人生の特等席

ウェルメイドとは、こういう作品のことなんだろうなぁ。破綻がなく安心して楽しめた。それに紅葉がきれいだった~。
ガス(クリント・イーストウッド)の親友ピート役でジョン・グッドマン、その上司ヴィンス役にロバート・パトリックが出演していて、「生きてたかー!お久しぶり~」と嬉しかった。
それと新人類と言われた世代の私も今や旧人類になったのだろうか。新聞の切り抜きをストックするより、パソコンに入力して管理した方が情報は取り出しやすいとは思うのだけれど、会える距離にいながら電話やメールで済ませるのは良いことだとは思わないので、ガスがちゃんと選手のところまで言ってプレーを観察(目が見えにくくなっているので耳で聴いてプレーの善し悪しを判断)するやり方に共感を覚えた。

娘のミッキー(エイミー・アダムス)についてどう思うかといえば、知情意のバランスがとれたチャーミングな女性という感じがした。
父親に捨てたれたという思いのわだかまりを何とか解きたい。自分一人では「なぜ」の部分が埋められないので父親の協力が必要だが、頑固オヤジのガスは彼自身に負い目があって話題にしたくない。だから、わだかまりは解けないままだが、そればかりに執着するほど子どもではないので、スカウトマンとしては致命的と思われる目の病気を抱えたガスを放っては置けない。仕事の算段をし、父のスカウトに伴走することにした。ものすごく優しいし、ものすごく大人だと思う。仕事と家族を両立させようとするパワーには恐れ入る。(ミッキーの上司に度量があればねぇ。)弁護士を目指したのはガスが望んだから、ガスに気に入ってもらいたかったからとミッキーが言っていたように思う。それは本心だと思うけれど、ミッキーはもうその頃の彼女ではない。今は仕事が面白くて続けたかったはずだ。その仕事を簡単(?)に蹴ったのはなぜか。もちろん、大リーガーのスカウトに弁護士以上のやりがいと手応えを感じたからだ。ピザ屋の兄ちゃんの入団試験は爽快だった。また、苦節十数年のわだかまりの件についても、ねばった甲斐あってガスから聴き出すことが出来た。あきらめずにコミュニケーションをとり続け成功したことは賞賛に値すると思う。ミッキーは無視された(とミッキーは思っていた)時点から目的の話を聞き出すまで、交渉術の修練をつんだことになる。
ジョニー(ジャスティン・ティンバーレイク)とのこと(夜の水たまり)では、新しい関係に一歩踏み出すときのとまどいや初々しさが感じられて、こちらが恥ずかしくなるほどだった。

TROUBLE WITH THE CURVE
監督:ロバート・ロレンツ
(2012/12/01 TOHOシネマズ高知1)

のぼうの城

面白かった!領民にのぼう様と呼ばれて親しまれている成田長親(野村萬斎)が魅力的だった。秀吉と北条の戦に巻き込まれず、これまでどおりの暮らしを続けられたらいいのに。麦踏み音頭にあわせて楽しく農作業できるなんてサイコーなのに。そういう思いに共感したし、石田三成(上地雄輔)の使者が人をバカにしきって言ったことには、のぼうと同じように腹が立った。それでも、戦となると家臣や領民の犠牲はさけられないので、酒巻靭負(成宮寛貴)、柴崎和泉守(山口智充)、正木丹波守利英(佐藤浩市)の各武将の同意を得て戦うことにしたときは、それでいいのか!?とツッコミを入れたのだが、領民を前に「みんなぁ、ごぉめぇんんん」と泣いたときには許していた(笑)。

水攻めで苦戦し、籠城する人々の士気も下がりに下り、のぼうが「悪人になりまする」と言って奸計をめぐらせたときは、人を騙すようなことはしない正直な人だからこそ、そう言うのだと思った。敵とはいえ謀をするのは、のぼうにとっては「悪人」なのだ。
そうすると、甲斐姫(榮倉奈々)が窮地に陥ったとき、のぼうがうまく事にしまいをつけられたのは、それこそ正直に双方に当たって誠意を尽くした結果なのではと思えてくる。野村萬斎の表情は、けっして純粋無垢なだけではないのだが(なんか目の裏側で考えてるでしょーというような表情)、それでも私は自分の気持ちに正直に生きてきた人だと思いたい。
戦が終わって、甲斐姫が政略結婚というか略奪結婚というか、本人の意志に反する結婚と承知のうえで承諾したのぼう。甲斐姫のことをどう思っていたかはわからないが、本人の意に染まぬという点では思うところがあったのではないか。

