ミスター・ノーバディ

観る人によって様々な解釈が可能な作品だと思う。そっとプリズムを覗いているような、ささやき声に耳を澄ましているような感じがする映画だった。
人生、どう転んでもままならない哀しさが、ひたひたと水のように押しよせる。どのニモも水に溺れる苦しさを味わい、どこかのニモに逃避する。生まれなければよかったという思いが両親の出会いを単なるすれ違いに変換し、ニモを消してしまいさえする。
確かだと思ったのは、ニモは溺れたことがあるってことと、彼にとって最も大切な人はアンナだということ。エリースと結婚したニモも、ジーンと結婚したニモも心のどこかにアンナがいるような気がした。だから、灯台の見えるベンチでアンナと出会えたとき、出会えたニモを残して、他のニモは消えてしまったと思う。
ニモ(ジャレッド・レト)
アンナ(ダイアン・クルーガー)
エリース(サラ・ポーリー)
ジーン(リン・ダン・ファン)
パパ(リス・エヴァンス)
ママ(ナターシャ・リトル)
ニモ:15歳(トビー・レグボ)
アンナ:15歳(ジュノー・テンプル)
エリース:15歳(クレア・ストーン)
ニモ:9歳(トマ・バーン)
アンナ:9歳(ローラ・ブリュマーニュ)
『プリンセス・ブライド』(ロブ・ライナー)・・・物語つながり
『未来世紀ブラジル』(テリー・ギリアム)・・・逃避つながり
「銀の三角」(萩尾望都)・・・選択つながり
MR. NOBODY 監督:ジャコ・ヴァン・ドルマル
(2011/10/15 あたご劇場)

カウボーイ&エイリアン

ジェイク・ロネガン(ダニエル・クレイグ)、はぁ~、色っぽい~(満足)。作り手の皆さん、クレイグ様の魅力をわかっていらっしゃる(拍手)。(『Jの悲劇』で初めてクレイグ様にお会いしたので、てっきりインテリ眼鏡のうらなり中年の色っぽさが魅力かと思っていたのに(笑)。)
カーネル・ウッドロー・ダラーハイド(ハリソン・フォード)のバカ息子パーシー・ダラーハイド(ポール・ダノ)は、若い頃のサム・ロックウェルがやったらピッタリ(^m^)。サム・ロックウェルは、妻を愛するという点でのみ輝くさえない居酒屋店主ドクを演じて味があった。
サマードレスっぽいロングドレスに拳銃ホルダーでウエストを強調のエラ(オリヴィア・ワイルド)は、エラが張っていた(^m^)。
お客さんがいっぱいだったし結構おもしろかったので、今後『スター・ウォーズ&七人の侍』とか『Uボート&バナナボート』とか二匹目のドジョウを狙うプロデューサーが出てくるかもしれない。
COWBOYS & ALIENS 監督:ジョン・ファヴロー
(2011/10/23 TOHOシネマズ高知5)

一命

うへぇ~。みなぎる緊張感、重厚な音楽、閉塞した武家屋敷。凄まじいパワーを持つ作品ゆえに、観終わった後(昼時だというのに)、まったく食欲がなかった。三池監督印のグロ描写はほとんどないが、緊迫感が持続するため、胃液がグルグルになるのである。だけど、おじけず多くの人に観てほしい。深いとか滋味豊かとは言い難いが、丁寧な作りでスッキリした映像がバーンと迫ってくるし、津雲半四郎(市川海老蔵)と斎藤勘解由(役所広司)の睨み合いだけでも入場料の元が取れると思う。(海老蔵はオーバーアクト気味だが、眼力、放射熱、風格はこの人だけのもので、かなりの求心力がある。)
それにしても武士とは誠につまらないものだ。
髷を取られた頭が裸同然であるなら、蟄居するもの無理はないと思っても、それが死に値する辱めとは理解しがたい。髷を取られたということは勝負に負けて一遍死んだということだが、一時、恥をさらしたとしても髪ならまた伸びるし、人の噂も七十五日と言うではないか。武士の世界では一遍死んだのだから生き恥をさらすなということだろうか。こういう人たちだから、狂言切腹を許せないのだろう。一遍切腹すると言ったのだから、「せよ」というわけだ。
そんなわけで、千々岩求女(瑛太)に対して最も厳しかった沢潟彦九郎(青木崇高)が、自分にも厳しく処した(二重基準を用いなかった)点は立派だと思う。私は沢潟が求女の身になってないから厳しいのだと思っていたが、若さゆえの過剰な厳しさだったのかもしれない。川辺右馬助(波岡一喜)も求女に厳しい目を向けていたので、自らの意志で切腹したのではないだろうか。そこまでやらなくてもという風情で求女の切腹について消極的だった松崎隼人正(新井浩文)は、髷くらいで死にたくなかっただろう。彼の切腹の場面がなかったので、命により切腹させられたものと想像する。命じた者も皆、命の絶ちどころを誤っている。
半四郎との遣り取りで斉藤勘解由の気持ちに変化はあっただろうか。戦国時代を生き抜き、求女の竹光の脇差しを見て自らのものを差し出そうとし、介錯も施した人物だ。求女を哀れと思う気持ちにはなれなくても、甲冑磨きを誉められる虚しさは味わえるのではないだろうか。
監督:三池崇史
(2011/10/16 TOHOシネマズ高知6)