海洋天堂

海と空のシーンから始まったこの映画、明るく穏やかな水色と空色が印象に残るハッピーエンディングだった。

息子ターフー(ウェン・ジャン)が自閉症で彼一人では生きていけないのに、父ワン・シンチョン(ジェット・リー)の余命は数ヶ月。子どもより先には死ねないと思っていただろうけど。ワン父さんは残された時間で何とかターフーをみてくれる施設を探さなければならない。
そんなわけで、自然と中国の福祉事情が垣間見えるわけだけれど、ターフーが通っていた学校の元校長やワン父さんの職場の水族館館長(ドン・ヨン)など、周囲が協力していくことを描いているので、福祉施策の問題だけでないということがそれとなく伝わってくる。

感動したのはやはり子を思う親の気持ちにだ。自分が死んだ後、息子が寂しがらないように「父さんはウミガメだぞ~」と思い込ませるシーン。ウミガメの格好をしてコミカルなんだけど泣かされる。この手の映画は、アメリカを除いて(?)母と子が多いように思うけれど、今回、お父さんの面目躍如。ワン父さんが亡くなった後、教えられたとおり生活できているターフーを見ると、父ちゃんありがとうーとまた泣ける。二人の絆をぬいぐるみの置き場所で表現したのもとてもよかった。
演じるジェット・リーも素晴らしかった。優しい表情だけでなく焦りでつい叱ってしまったときの顔、叱った後の後悔の顔。顔の表情だけではない。病のため全身がけだるい様子などリアルだった。

サーカスでジャグリングをしているリンリン(グイ・ルンメイ)。旅がらす生活の孤独ってものがある。ターフーとの出会いに安らぎ覚えていたのがよかった。ターフーを掛け替えのない存在と思うのは親だけじゃないぞということだろう。

このようにハンディキャップを持ちながら生きる人に何が必要か、親子の情愛を主軸に描かれた作品なんだけど、私はワン父さんにも必要なものがあったと思う。
隣人のチャイ(ジュー・ユアンユアン)さんは、ワンさんを憎からず想っていて、どうやらワン父さんとは両思いなのだが、ここは東洋。子どもは一生手が掛かる。ワン父さんは、チャイさんにターフーの世話をさせるのは悪いと思い、想いを封じていたのだった。あああああ、これがフランスならねぇ!
私は『海洋天堂』は「現状」を描いてリアリティがあると思ったし、感動させてもらったので全然文句はないのだけれど、「感想、何書こうかな~」と思っているうちに、現実の世の中は、子どものためだけに生きる親の美談で終わらせず、親も親自身の別の幸福を追求できる「目標」があってほしいと思ったのだった。

海洋天堂 OCEAN HEAVEN
監督:シュエ・シャオルー
(アートゾーン藁工倉庫、日本財団 2011/12/24 アートゾーン藁工倉庫・蛸蔵)

聯合艦隊司令長官 山本五十六

「東郷平八郎と山本五十六と、どっちがどっちだっけ?」というくらいの認識で恥をかくでもなく何の支障もなしに暮らしてきたけれど、今回、五十六がどんな人物かわかって、知的好奇心が満たされた分嬉しい。もちろん、作り手の目を通した五十六(役所広司)像なので、実像や歴史的評価とは異なっているかもしれないが、この五十六像でいくと、なかなかたいした人物のようだ。甘党で将棋が好きで、先人・歴史に学び教養があり視野が広い。何より国を守るとはどういうことかを考え抜いていた。だから戦争には反対し、先のことを考え若者を大事にした。「軍人は戦争をしたがる」という私の偏見は改めなくてはならない。何もかも思いどおりにならないなかで、動かざること山の如しみたいな大将ぶりと、家庭人としては滲み出る愛情の深さ、大敗を喫した部下に茶漬けをすすめたり、甘味処の女の子にリボンを贈る繊細さが(ほんまかいなと思いつつも)、タイトルロールとして充分な魅力を発揮していたように思う。

