宇宙兄弟

こどもの日に二人の甥と観に行った。
南波六太(小栗旬)が、兄たる者は弟より一歩先んじなければならないというようなことを独白していたので、甥(兄)に「そういうモノかえ?」とたずねると「そうやろ」と即答だった。不肖の伯母は、「なるほど、先に中学校に入ったしねぇ」と返したのみであった。

弟日々人(岡田将生)は宇宙飛行士として時の人。兄六太は無職で就活中。六太は兄弟で宇宙飛行士になるという夢を思い出し(というか日々人に思い出さされ)、一念発起するというお話。弟に対する祝福と引け目や、兄に対する期待と不服はほどほどに、見所は六太の宇宙飛行士テストとなっている。日の目を見ない閉鎖空間で共同生活しながら課題に取り組むという最終テストは、どうしても萩尾望都の「11人いる!」を思い出してしまう。グリーンカードは「そら来た!」という感じだった(笑)。テストを受ける6人は、マンガのような類型的なキャラクターだけど、それぞれの俳優が嵌っており、とても面白かった。

日々人が月面で大ピンチのとき、同僚を背負っていくのが重そうで重そうで、思わず「月ではもうちょい軽いでしょう」とツッコミを入れた。「軽いじゃ~ん」とニコニコ背負われても興ざめだし、演出上、月の重力を無視して描くのは、やむを得ない場面かもしれないが、ここは軽そうに背負っても深刻な状況に変わりないことを表現してほしかった。

甥は二人ともこの映画を楽しんだようで、「最近気がついたこと」が可笑しかったと盛りあがっていた。そんなに可笑しかったら笑えばいいのにと言うと、甥(弟)は「『上映中はお静かに』って言いよったき」とのこと(^_^;。むむむむむ、む~ん。

監督:森義隆
(2012/05/05 TOHOシネマズ高知6)

わが母の記

奉仕があるから愛がある、愛があるから奉仕がある。
う~ん、伊上洪作(役所広司)、作家だけあってうまいこと言う。愛があると何かしらしてあげたくなる、そういうことでしょう。しかし、作家でありながら、その奉仕を感じ取れないとは情けないぞよ。母八重(樹木希林)が持たせてくれた山葵三本。それは正しく奉仕、愛の証。母に捨てられた一念に凝り固まり、判断を誤る。それが人間というものなのでしょう。
そういえば、山葵だけじゃない。子どもの頃に母から授けられたお守りがあるではないか。う~ん、子どもにしてみたら、それだけでは足りなかったのね。やはり、子どもには言葉にしたり、抱きしめたりが有効なのかもしれない。

母子、父子、兄弟姉妹と家族の話はやはりイイ!笑いどころ満載!そして、ハイライトは、洪作と八重の縁側のシーン(涙)。
作家の妻は恐ろしいわ~。夫が母に捨てられたと苦い思いを抱えているのに、真相を明かさずケロリとしている。会計の管理だけでなく、作家が作品を生み出せる心理状態をも管理する。並の人には出来なかろう。
四季折々の風景もよかったし、赤みがかった映像に古き良き時代を感じさせられた。70年代の食堂の活気とトラックの運ちゃんの心意気もすごくよかった。
貸借ゼロにしたい日本人。なるほど。

監督:原田眞人
(2012/05/04 TOHOシネマズ高知2)

モールス

雪の積もった山間の一本道を救急車の赤色灯がゆっくり近づいてくる。この上から目線は『シャイニング』のオープニングみたいー。
音が、音がーーーー!むっちゃ怖い。音楽もよかった。
怖げな音とともに現れる原題は「牡丹灯籠」や~。邦題は怖くはないが、ラストシーンが強調されることになり、なかなかよいと思う。
それにしてもオーウェン(コディ・スミット=マクフィー)とアビー(クロエ・グレース・モレッツ)の純粋な恋物語として観れたらどんなによいか。あー、それなのに、アビーよ、これまで何人落としてきたの?とか、子どもならともかく、父親ほどに見える男性(リチャード・ジェンキンス)をどんな手練手管で惹きつけているの?とか、オーウェンは「次」だったんだよね、キープしてたのよね?とか。あーーー!もう!汚れちまった大人はやだねー(涙)。おまけに、「かみさんに血ぃ吸われて、もう、ボロボロですわ。」って、そういうメタファー???って、茶化すのやめなさーい!とものすごく楽しんだけど、汚れた自分をたっぷり感じた。

宗教に凝り固まって我が子を善悪の二元論でしかとらえない母親から旅立つ少年の物語として観ても面白いけど、そうすると母から旅立ち鬼嫁といっしょに・・・・!?いやいや、純粋で美しいお話なんだってば!
う~ん、感想にも葛藤がある。

警官(イライアス・コティーズ)

LET ME IN
監督:マット・リーヴス
(2012/05/02 あたご劇場)

その街のこども 劇場版

この映画、見逃していたけれど、2011年高知のオフシアター・ベストテン選考会で日本映画第1位になったおかげで、再上映され観れた。東日本大震災のあった年に上映されたということもベストテンに推す理由となっていたと記憶しているが、なるほど、どうしても東日本大震災のことを考えてしまう。

阪神淡路大震災の15年後、追悼集会に参加しようと神戸に帰ってきた美夏(佐藤江梨子)と、東京から広島への出張途上、追悼集会があることを知り、思い立って神戸で新幹線を降りた勇治(森山未來)。二人とも子どもの頃震災を経験している。出会ってから別れるまでの24時間で二人の距離が微妙に変化していくのが面白い。夜の街の空気感がよく伝わってくるし、美夏が亡くなった友だちの父親と手を振り合う場面などうるうるっと来る。建設会社で設計の仕事をしている勇次が、震災に遭ったとき出来るだけ安全なビルを建てたいと思っているのに、安全性より経済性が優先される現場でやるせない思いをいだいているところに、普遍性を感じたりして、こんなのが普遍なんてイヤだと強く思う。

この映画では身近な人を失う悲しみも描かれていたけれど、それよりも印象深かったのは人間関係の喪失だった。美夏の亡くなった友だちのお父さん。妻も子も失ったこのおっちゃんの様子が怖くて美夏は疎遠になってしまう。勇次の方は、震災後、父が儲けに走ってしまったお陰で恨まれ、友だちをなくしてしまう。
「絆」もあるだろうけれど、東日本大震災と福島第一原発事故で、生きている人間同士の関係性が壊れていってしまうとしたら、これほど悲しいことはない。怒りの矛先を間違えないように、よりよい解決策の方向性を見失わないように願っているのだけれど。

震災から15年、美夏はようやく気持ちの整理がついたのだろうか。勇次の方は、まだ追悼集会へ行く気になれないみたいだ。二人はお互いの気持ちを尊重して別れる。それぞれの思いを抱え続けるというラストだった。

監督:井上剛
(高知オフシアター・ベストテン上映会実行委員会、朝日新聞高知総局 2012/04/29 高知県立美術館ホール)