剣の舞 我が心の旋律

ハチャトゥリアンが作曲した「剣の舞」の誕生にこんなエピソードがあったとは知らなかった(アルメニア人でチェリストだったことも)。
舞台等の検閲役人プシュコフ(アレクサンドル・クズネツォフ)が、ハチャトゥリアン(アンバルツム・カバニャン:ETか!というくらい指が長い)への私怨もあり、バレエ「ガイーヌ」最終幕に戦意高揚のための一場を加えるべしと初演の前日に命令し、彼は一晩で作曲した。いろいろ脚色はあるだろうが、一晩で作曲したことは有名な話らしい。まじっすか!?主旋律だけではなくてオーケストレーションを書き上げたってことでしょう?コピー機なんかないから写す暇がなくて楽譜はパートに一つしかなかったかも。振付だって大変だろうし。どれだけてんやわんやだったことか。画家のエピソードが陰々滅々たるものが多いのに対して、作曲家のエピソードが(例え暗くても)なんだか楽しいのは、一人で完結しない仕事だからだろうか?

ソビエトはスターリン時代でドイツと戦争中という背景が効いている。検閲がある息苦しさに加えて、戦争で傷ついた人や戦線に赴く人たちが登場する。徴兵を逃れようとするサックス奏者のアルカージー、ハチャトゥリアンと話したくて差し入れをし続けたプリマのニーナ。二人の辿る道の末はドラマとしてはありがちだけど、時代の暗さを表しているような気がする。

日銭稼ぎのため路上でアコーディオンを弾いている傷痍兵に助太刀をする形で、ハチャトゥリアン、ショスタコーヴィチ、オイストラフ(有名なバイオリニストらしい)の三重奏が聴ける。わーい。(三人が表現の自由がないことをヒソヒソとこぼしているシーンもよかった。)
対ドイツ戦線に赴く若者たちのため、急きょバレエの上演をする。わーい。
「剣の舞」の舞、もっと観たかった。
「剣の舞」誕生エピソードを描く中でアララトの虐殺の歴史を忍ばせて、忘れてはいけないことを想起させる見応えのある作品だった。

(検索のおすすめ)
「剣の舞 高速」で検索すると面白いですよ~。わたしのお気に入りは次の3本。
剣の舞(ベルリンフィル+鬼指揮者):はははは!2分を切る!
剣の舞(和楽器演奏):合う~!
ストリートピアノ】都庁で「剣の舞」弾いてみた/ ごぼう 連弾:草間彌生柄?
打楽器アンサンブル「剣の舞」:上手な奏者は全身で弾く。

アララトが出てきたのでアトム・エゴヤン監督『アララトの聖母』の音楽を使ったジェフリー・バトルのフリー演技を思い出して「ジェフリー・バトル アララト」と検索して・・・・。
2008 WC ジェフリー・バトル FS
(2021/02/08 あたご劇場)

彼女は夢で踊る

素晴らしい。
よみがえる失恋の痛み、劇場閉館にともなう賑やかだった時代と青春への惜別。それらがフィルムっぽい柔らかな映像で描かれる。レディオヘッドの音楽と驚くほどマッチしているのもイイ。ユーモアもあるし、『タクシードライバー』でニューヨークの町を背景に歩くトラビスのように、広島の町を歩く社長さん(加藤雅也)のショットもグー。詩か上質の文学作品のような美しさがある。ストリップもちゃんと見せてくれたし、作り手の広島第一劇場への愛も充分伝わってきた。

(追記)
世慣れた社長さんにも若い頃(犬飼貴丈)のような柔らかい心が残っている。いつまで残るのかなぁ。残っていると当人はしんどいけど魅力的だと思う。年齢の問題ではなく人それぞれ違うのだろうなぁ。
「踊子」より「ストリップダンサー」又は単に「ダンサー」の方がピタッとくるパフォーマンス。踊子=舞妓、ダンサー=芸子みたいなニュアンスかなぁ。
(2021/01/29 あたご劇場)

ブリット=マリーの幸せなひとりだち

重曹はそんなに万能なのか~。家事の勉強もしなければ。
リヴァプールFCファンが観たら喜ぶ。(余談:リヴァプールFC命のジェームズ・サットンは、数年前に結婚し、ヒッチコック作品でおなじみの「ロープ」の舞台にも立ったが、近年ツイートしないので消息不明。)

スウェーデンの様子がチラホラわかって面白かった。63歳が働こうと思っても働ける場所はあまりない。それは日本も同様だけれど、スウェーデンのハローワーク(?)は相談しやすそう。本当に1対1で相談にのってくれるの?
性差別しないようにというのは、ちゃんと教育されていてハローワークでも、そのへんは適正にされている模様。
田舎でも移民が思いのほか多くて定着している。

主婦歴40年のブリット=マリー(ペルニラ・アウグスト)は、掃除洗濯ガラス拭き、やるべきことをやれば、それでよし。長年の夫の浮気にも気づかないふり。フランスに行きたしと思えども旅は怖い。規則正しい生活に不満はない。・・・・と思い込むようにしてきたので、表情筋が硬くなってしまった。年も年だから関節も硬く、したがって、動きもスロー。スロー、スロー、硬く硬く。

サッカー少女ヴェガとブリット=マリー、子どもと大人が対等に話し合うところが面白い。ヴェガがなりたい自分に向けてまっしぐらなのがまぶしい。ブリット=マリーは、そうはいきませんて。この年になると気力体力が。だけど、ブリット=マリーよ、やっぱり人にもまれて刺激になったね。人を活性化させるのは人だと思う。ブリット=マリーのスローなテンポで、やわらかいパリの風に吹かれるラストシーン。いくつでも、いつでも、決意と勢いさえあれば!
(2021/01/18 あたご劇場)

星屑の町

「星降る街角」を彷彿させるタイトル。ムード歌謡、いいねぇ。キティ岩城(戸田恵子)、歌うま、華あり、人気のピークは過ぎても、経験を積んだしなやかさがあって魅力的。山田修とハローナイツ(小宮孝泰、大平サブロー、ラサール石井、渡辺哲、でんでん、有薗芳記)の面々もキャラクターが立っていて、歌う姿(口の開け方)だけを取っても面白い。おじさん、おばさんの中で愛ちゃん(のん)が瑞々しくお得な役柄。前途洋々で故郷を後にする人よりも、故郷に錦を飾れずとも惰性であっても、旅ガラスを続けようとする哀愁の中高年の道行きに投げ銭。六造じいさん(柄本明)のエピソード、サイコー(^o^)。
(2020/12/28 あたご劇場)