海角七号 君想う、国境の南

ときどき人間が嫌いになって、山の庵にこもりたくなる私としては、こういう人間味のある人たちに笑わせてもらって、人間、いいじゃんと思い直せる作品に出会えると大変ありがたい。昔はユーモラスな作品も多かったような気がするけど、久々にこんなにたくさんの憎めない人たちを見たように思う。先日見た『Wood Job !』もかなり楽しかったけれど、お山、いいじゃんと思えても、人間、いいじゃんとまでは、なぜだか思わなかった。どうしてかなぁ?

町起こしのコンサートに、台湾の田舎(?)も日本と同じような問題を抱えているのねと思ったり。恋愛を描くのに日本と台湾の歴史を織り込み、昔の悲恋と対比することにより、 人の行き来が自由な今だからこそ 国境や文化の異なる不自由さを乗り越えられるという結末が爽やかだった。
もちろん、音楽もとても良くて、月琴じいさん、先住民民謡コンビ、ロックに島唄、シューベルトと大いに楽しませてもらった。

めざせ、バリアフリー、ボーダーフリー、ミックスミックス、トーストトースト!

監督:ウェイ・ダーション
(高知県立美術館 2014/05/17 高知県立美術館ホール)

ルパン三世 カリオストロの城

アニメーションならではの(現実にはありえない)アクションが、矢継ぎ早、かつ、ユーモアにあふれ楽しい。各キャラクターの魅力もキャラ同士の関係性も(クラリスの純粋無垢加減や彼女に対するルパンの宝もの扱いが非常に面はゆいものの)懐かしいような大切な何かを感じさせる。キャラクターがセリフを発するたびに小粋さと小っ恥ずかしさとの間を行ったり来たりしていた。音楽も良かっし、カリオストロの秘宝もスケールの大きさに仰天させられたが、願わくば、34 年前の公開時に見ておきたかった。瑞々しい感性とは隔たりのある自分が、スクリーンの外側でうたた寝したりっていうのが、(;´д`)トホホなのであった。

監督:宮崎駿
(2014/05/10 TOHOシネマズ高知1)

鑑定士と顔のない依頼人

面白い!なるほど、2回見たくなるなぁ。これは本当に予備知識なしで観た方がいい。私は予告編だけの情報で、「妖しそう・・・」と変な(?)期待をして観に行った。そうしたら・・・・。

機械仕掛け、時計仕掛け、仕掛けがいっぱい。その仕掛けを通り抜けた後、観客が発見できるものは、嘘と誠のブレンドの面白さと孤独の深さだ。

鑑定士ヴァージル・オールドマン(ジェフリー・ライト)は功成り名を遂げた人物だが、自己中心的なため他人との交わりは淡泊に過ぎ、孤独で寂しい人だ。それが最初の5分で見事に描かれている。
孤児というハンディキャップを乗り越え才覚一つで生きてきたのは偉かったけれど、競売仕切人の立場を利用して、売れない絵師ビリー(ドナルド・サザーランド)の協力のもと、お気に入りの肖像画を長年不正に手に入れており、決して誉められた人物ではない。彼の孤独は、隠し部屋で魅惑の女性に取り囲まれるときに癒される。いやいや~、なかなかイイ趣味。憧れますわ~、どんな絵にしようかな・・・・(危険)。

しかし、ヴァージル、可哀想だった。ああいう人の心をもてあそぶようなことをしてはいけない。恨みのあるビリーはともかくロバート(ジム・スタージェス)もクレアも可愛い顔して、あまりと言えばあまりの仕打ち。それでも私はどちらかというとハッピーエンディングだと思っている。贋作の中にも真実がある(贋作者は自分のサインを残す)のだから、クレアの「何があろうと愛している」というのは、彼女のヴァージルに対するサインであって、実際、プラハに「ナイト・アンド・デイ」という店もあったと考えるヴァージルには希望がある。だけど、詐欺というのは全部が嘘ではなく、誠をほどよくブレンドするから本当らしく見えるものなのだ。「ナイト・アンド・デイ」が実在してもクレアの気持ちはやはり嘘だったのかも。そうだとしても、百の肖像画よりも一つの体験と思って良い思い出を脳内リピートして前向きに生きていけばと思う。けっこう、他人事・・・(^_^;。

ヴァージルはどこまでも自己中心的で、それは最初から最後まで変化なし。こっぴどい目にあって入院中(?)、元秘書が心配してたずねてきてくれたのに、その思い遣りに気づくことさえできないのだ。そんな人が、クレア(シルヴィア・フークス)のためを思って、彼女が広場恐怖症を克服できるようにしていたのが、愛やな~と思ったのだけど、同時に機械仕掛人形(オートマタ)のことを所有者であるはずのクレアに一向に話さないのが不思議でならず(カタログにも入れてなさそうだった)。肖像画の不正入手とこのへんの悪どさで、ヴァージルへの仕打ちとバランスを取っているように感じた。

機械仕掛人形の悪趣味さと悪意には些かゲンナリ。クレアの屋敷が映画の撮影にも使われていると作品中で言われる、嘘と誠のブレンドはやはり面白い。

三角絞めでつかまえての「鑑定士と顔のない依頼人」
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監督:ジュゼッペ・トルナトーレ
(2014/05/10 あたご劇場)

ローン・サバイバー

アメリカ海軍特殊部隊万歳、戦友万歳の転落イタタ敗走アクションであり、困っている人を助けるのに敵味方の区別なく命まで懸けるという善意を驚異として描き称えた映画だった。ただ、私としては、それよりも戦争の様変わりと一つの疑問の方が大きかった。

戦場が印象に残っている映画と言えば、『バリー・リンドン』や『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦』などの対面タイプ、あるいは『最前線物語』『プライベート・ライアン』などの前進陣取りタイプ、ヴェトナム戦争ものや、その応用編みたいな市街地のゲリラ戦『ブラックホーク・ダウン』などがある。湾岸戦争やイラク戦争を舞台とした『ジャー・ヘッド』『グリーン・ゾーン』『ハート・ロッカー』は、基地がテントやなんかではなく割合きちんとした建物でテレビなどもあり、家族とスカイプで通信したり、お酒まで飲んでいたりするので、出張先のホテルから戦場まで出かけていって一仕事してまたホテルに帰るというふうに見える。『ローン・サバイバー』も個室が与えられていて、イラク戦争もののようにお出掛け一仕事タイプだと思った。これが戦争も様変わりしたと思った要因だけれど、考えてみれば陣取りもゲリラ戦も暗殺も今もあるだろうから、戦争の様変わりというよりも戦争のあり様にお出掛けタイプが加わったということかもしれない。

それにしてもお終いにデヴィッド・ボウイの「ヒーローズ」が歌われたのには驚いた。「ヒーローズ」は、ベルリンの壁がまだあった頃、壁を隔てた恋人たちの会いたくても会えない絶望的状況に思いを馳せたボウイが、「たった1日だけど会えるよ。そのとき、僕は王で君は女王。1日だけのヒーローだ。(ものすごい意訳;;;)」と叶わぬ夢として作った歌なのだ。そう思っている私としては、ネイビーシールズを(その犠牲も含め)英雄として描いた映画に、なぜ提供したのか大いに疑問なのである。

(シネマ・スクウェア 2014年4月号)