ピーターラビット2/バーナバスの誘惑

二作目があるとは思わなかった。それだけ、一作目が面白かったということだ。その一作目を踏襲してラストは007も真っ青な大アクション。アニメってアクションだったんだ~。実写の重量感とか痛々しさがないぶん安心して楽しめる。ただ、ひじょーにもったいないのが、ピーター兎をはじめ様々な動物が画面のそこかしこで動いていて魅力に溢れているのに、二つの目玉では追い切れないことだ。

ところどころ、英国のポップスが使われていて聴いたことのある曲もあって嬉しかった。また、ビア(ローズ・バーン)とトーマス(ドーナル・グリーソン)は、キラキラ瞳の編集さんナイジェル(デヴィッド・オイェロウォ)が勧める儲け主義の絵本「ピーター・ラビット」の出版を拒否したのに、映画は編集さんが薦めたとおり(受け狙い)に展開していくという英国らしい自虐性も面白かった(わかっちゃいるけどやめられない)。そして、ピーターが若気の至りでバーナバスにだまされ仲間の動物たちが散り散りになるが、トーマス・マクレガーと温かいやり取りがあるのがやっぱり微笑ましい。

ビアトリクス・ポターの絵本になじみのある友人の言うことには、キャラクターが絵本とは少し異なるそうだし、今作は動物のキメのスナップショットが絵本そのままだったそうだ。私はピーターたちの絵を描くビアがビアトリクスからきていることに二作目でやっと気づいた。原作とはまったく異なる設定であっても緑豊かな景色など一応はリスペクトを感じる作りになっていると思う。
(2021/07/03 TOHOシネマズ高知1)

Arc アーク

『ザ・ファブル 殺さない殺し屋』を見るつもりだったのに、アクションよりSFの気分になっていて見てしまった。思ったとおり、あまり面白くなかった。やっぱり、このタイプ(100年以上も歳月が経つ)のSFは予算がいる。リナ(芳根京子)は17歳から139歳までを生きるのだ。不老不死で本人の外見が変わらないからと言って生活環境も今とほとんど変わらないなんて百年経った感じがしない。世界から切り離されたような島にいたとしても。
百年後の世界では一部の人を除いて、ほとんどの人が不老不死を選んでいるのも不思議な感じがした。そんなに不老不死って皆が望むものなんだろうか。そういう予算がなくても描けそうな、心の問題も描けてなかった。
面白かったのは、不老不死の技術が生まれる前に死体にプラスティネーション(防腐)をほどこして、生前のその人らしいポーズを取らせる場面。一番マンガチックで飛んでいて苦笑レベルだったけれど、エジプトのミイラが死後の「生」を信じて作られたのと比べて、プラスティネーションは生きている者の都合で作られていると思うと、とても「今」らしい感じがした。
夫婦を演じた小林薫と風吹ジュンは、さすがだった。
(2021/06/29 TOHOシネマズ高知5)

本城直季 (un)real utopia

面白かった。
「大判カメラの『アオリ』と呼ばれるレンズ操法を用いて、都市の姿をジオラマのように撮影する独特の表現で知られる写真家」とのことで、スリンカチュが好きだったくらいだから俄然興味があった。ピンホールカメラだったか、昔々ミニチュアのように撮るのが流行ってた(?)こともあったよね?とにかく興味津々だった。
で、そのミニチュアみたいに撮られた写真は大画面だった。そして、水平な帯状にピントが合っていた。ドローン?ヘリコプター?どうやって撮ったのか気になった。こうは大きくないはずの写真集「small planet」でも人の様子がわかるんだろうか?とにかく大画面すべてにピントが合っているとかえって何を見たらよいかわからないが、この方法だとピントが合っている部分に集中できるからありがたい。とまあ、そんなことを考えながら見ていて、特に感慨はなかった。むしろ、第二会場に展示されていたラスベガスの居住域とか都市部とかの写真を見て、生活でも生業でも人の営みがあるのが不思議なくらい砂漠だと感じた。その後に当地の山間部とかの写真があって緑と水がいっぱいで、これが自分が住んでいるところかと思うと(ラスベガスと比較したうえで)俯瞰して見ることに意義を感じた。それでもミニチュアみたいに見えることには特に感慨はなく慣れてしまって飽きてしまっていた。ところが、美術館を出て車を運転して帰りながら見る街がミニチュアみたいに見えて驚いた。

