僕達急行 A列車で行こう

僕達急行は、ゆっくりと動く。ゆっくり加減が気持ちいい。
微かな音や微妙な表情でクスクスと笑える。クスクス笑いで、くつろげる。

高校一年のとき、担任のN先生が、働き出すとなかなか友だちはできない、青春時代の友だちは一生ものと言っていたことを思い出す。
昔の職場の上司が、命を懸けられるのが友だちで、懸けられなかったら友だちとは言わないと言ったことも思い出す。
そのどちらでもない友だちが、スクリーンの中で微笑み合っている。

残念なのは、森田監督の新作はもう観られないことだ。なんのかんの言って、リアルタイムで30年以上も観続けた。『家族ゲーム』がテレビで放送されたとき、最も重要なシーンがカットされていて、「あ、監督本人がカットしたな」と思ったらそのとおりだったのが嬉しかった。とんがりが取れて、作品もまるくなってきて、これからもいっしょに老いていくつもりだったので訃報には驚いた。せちがらい世の中に、あったかい作品を遺していってくれたと思いながら映画館をあとにした。

小町圭(松山ケンイチ)
小玉健太(瑛太)

監督:森田芳光
(2012/03/24 TOHOシネマズ高知1)

ヒューゴの不思議な発明

ほこりが、ほこりが~~(^o^)。←駅の構内の埃。3Dならでは!
メリエスが映画を作ってる~。熱帯魚、熱帯魚。←熱帯ではないかも。
は~、映像も衣装も建物も人形も何もかも美しい~。
人形が何度もクローズアップされる。色んな表情に見えて面白かった!
タイトルは「ヒューゴと機械人形の秘密」でお願いします(ペコリ)。

冒頭、歯車や何かの機械が動いている場面に、凱旋門(?)の周りを動く光の線がオーバーラップして、エッフェル塔がチラと見え・・・・とカメラが動いていく。物語の中頃で、機械と景色をオーバーラップさせた意味が明かされる。ヒューゴがイザベルに言ったこと。「機械と世界は似ている。どんな部品も役に立っている。人だって同じ。いなくていい人なんていないはずなんだ。」イザベルとヒューゴの手をつないだ後ろ姿(^_^)。その向こうに夜景が~。
(そういえばスコセッシには、爆発した車から投げ出された男が弧を描いて落ちていく冒頭シーンで、男の栄枯盛衰<放物線>人生を象徴させた作品もあった。)

前半のほとんどセリフがない場面が素晴らしい。時計の文字盤の裏側、そこからヒューゴが覗く構内、カフェの人々。
父さんとの思い出のシーンが温かいからこそ、その形見のノートが灰にされ、ヒューゴの目の前でくずれていくときの気持ちにシンクロできる。
パパ・ジョルジュの描いた絵が部屋中に舞って、その絵の中のものが動くのが一瞬見えるなんて楽しい!
それがみんな戦争で。思えばみんな戦争で。

ハロルド・ロイドの時計ぶら下がりにヒューゴのぶら下がりもよかったけど、汽車がスクリーンから飛び出すと思った観客が逃げ出すのと、汽車が本当に駅を突き抜けたのもよかった(笑)。
どっかの橋の上で手前のヒューゴに合っていたフォーカスが、奥のイザベルに移っていく値千金カット(拍手)!
まるでスコセッシのようなヒゲの先生(映画マニア)が出てくるのもよかった。
それと、私もメリエスの映画を観ていてよかった。
とにかく、観ている間中、ワクワクさせてくれて、映画ファン至福のときであった。

ヒューゴ・カブレ(エイサ・バターフィールド)
イザベル(クロエ・グレース・モレッツ)
パパ・ジョルジュ(ベン・キングスレー)
ママ・ジャンヌ(ヘレン・マックロリー)
鉄道公安官(サシャ・バロン・コーエン)
ムッシュ・ラビス(クリストファー・リー)
ヒューゴの父さん(ジュード・ロウ)

HUGO 監督:マーティン・スコセッシ
(2012/03/10 TOHOシネマズ高知9)

麒麟の翼~劇場版・新参者~

面白かった!
青柳武明(中井貴一)が誰になぜ殺されたかという謎解きに、容疑者や遺族や刑事や聴き込み相手など様々な人物が絡んでくる。けっこうな人数だと思うし、殺人事件だけではなく労災隠し問題も浮上したりでエピソードが多い割にスッキリしていて、私の頭でもついて行けたし、結末がなかなかに感動的だった。それに、加賀恭一郎(阿部寛)と松宮脩平(溝端淳平)が聴き込みの途中、たこ焼きを食べる場面など可笑しくて、ぽつぽつ笑わせてくれるのが嬉しかった。高架下で窮屈そうな麒麟像もよかったし、福島へささやかなエールが送られていたのも印象に残った。
ただし、船越英一郎が断崖絶壁で何から何までしゃべってまとめるテレビのサスペンスものよろしく、加賀恭一郎が先生(劇団ひとり)に説教したり、挙げ句の果てに中原香織(新垣結衣)が「産みます宣言」したりでゲンナリさせられた。「彼女はきっと産むんだろうな」と思わせるに充分な流れなのだから、本当に余計なセリフだった。画竜点睛を欠く(残念)。

青柳悠人(松坂桃李)/八島冬樹(三浦貴大)

監督:土井裕泰
(2012/03/15 TOHOシネマズ高知1)

ゴーストライター

名無しのゴーストライター(ユアン・マクレガー)のいかにも英国人的な婉曲表現が笑える。ときどき真意とは反対の言葉で表現するので、他の俳優が演じたら皮肉っぽい人物になったかもしれないが、世界一チャーミングな俳優が演じたことによりユーモラスな人物になった。この名無しのゴーストライターの前任者は事故死したことになっているが、どうも殺されたらしい。誰がなぜ、アダム・ラング(ピアース・ブロスナン)元英国首相のゴーストライターを殺したのか。名無し君が真相に迫っていくとともに、自分もとっても怖い目に遭う政治サスペンス・ミステリーだ。

この映画にはいろんな人物が登場して名無し君に質問をする。その人物は前任者を殺した相手かもしれない。下手なこと(自分がどれだけ情報を掴んでいるか、前任者と同じくらい知っていること)を言って殺されたくないと思うはずだ。それなのに名無し君は知っていることを話してしまう。大丈夫かと心配していたら大丈夫だった。考えてみれば、名無し君はフリーのライターで、どこの誰にも組織にも属せず与しないのだから、自分の身の安全を確保できさえすればいいのだ。他人のために守らなければならない秘密はない。だとすれば、知っていることを話した方が断然助かる!(という論理が成り立つのかどうかわからないが、そう思ってしまった。)また、直情径行型人間(←名無し君のことではない)に悪人はいないということも再確認できた。

それにしてもポランスキーの演出力は凄い。冒頭、フェリーから車が一台ずつ出て行くシーンからしてジワジワと怖い。ラスト付近も手紙が手から手へ渡されていくシーンにドキドキした。この渋い演出と、ガラス張りの別荘やいかにも寒そうな風景をもう一度観たい。本当のことを言うと、名無し君の婉曲表現の他にもクスクス笑える場面がいっぱいあったので、また笑いに行きたい。

ルース・ラング(オリヴィア・ウィリアムズ)
エメット(トム・ウィルキンソン)

THE GHOST WRITER
監督:ロマン・ポランスキー
(2012/02/26 あたご劇場)