予告編を見たとき、シラノ・ド・ベルジュラックの容姿の問題が鼻ではなく身長になっていて、シラノ役を小人さんの俳優が演じると知り、よき翻案だと思ったうえに、ミュージカルでもあるとのことで期待して観に行った。そして、ガッカリした。
キャッチーな楽曲があまりないのは残念だったけれど、俳優も話も悪いというほどでもなく(特に男性陣はよかった)、剣戟シーンなんかもあって楽しくなりそうなのに、いったい何がいけないのか面白くなかった。
監督のジョー・ライトは何本か観ているけど、相性がよくないのかもしれない。
(2022/03/02 TOHOシネマズ高知9)
ナイル殺人事件
愛についての傑作エンタメ。なかなか見応えがあった(嬉)。
Scott Free Productions Animation, Logo, introでおなじみの黒コートの人が鳥になって飛んでいくと、オープニングは黒い鳥。この繋がりからして「待ってた甲斐があった(ToT)」と感動した。その鳥はどこにいるかというと、第一次世界大戦の戦場なのだ。まさか戦場から始まるとは思いもよらず、またしても感動。そして、ポアロがなぜ髭を生やしているか明かされる。エピローグも髭がらみで、愛ゆえの切ない人間模様が髭に始まり髭に終わる。殺人事件のごちゃごちゃした真相解明が苦手な私にはありがたい「物語」となっていた。
実は事件のごちゃごちゃにも付いていけるように1978年版を予習していたのだが、新型コロナの影響で公開が延期になってしまい、予習したことは霧の彼方。何とか付いて行けたのか行けなかったのか(?)はともかく、犯人さえ忘れていたので「へぇーほぉ~」と楽しめた。
アネット・ベニングに似ていると思っていた人はアネット・ベニングで、どうしてモテるかわからなかったサイモンはアーミー・ハマー美丈夫だったので驚いた。ガル・ガドット(ガルガ・ドットの方が覚えやすい)はゴージャスだし、役者さんのおかげでその他の登場人物もしっかり見分けがついてよかった。残念なのは明暗のコントラストが強めの(っていうの?色味が濃い)画質で、私はもう少しやさしい色合いがよかったと思う。
検索したらケネス・ブラナー監督作は観てないのがけっこうあって落ち穂拾いが楽しみだ。ってまずは公開中の『ベルファスト』を観なくちゃ(^o^)。
(2022/02/26 TOHOシネマズ高知6)
ウエスト・サイド・ストーリー
なに!?スピルバーグが「ウエスト・サイド・ストーリー」をリメイク!?今頃、ナゼ?オリジナルをどんなにアレンジするんだろう、こりゃ、観てみたい!
と思って勇んで行った。始まった。めっちゃ、キレッキレッ!踊りがというより演出が。もちろん歌も踊りもいい。プエルトリコ系移民とヨーロッパ系移民が縄張り争いしたって、君ら全員そこから追い出される似たような境遇でしょう、なぜ、気づかない、なぜ、争うの?悲劇まで起こして虚しいじゃん、という内容も素晴らしい!「ロミオとジュリエット」のシェイクスピアの時代から「ウエスト・サイド・ストーリー」の時代を経て今の今まで続く、人類皆きょうだいのはずの、皆地球人のはずの悲劇を思うと、マジで涙が出てくるラストシーン。(いっしょに倉庫のシャッターを押し上げた者同士が、殺し殺されるとは(ToT)。)
トニー(アンセル・エルゴート)とマリア(レイチェル・ゼグラー)の二人は予告編ではわからなかったけれど、なかなか魅力的だった。プエルトリコ系移民シャーク団のリーダーのベルナルド(デヴィッド・アルヴァレス)の安定感や、対するヨーロッパ系移民ジェット団のリーダーのリフ(マイク・フェイスト)のあぶなっかしい感じもよかった。アニータ(アリアナ・デボーズ)やバレンティーナ(リタ・モレノ)の複雑な胸の内もグー。しかし、オリジナルをどんなにアレンジしたのかは謎。なぜなら、気がついたのだ。私はオリジナルを観てないのに観た気になっていたのかもしれないと。もしくは、観てはいるが観てないと同じくらい忘れていると(汗)。これじゃ、比較できるわけない。それでもジェット団で仲間と認めてもらえないあの人はLGBTQが意識されているとか、アニータのレイプシーンでヨーロッパ系女子が「やめて」と必至に止めようとするところは今現在ならではだと思う。
スピルバーグは本当に大監督になったものだ。
