ソロモンの偽証 後篇・裁判

数ヶ月前、世界の若者へのアンケート結果として、日本の若者は他の国に比べて規範意識が強いというのを聴いて、それって悲しむべきことだと思っていた。規範意識が強い若者と聴いて私が思い浮かべるのは、ヒトラーユーゲントや紅衛兵なので(^_^;。←バイヤスヤバイが、若者ってアバンギャルドで、アウトローで、アホじゃないとね!と思っている私からするとそういう感じを持ってしまう。若者が3Aでいられる社会の寛容さがなくなっているからなぁ。・・・・というのは映画とは関係ない話だった;;;;。

『ソロモンの偽証』の少年少女は、『前篇・事件』ではかなり軋んでいたけれど、『後篇・裁判』では青く真っ直ぐだった。この真剣さが、ヒトラーユーゲントや紅衛兵のようにならなかったのは、罪の追求ではなく自発的な謎の追究だったからだろうか?藤野さん(藤野涼子)と神原くん(板垣瑞生)を中心にパワーがあった。虐めていた大出くん(清水尋也)、虐められていた三好さん(石井杏奈)、松子ちゃん(富田望生)、自殺した柏木くん(望月歩)もパワーがあった。(三好さんはお母さんの前では泣けなかったけれど、藤野さんの前では泣けた!裁判中、暴れ出した大出くんも羽交い締めだ!みんな、パワー、あるやん!)

あの裁判からイジメがなくなったと現校長(余貴美子)のセリフでサラリと流された感じだったけれど、この多様なパワーのぶつかり合いが、いじめをなくす有効策の一つだと作り手が言っているような気がする。裁判という秩序を保ったなかでの本音のぶつけ合い(大人たちは見守りサポートする)は、ある種の理想が描かれていたような気がする。希望とか祈りのようにも感じる。

裁判所の裁判では裁かれない罪悪感とか、親たちの表情とかもよかった。成島出監督作品にハズレはなかったが、ついに傑作をものしたと思う。

監督:成島出
(2015/04/12 TOHOシネマズ高知4)

案山子とラケット 亜季と珠子の夏休み

現代日本の地方に共通する問題を描き、希望は役場のやる気と子どもにありという話かな。熱量不足。リアリティ不足(ここまで屈託のない中学生は作品の主人公としては物足りない)。変にフェティッシュ(女の子二人が谷川で水を掛け合うシーン、スローモーションでなくてはいけないのか!?)。夢を見させてくれるわけでもなく、きれい事に終わっている。

監督:井上春生
(2015/04/11 あたご劇場)

バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)

ドコスコ、ダンダン。ドラムがいいね!自分に合う映画は、始めの5秒でわかる。話はシンプル。承認欲求(愛されたがり)のお話と受けとめた。単純な話だけに台詞の深さや表情の豊かさが生きてくる。結末は破滅か否かのサスペンス。かなりドキドキさせられた。自分を認めてほしいという願いは誰もが持っているだろうけれど、ドラッグの吸い殻をみつけたとき、娘(エマ・ストーン)の心配より、スキャンダルとなって自分の仕事がダメになることを心配するほど利己的なのには(仕事優先で離婚もしているし、娘に残すはずの私財を投げ出しての公演だし)、私には共感できるところがほとんどないと思った。ただし、自信のない自分をもう一人の自分が叱咤激励する図はわからないではなかった。でも、何が描かれているかより、どう描かれているかの方が面白い作品だ。一筆書きをこよなく愛する私としては、映画で一筆書きを目にできてワクワクした。アカデミー賞で作品賞、監督賞を受賞したそうだけど、マイケル・キートンに主演男優賞を獲らせてあげたかった。

追記:中島敦の「山月記」っぽいところがある。

BIRDMAN OR (THE UNEXPECTED VIRTUE OF IGNORANCE)
監督:アレハンドロ・G・イニャリトゥ/撮影:エマニュエル・ルベツキ/音楽:アントニオ・サンチェス
(2015/04/11 TOHOシネマズ高知9)

評決

3回目の鑑賞。アルコールからカフェインへ。

1983年の公開時に(とでんで)見ていたことを忘れていた。当時の感想文を見るとコンキャノン(ジェームズ・メイソン)の裏工作に腹を立てていたようだ。正義や真実などそっちのけの裁判や、挫折をひきずっているなさけない男フランク(ポール・ニューマン)を厳しい目で見ていたかもしれない。フランクの最終弁論は抽象的で説得力があるとは思えず「甘いなー」という感じがしたけれど、ローラ(シャーロット・ランプリング)からの電話と知りながら受話器を取らないラストは「苦いなー」と思ったと書いていた。

フランクは、かつて正義と真実を信じていたが裏切られた過去がある。そこからの転落人生、解雇に離婚、やさぐれて酒浸り。葬式の最中、遺族に対して弁護士の営業をして「心がない」と非難される始末だ。お金があり要領のいい者が勝者となる嘘だらけの世の中で、一旦軍門に下る(←旧知のミッキー(ジャック・ウォーデン)がローラに語ったことからわかる)とその一部と化して生きるしかない。その苦い現実を酒で紛らわせているのだろう。ところが、医療過誤で植物人間となった女性の姿を見ていて、事実を隠蔽しお金で片を付けてよいものかという考えがむくむくと蘇る。しかし、そこからも七転八倒がつづくのだ(^_^;。

とにかくポール・ニューマンは名演。示談でよかったのに裁判しやがってと怒り心頭の依頼人にタジタジとなったり、証人に逃げられて「負けだ」と言ってもローラには慰めてもらえず追い詰められてバスルームに逃げ込んだり、鎌を掛けたり嘘も方便の聴き込みしたり。一番胸が痛かったのは、ローラを叩いたときの表情(ToT)。そして、「次はない。次はないんだ。」も。実にカッコ悪い主人公だったのがカッコいい。

裁判であれだけの決定的な証言を得ながらもフランクには勝てるという気がしなかったようだ。世の中甘くないと身をもって経験しているからだろう。裁判が終わって事務所で一人きり飲む一杯のコーヒー。嘘だらけの世の中でも酒で自分を誤魔化さず、苦みを味わって行きまっしょい。

The Verdict
監督:シドニー・ルメット
(2015/04/05 DVD 鳴謝>シューテツさん)