映画のラストは、水攻めのための堤や正木丹波守が僧侶に転身した寺などの史跡が写される。私はこれまで、史跡の説明の立て札や碑文など読む気も起こらなかったが、これからは読むぞと思いながら観ていた。

監督:犬童一心
(2012/11/11 TOHOシネマズ高知6)

裏切りのサーカス

ちょー面白い!!!
サーカスにしては渋いキャスティングと思ったら、1970年代、英国スパイの話だった。

MI6の中にソ連に通じた裏切り者がいる。それは誰か。ジョージ・スマイリー(ゲイリー・オールドマン)は、いつの時点で誰が裏切り者とわかったのかなど、細かいところで付いていけなかったところがあるので、もう一度、ぜひ、観たい。
ただし、一度観ただけでも感動するには充分で、何に感動したかというと、スパイも人間だということ。ポーカーフェイスのその裏に秘めた思いというのが、様々な伏線を巡らしたうえに最後の最後でいっさいが明らかになり、ビル・ヘイドン(コリン・ファース)とジム・プリドー(マーク・ストロング)の因縁や、スマイリーの愛妻ぶりなど、感情を露わにしない分じわじわと切々と心にしみてくる。
スクリーンに映らなくても、思い人の運命を知ったリッキー・ター(トム・ハーディ)の気持ちを想像したり、話に出てくるだけのソ連のスパイ、カーラの忠誠ぶりを思うだけでも、人間の心はドラマチックだと唸りたくなる。
また、組織内の派閥あらそいという視点で観ても面白いように作られている。

ところで、スパイの職務を果たすには「目立たない=華がない」がイイような気がするが、そうすると華がなく腹芸の出来るUK俳優の独擅場とも言える(?)この作品(笑)。『ダークナイト・ライジング』とは別人のトム・ハーディには驚いたし、ピーター・ギラム役でドキドキハラハラの美味しいシーンをもらったベネディクト・カンバーバッチはラッキーだったねだし、コントロール役のジョン・ハートは枯れても色気があるしで楽しませてもらった。
だけど、やっぱり一番好きなのはゲイリー・オールドマンだなぁ。穏やかな老紳士の瞳がアップになると・・・・・、目が驚くほど生きている。その瞳の裏で何を考えているのか。深みのある本当にいい俳優だと思う。

TINKER TAILOR SOLDIER SPY
監督:トーマス・アルフレッドソン
(2012/11/24 ギンレイホール)

ドライヴ

スタイリッシュという言葉をどう使ってよいかわからず、あまり使ったことがなかったけれど、こういう作品をスタイリッシュというのだろうか。独自のスタイルがあると感じた。
色んなところにスタイルを感じたが、思い出せるのは二つくらい。強盗の後のカーチェイスのシーンで、同乗者の女性の表情をとらえるとともに、リアウインドウ越しに追いかけてきた車がクラッシュするのを写し込んでいる。また、名無しのドライバー(ライアン・ゴスリング)が、エレベーターで人妻だが相愛のアイリーン(キャリー・マリガン)に別れの(?)キスをするシーンのスローモーションも印象深い。

お話はありがちだけど(どっかで『シェーン』みたいと書いてあるのを読んだ)、スタイリッシュな演出のお陰で退屈するヒマはない。それよりワタクシ的には、主人公の名無しのドライバーに難ありだ。無口はまあよい。プラトニックもまあよい。アイリーンの息子に対する優しさは、なかなかよい。サテンの生地にスコーピオンのジャケットもまだよい。逃走時のドライバーとして強盗に荷担するのは穏やかではないが、まあ、娯楽映画と思えばいいんじゃないの。ただし、愛する女性を守るため、命を賭しての大殺戮。これには思いっきり引いた。仮に私を守るためであったとしても、そんなことをする人には一瞬にして恋も冷める。ロマンチックでもヒロイックでもない描かれ方のため、うへぇと逃げ出したくなった。

DRIVE
監督:ニコラス・ウィンディング・レフン
(2012/11/24 ギンレイホール)