このような悲劇は早く過去のものとなってほしい。
(2022/02/21 TOHOシネマズ高知4)
平川恒太 Cemetery 祈りのケイショウ
大変よかった、アーティスト・フォーカス#02。
高知ゆかりの作家を県民に紹介し、作家の応援にもなる、一企画で二度美味しい。ぜひ、今後も続けてほしい。
作品の前に作家が虫食い式の試験問題みたいに一部を伏せ字にした短い文を掲示していた。この伏せ字にはもちろん作家の思う言葉があり、試験問題ならそれが正解と言うべきものだろうが、悪しき歴史を繰り返し、未知の言葉がそこに入るかもしれないという思いもあるだろうし、鑑賞者銘々の思いもあるので、正解がない謎解きとも言える。そして、この謎解きはミステリー小説が苦手な者にも楽しいものだった。
という思いになったのは、最初の作品「The Bells 広島」「The Bells 長崎」の解説を読んでからだった。文字盤に黒い絵が描かれた柱時計と別の箱の中の大きなネジを見ただけではサッパリわからなかったのだが、解説を読んでそういう見方をしていけばいいのかと眼からうろこが取れたのだ。そこから後は、自分なりの謎解きが解説と異なっていようと謎が解けないままであろうと面白くなった。「Black Square」は、「Black Squareのためのドローイング」を見なくても日の丸とわかって嬉しかったし、ドローイングの方はSFみたいで面白かった。おしまいの方では、これがコンセプチュアル・アートというものかと閃いて、初めて接したように感じた。
ほぼ一筆書きのように鑑賞していける展示の仕方もありがたかったが、圧巻は一番奥の区画全体だ。
黒い箱のうえにモービルが揺れている。そのまわりをバババーーーンと真っ黒な絵が取り囲み、区画に踏み込んで振り返った左右の壁には宇宙が広がっている。
壁の宇宙はモービルも込みで「何光年も旅した星々の光は私たちの記憶を繋ぎ星座を描く 夏の大三角」「何光年も旅した星々の光は私たちの記憶を繋ぎ星座を描く 冬の大三角」という作品。私はこの作品が一番好きだ。宇宙の星々は戦争で亡くなっていった人たちのように思える。星の素材となっている従軍記章はネットのヤフオクなどで購入したものらしく、その領収書みたいなものも貼り付けてあって金額が一つ千円もしたりしなかったり。出品者を想像したり、金額などから複雑な思いに駆られる。そういうことも含めて二つの大三角とモービルは独特の美しさがあると思った。
三方の壁の真っ黒な絵は、すべて第二次世界大戦中に「作戦記録画」として陸海軍の委嘱で制作された戦争画を引用した作品とのこと。普段、「あ~、○○が描かれている」とザッと見て終わる絵画も、真っ黒だといったい何が描かれているのか舐めるように観ていくことになる。軍人ではなさそうな人たち?おんな子どもも?自決しているところ?黒い画面に虹色のラメがキラキラして人々が星になったと言っている?そう思うと涙が出そうになる。「Trinitite サイパン島同胞臣節を全うす」だった。
虹色のラメが輝く真っ黒な絵は、その他に「Trinitite 山下、パーシバル両司令官会見図」と「Trinitite シンガポール最後の日(ブギ・テマ高地)」。「Trinitite 十二月八日の租界進駐」「Trinitite 渡洋爆撃」はあまり虹色感はなかった。解説書によると、Trinitite(トリニタイト)は、人類初の核実験(1945年7月16日実施でコードネーム「トリニティ」)で生成された人工鉱物で軽度の放射性物質とのこと。「ラメ=星」?「ラメ=トリニタイト=戦争画=遺物」?
この区画の中心にあった黒い箱は「BLACK SUN BOX」という作品で、レッドサン(日の丸)の黒歴史の核という感じ。
会場は作品の素材となった時計の音(?)がしていて、「現在、過去、未来」の「現在」という「時」を感じさせられた。
ケイショウは「警鐘」「形象」「継承」とのこと。
「死の島(広島)」「死の島(長崎)」「死の島(第五福竜丸)」「死の島(福島)」の4作品は、絵としてはぺらっとした感じなのだが、やはり段々に絵の世界が暗くなっていく内容がよいと思う。4作品いっしょにタグチ・アートコレクションが所有しているようで、よかった。
(2022/01/31 2022/02/14 高知県立美術館)