浅野忠信)とか提督(リーアム・ニーソン)とか有名どころの俳優も出演しているし、全体のコメディ的乗りもよかったし、宇宙人の造形も気に入ったし、世界中がメチャクチャにされるのも面白く、わけのわからん敬老精神の発揮も肯定的に楽しんだけれど、演出にキレがないのが映画をつまらなくしている(と思う)。
冒頭、アレックスが一目惚れの彼女のためにコンビニにチキンフリットを買いに行く場面などモタモタしすぎなのだ。どうして、サクサクッと1、2分でまとめないのか。だけど、この初っ端のもっさり具合のお陰で、そういうゆるい演出で行くのねと、こちらもギアチェンジできたのでよかったのかもしれない。

BATTLESHIP
監督:ピーター・バーグ
(2012/04/20 TOHOシネマズ高知5)