そのほか、海軍と陸軍が意見を異にしていたこと、海軍の中でも薩摩や長州出身者とそれ以外みたいな心理的隔たりがあったことなども面白かったけれど、五十六の人物像に織り込んで、もっと大事なことが描かれていたと思う。それは当時の民衆が戦争ウェルカムだったことと、そういう世論を作ったのはマスコミだろうということだ。(数年前、北朝鮮がロケット実験だと言って飛ばしたものを、日本ではミサイル攻撃の予行であるかのような雰囲気で報道されたことがあり、そのときの騒ぎようを見ていて、こうして戦争になるんだなと実感したことがあった。)そんなわけで、マスコミの報道には要注意だ。福島第一原発事故後の報道でも、大本営発表をそのまま伝えた昔と変わりない部分があるのではないだろうか。真藤記者(玉木宏)に対して、よく観てよく聴き、心で感じろという五十六の助言は、真珠湾奇襲から70年経った今も変わらず真実だと思った。

米内光政(柄本明)
井上成美(柳葉敏郎)
山口多聞(阿部寛)

監督:成島出
(2011/12/23 TOHOシネマズ高知5)

子どもの頃

シュロップシャーのスタアというサイトがあって、ジェームズの子どもの頃についての記事とインタビューが載っている。
記事によるとスタッフォードシャーのハウトンで育ったジェームズは元気すぎて、お母さんは(先生も)もてあまし、8歳のとき、ドラマのサマースクール(the Stafford Gatehouse)に放り込んだそうだ。そこで「ダウンタウン物語」のお芝居をして(ジェームズはコーラスだけだったけど)、嵌ってしまい、以後、毎年参加。
14歳でシュロップシャーに引っ越してからも演技は続けたとのことだけど、中学校には演劇の課程がなくて、Emma Hennessyという先生が週2、3回昼休みに個人指導してくれたとのこと。
その後、Royal Welsh College of Music and Dramaで勉強したことや、出演したテレビドラマ、いろんな賞へのノミネート、舞台への情熱などはもうおなじみだけど、ソープ・オペラの演技について話していることが新しかった。
「信じられないくらい幸運だった。ソープ出演って浮くか沈むかだもんね。劇場で働くのとは違う、いつリハーサルがあるのか。ソープ・オペラって、まず、あらすじを覚えなきゃならなくて、そのあと演技なんだ。」
「とにかく時間がない。そんな中でやっていく技量ってビックリだよ。いっぺんソープをやったら、あとは何でも来いだね。ソープって以前はちょっと地位が低かったように思うけど(みんな見下しているし)、もう、そうは思わない。ソープの演技って、とてつもなくハイレベルだ。」

全体的に若さと演技への情熱があふれる(つっこみどころ満載な)インタビューだった。ユーモアもあって、うまくまとめている良い記事だと思った。
Emmerdale star James Sutton on life in Shropshire

ミケランジェロの暗号

うわ~、面白い!脚本がイイ!
オーストリアの作品だそうで、なかなか洒落ていた。ナチスがからんだ脚本がいい映画で思い出すのは『暗い日曜日』なんだけど、あちらが浪漫派なら、こちらは「うはは」。まさかコメディとは思わず、真面目に観ていたら、どう観てもコメディで(笑)。
落語で困ったちゃんの熊さんや八つぁんがおもしろ可笑しく描かれるように、この映画でも人間の性を否定せず描いているところがよかった。義兄弟ヴィクトル・カウフマン(モーリッツ・ブライブトロイ)の信頼を裏切って、ミケランジェロの真作情報をナチスに売ったルディ・スメカル(ゲオルク・フリードリヒ)の小物ぶり、憎めないし、若干の悲哀も感じるし、彼みたいになりたくないけど、いざとなったらなるかもなぁ(とほほ)。
コメディといいつつも、ユダヤ人収容所を見せずして、ヴィクトルの母ハンナ(マルト・ケラー)のやつれ具合とか額の傷で、その厳しさが伝わってくるなど、真面目なところと可笑しいところのバランスが絶妙だった。

レナ(ウーズラ・シュトラウス)

ヤーコプ・カウフマン(ウド・ザメル)

MEIN BESTER FEIND
MY BEST ENEMY
監督:ヴォルフガング・ムルンベルガー、脚本:ポール・ヘンゲ、脚色:ヴォルフガング・ムルンベルガー
(こうちコミュニティシネマ 2011/12/26 高知県立美術館ホール)