2015年覚書(マイ・ベストテン)

いや~、心の余裕、大切ですねぇ。2015年は若干それが減ってしまい、日本映画26本、外国映画28本だった。心の余裕が「なくなった」とは言えない本数だ。かるかん率63%。

毎年、好きを基準に選んでいるベストテンは、10本にとどかず次の2本だった。

2本とも全編にわたりハイライトシーンがつづき(それが徒とならず)、数々のシーンが印象に残っている。特に『百日紅』は、型に嵌らず自由で美しく、見ていてとても楽しかった。

ベスト・キャラクターは、『ヴィンセントが教えてくれたこと』のロシア系美女ダカ(ナオミ・ワッツ)だ。口は悪いし、態度はでかい。ねぐらはいずこのド貧乏。クスリを現金に換える道に通じているし、ちょい悪のヴィンセントとは腐れ縁。しかし、身重の身体でハードな仕事をこなし、心の根のよい頼りになる人。彼女をこそタフガイと呼びたい。

『世界の果ての通学路』、通学距離や方法がいろいろで面白かった。段取りをふんだ撮影が、ドキュメンタリーとしては意外性や広がりをそいでいると思うけれど、作り手の関心事はそこにあるのか~という感じだった。共通するのは学校に行って勉強したいという気持ちと、そうすることによって未来を拓けると知っているということかな。

『進撃の巨人 前篇』、巨人の造形や戦い方が面白くて後篇も見るつもりだったけれど見なかった。やっぱり美しいものを見たいので。死屍累々及び巨人の食べ散らし方が無残である。

『ミッション・インポッシブル ローグネイション』、トム・クルーズの底力を見た!トム・クレイジーと呼びたい!ジェット機にしがみついているシーンは、予告編で何度見てもたいしたことなさそうだったのに、本編では鳥肌が立った!話はすっかり忘れたが、面白かった!ローグネイションってどういう意味か調べようと思って未だ果たせず。

太平洋戦争関係の『日本の一番長い日』(原田眞人監督)、『野火』(塚本晋也監督、市川崑監督)、『プライド 運命の瞬間』(伊藤俊也監督)を見た。いずれも見応えがあり面白かった。『日本の一番長い日』における昭和天皇や『プライド 運命の瞬間』における東條英機の描かれようを見ると、『鉄の女の涙』を見に行くかと問われて「見ないし、作らない」と答えたケン・ローチ監督を思い出す。作品の登場人物として描くと観客から共感を得るようになってしまうこともあるので、権力者は描かず歴史の評価にまかせることにしている・・・だったかな、そんなことを言っていたように思う。権力者(例えばヒトラー)も人間だもの そこのところを踏まえたうえで見るようにしたい。

名作『おとうと』を見るのは2度目。1度目からだいぶ時が経っているので、わかるようになったかしらと期待して見たが、ちっともわからなかった。なぜ、名作なのか!?

『バクマン』のハイライトシーンは、ラストのクレジット。

『黄金のアデーレ 名画の帰還』は、黄金は金塊のようなイメージがあるので、「金襴緞子のアデーレ」はどうでしょう(笑)。「金衣女人」がいいと思っていたら中国語圏のタイトルになっているみたい。『イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密』もそうだけど、副題がつくとつい「ハリー・ポッターとなんとか」や「スター・ウォーズなんとか」のように子とも向けか純正娯楽作のような感じがして、見る前はいいけど見た後はちょっとイメージがちがう感じがする。この2本は目玉となるシーンが一つあればベストテンに入れたかも。

『預言者』は、ヨーロッパの娯楽作の渋さに唸った。何者でもなかった青年が、刑務所でアイデンティティを確立していく。しかも自ら選び取ったわけではなく過酷な流れで。見た目で判断され仲間には仲間に入れてもらえず、仲間ではない方からは仲間扱いされ仲間になった。その物語に移民問題も反映されている。多分、旧(?)植民地からの移民でフランスに限らず昔からくすぶりはあったろうけど、フランスでは数年前から暴動がニュース沙汰になっていた。この映画は2009年制作とのことなので、そういう動きを受けて作られたのだろう。独房に現れた殺したはずのあの人。あの人をどう解釈するのか。あれは主人公の良心が見せた幻だと思う。自分で自分を励ましていたのだろう。だから、最後には自分自身の励ましも必要ないくらいたくましくなったってことだと思う。預言者=主人公で、主人公はアングラ組織の教祖的存在になると言うことなのかな?あんなに可愛い19才だったのに・・・・。もとの19にしておくれ~。(イスラム教徒も日本人みたいにクリスマスを楽しんでいるのが面白かった。『パピヨン』で見たのとそっくりな懲罰房も。)