この展覧会のよかったところは、木村伊兵衛写真賞を受賞した「small planet」シリーズやその方法で撮影した新たな写真だけじゃなかったことだ。宝塚の舞台を撮影した「treasure box」は、そうそう!二階席とか上の方の席からはこんなに見える!見えるとおりに写せるのはさすがプロ!と思ったり、「daily photos」はポラロイドで昔撮ったとのことだけど対象や切り取り方が私好みでこれを写真集にしてほしいと思った(メモパッドになっていた)。それと、映画のセットにも見える夜の街「light house」は暗幕のコーナーに展示されていて、本当に夜の街にいて見ているようだった。たまたま訪れたところにロケ地やセットとして「ここイイぜ」と思うところがあって(あるいは「daily photos」みたいなモノとの出会い)、それを写真に撮っていたらよかったな~、でも、カメラとか重いものを持つのが嫌だったのよね~とか思っていた。見せるモノ、見せ方にも趣向が凝らされていてとてもよかった。「tokyo」と「kyoto」では断然「tokyo」ですな。それに東京タワーはいいなぁ!スカイツリーより東京タワー派。

残念なのは人がいたので見るのを後回しにしていた「tohoku 311」と第二会場のおしまいの方(工場とか海水浴とかスキーとか)は、(先に見た友だちのブログを読んで警戒してたんだけど案の定)頭痛がしてきて走り走り見た。ダイソーなんかも30分いるとダメなんである。
(2021/06/22 高知県立美術館)

いのちの停車場

今まで見た成島出監督作品はどれもハズレがなくて信用している監督だ。成島監督作とわかっていたらもっと早く見たのに。今回も裏切られることはなかった。金沢の街、いい雰囲気に撮られていたなぁ。
しかし、もっとも大事なところで寝てしまって、母に白石先生(吉永小百合)は父(田中泯)を安楽死させたのかどうか尋ねると、そこはハッキリ描かれてなくてわからなかったから私に尋ねるつもりだったとのことだった。
やけにサッパリした表情で朝焼けを眺める白石先生を見ていると、どちらとも取れる表情と言うよりは、どちらにも似つかわしくない表情で、自分が寝ておきながら、やや不満が残った。話の流れでは殺したんだろうなぁ。人権感覚が乏しい人が代議士になれる国で安楽死とか尊厳死とか合法化するのは百年早いと思っているが、それについて市民が考えなければ始まらない。本作はいのちを考える材料としては最大公約数的というか当たり障りがないというか、大して考えないうちに忘れてしまう作品のようにも思う。
芸事をつづけたい女性(小池栄子)、並木・夫(泉谷しげる)に介護・看護され看取られる並木・妻(松金よね子)、ふるさとで人生の幕を閉じようと帰ってきた元官僚(柳葉敏郎)、再生医療に挑戦する半身が不自由となった社長(伊勢谷友介)、ふるさとで前向きになりもう一度ガンの治療に向き合った白石先生の知り合い(石田ゆり子)、小児ガンの女の子(佐々木みゆ)。皆、本人の希望(意思)のとおり闘病している。というか院長(西田敏行)以下、まほろば診療所職員は患者の希望を叶えるため懸命だ。その延長線に白石先生の父がいるわけだ。
広瀬すずと松坂桃李が出演してくれていてよかった。桃李くんは、「これだけ・・・」というCMを見るたびコメディのセンスあるわ~と笑わせてもらっていたが、何でもできるね、『孤狼の血Level2』が楽しみ。田中泯は、足元がおぼつかない具合がリアルだった。
(2021/06/16 TOHOシネマズ高知3)