PC画面でもいろいろ見た。今年はできるだけ感想を書きたい。

MUD マッド♥♥♥
バニー・レークは行方不明♥
トム・アット・ザ・ファーム♥
胸騒ぎの恋人
マイ・マザー♥
リピーテッド
パレーズ・エンド 第5話完結
ペーパーボーイ 真夏の引力(苦手)
ウィズネイルと僕♥♥♥
レイ♥♥♥
somewhere
彼女が消えた浜辺♥
ロスト・イン・トランスレーション♥
レイヤー・ケーキ♥
昼下がり、ローマの恋♥
ランナウェイ・ブルース

十九の春

パディントン

楽しかった~(^o^)。
古き良き娯楽映画の王道、伏線を拾いまくり、登場人物はもれなく活躍。結末がわかっていても手に汗握り、音楽は小粋でミセス・ブラウンはおしゃれ(美術もいい!)。骨董屋の主人(ジム・ブロードベント)が核心を言う。身体がやってきても、心がなじむのに時間がかかったって。ペルーから「家」を探しに来たパディントン。「家」とは「ホーム」。「at home」のホームだ。短期間で家を見つけられて(ブラウン一家と出会えて)幸運だった。いろんなところで笑ったけれど、最高だったのがバッキンガム宮殿の衛兵さんだ。交替した衛兵さんが冷たいのも深いと思う。
(2016/01/24 TOHOシネマズ高知1 吹き替え版)

ウォールフラワー

デヴィッド・ボウイの「ヒーローズ」が主題歌となった映画だとは知らずに見て思わず落涙だった。
病気で休学していたチャーリー(ローガン・ラーマン)が復学して、サム(エマ・ワトソン)とパトリック(松潤エズラ・ミラー)のきょうだいと友だちになり、三人でドライブするシーンに使われていた。いい曲だと言って、車の荷台に立ち両手を広げて夜風を切っていくサムがキラキラとまぶしい。チャーリーは魅せられる。

「壁の花」はあまりいい意味ではないはずだけど、この映画では、心に傷を持ち周りにうまく溶け込めず壁の花でしかいられないチャーリーを、壁の花であるからこそ観察者になれるのだし、作家にだって向いているのだと肯定的に描いている。そのうえで、壁から離れ一歩踏み出す彼をやさしく見守っている。
青春映画の「もがき」は、パトリックのもがきのように大抵は派手だけれど、チャーリーのもがきは弱々しい。呼吸する空気の量が極端に少なそうだ。だから、アンダーソン先生も絶妙の距離感でチャーリーに接している。チャーリーの家族もなかなかに絶妙だ。

「進撃の巨人」は世界中で読まれているそうで、そこに描かれた壁が何を象徴しているか(香港では民主化を阻む壁として読んでいる人がいるそうだ)、人それぞれのイメージがあると思う。村上春樹は何かを受賞したときのスピーチでsystem(組織、制度、体制)と人を壁と卵に例えたこともあった。『ウォールフラワー』の壁は、映画の最後で語られたように「変えられない過去」を象徴しているのだろう。
「ヒーローズ」で歌われたのは言うまでもなくベルリンの壁だったが、壁が壊された今も歌われている。世の中の人が、行く手を阻まれたとき、何かに捕らわれたとき、乗り越えるべき壁、振り切るべき壁があまりにも大きいとき、それでも1日だけどヒーローになれるという希望の歌として、これからも歌われるだろう。そう気づかせてくれた、この映画の作り手に感謝。

THE PERKS OF BEING A WALLFLOWER
(2016/01/20 動画配信)

ブリッジ・オブ・スパイ

国家は非情なり。ジム・ドノヴァン(トム・ハンクス)は、よく闘った。
スピルバーグは名匠の域に達しているなぁ。

追記

  1. 敵対する国であっても、市民同士は友だちになれる。ジム・ドノヴァンの闘う相手はアメリカ合衆国でありソ連であり東ドイツだった。
  2. マスコミに踊らされて(あるいは了見が狭いせいで)、ドノヴァンを見る目がコロコロ変わる電車のみんな。ああなるのは何とか避けたい。
  3. 電車に乗ったドノヴァンが、フェンスを乗り越える若者を目にして、ベルリンの壁で撃たれた人たちを鋭く思い出す。このラストシーンによって、冷戦時代の話が今につながる。壁を乗り越える人たちは、今なら難民。壁に取り囲まれたパレスチナの人たち。日本国内にも様々な壁がある。車窓から高みの見物でいいのかという問いを突きつけられるようなラストだった。
  4. シリアス一辺倒にならず、ユーモアをおりまぜた演出に脱帽。最敬礼。

(2016/01/10 TOHOシネマズ高知4)