エリックを探して

さらりと愉快に作られているうえ、「やはり」というべきか、ケン・ローチ作品らしかった。

一番よかったのは、仲間っていいなと感じさせてくれたところ。仕事仲間というのは、家族の次に時空間を共にする人たちなので、うまくいけばエリック(スティーヴ・エヴェッツ)やミートボール(ジョン・ヘンショウ)たちのような関係を築けるだろうとは思う。だけど、世の中逆方向に進んでいるものだから、ケンちゃん、おとぎ話を作ったなと感じてしまう。それでも、集団違法行為で悪者をぎゃふんと言わせ、「エリックと家族に指一本触れるな」とその目的を告げ、「おれたちゃ、郵便配達員だ。覚えとけ。」と誇らしげな啖呵で締めくくられると、「このスクラムは、オールブラックスでも崩せまい」などとニマニマしてしまう。
それにおとぎ話と言えども、うえの結末に向かうまでの起承転結の「転」の演出はさすがで、エリックの義理の息子が拳銃を持って飛び出して行った後は、どうなることかと身が震えた。このへんの引き締まり具合は、『この自由な世界で』で突然やってきた覆面男に主人公が怖い目に遭わされる場面を思い出した。

「エリックを探して」は、主人公エリックが失った自尊心を探して取り戻すまでの話だと思う。それには、別れた妻リリー(ステファニー・ビショップ)に家出した理由を話せたことが大きかった。話せるようになったのは、外見を整え、体力を付け、リリーに向き合えるだけの下準備が必要だった。
私は自尊心については心配はないが、体力がまるでなく、何をする気も起こらないときが再々ある。だから、ジョギングでも始めたいのだけれど、靴だけ買って一度も走っていない。エリックにとってのカントナ(エリック・カントナ)は、私にとっては誰なのか。・・・・、そんなこと考えるより先に走った方がいいような気がしないでもない・・・・。

LOOKING FOR ERIC
監督:ケン・ローチ
(高知オフシアター・ベストテン上映会実行委員会、朝日新聞高知総局 2012/04/29 高知県立美術館ホール)

2011年マイ・ベストテン

昨年は、かるかん率100%!観た映画すべての感想を書いた。「好き」を基準に選んだベストテンは観た順に下のとおりで、日本映画が1本もない!主に日本映画を掛けてくれる、とさりゅう・ピクチャーズの上映会が日曜になって見逃しが増えたのも痛かったけれど、全体的になんか弱い。弱いぞ、日本映画。園子温監督作品は面白いけど好きじゃないし。『八日目の蝉』『連合艦隊司令長官 山本五十六』の成島出監督は、『孤高のメス』『油断大敵』のときから手堅い演出で、とても真面目に作っているので好感が持てるけれど、何か物足りない。そんなわけで二重丸の(面白いし好きな)日本映画は『毎日かあさん』と『海炭市叙景』だけだった。『海炭市叙景』は、好きとは言えないかもしれないけれど、日本の冬の時代にフォーカスして、これほど寒さ厳しい作品はないと思うと、どうしても捨てておけない気がした。

その他、主要人物が亡くなったにもかかわらずハッピーエンディングと思える作品が印象に残った。『メアリー&マックス』、『100歳の少年と12通の手紙』、『ヤコブへの手紙』、『木漏れ日の家で』、『海洋天堂』。これらはすべてオフシアター上映だ。

『ヤコブへの手紙』は、それほど好きだったかしらという気がしないでもないが、フィンランドのやさしい緑や小さな草花が光の中でとても美しく、そういうのを思い出すとやっぱり好きだと思った。

ベストテンなんだけど、割とざっとした感想・・・・へリンク;;;;。
ソーシャル・ネットワーク
ヒアアフター
ハスラー
トゥルー・グリット
メアリー&マックス
100歳の少年と12通の手紙
イップ・マン 葉問
ミッション:8ミニッツ
ヤコブへの手紙

ラビット・ホール

悲しみ方は人それぞれ、何によって慰められるかも人それぞれ。
けれど、愛する人を失ったつらさと、それでも前を向かなくちゃならないのは皆同じ。そこには時間が平等に働いて、悲しみをポケットの小石に変えてくれるという。

夫婦仲にしても、加害少年に対する夫婦の気持ちとしても、こうあってほしいと願ったとおりになって、美しさが沁みてくる。
キャストがいいし(理想の夫!少年の驚くべき深い瞳!)、脚本も構成といいセリフといい完璧だ。脚本については、犬だけを取りだしてみても凄い。ファーストシーンで空っぽの犬小屋がチラリと映される。その後、ベッカ(ニコール・キッドマン)が実家に帰ったとき犬に吠えられる。餌を与えに来たオーギーが「預かっているんだけど、バカ犬でスミマセン」と言うと、ベッカが「うちが預けた犬で、スミマセン」(笑)。こうして笑いを取ったかと思えば、夫婦げんかの場面で、ハウイー(アーロン・エッカート)は、子どもが亡くなった遠因が犬にあると思ったから預けたのだと訴える。ケンカの末、犬を取り戻してきたハウイーは散歩に出て、犬を叱り飛ばしたことをきっかけに(自分でもそれほど怒るつもりはなかったのだろう。また、ベッカとの間が思いどおりにいかないことや、亡くした息子のことなどが頭を離れないのだろう)、犬を抱きしめて泣き崩れる(涙)。

原作は舞台劇だというが、それがまったく想像すらできないくらい映画的美しさに満ちた作品で、どの場面も印象に残る。プロローグのためらいなく引かれる一本の線から始まり、クライマックスの無音スローモーション(ジェイソンとベッカ)を経て、夫婦二人だけの哀しくも穏やかな黄昏時まで。ジョン・キャメロン・ミッチェル監督。今度は名前を覚えておきたい。

ナット(ダイアン・ウィースト)/イジー(タミー・ブランチャード)/ジェイソン(マイルズ・テラー)

RABBIT HOLE
監督:ジョン・キャメロン・ミッチェル
(シネマ・サンライズ 2012/04/20 高知県立美術館ホール)

バトルシップ

はははははははは、ははははははは!
は~あ。ふぅ~(あほらし)。(^m^)

まったく好みではないが、アレックス・ホッパー役のテイラー・キッチュは、主役を張るだけあってチャーミングで比較的背が低いところも可愛く思えてなかなかよかったし、ナガタ(浅野忠信)とか提督(リーアム・ニーソン)とか有名どころの俳優も出演しているし、全体のコメディ的乗りもよかったし、宇宙人の造形も気に入ったし、世界中がメチャクチャにされるのも面白く、わけのわからん敬老精神の発揮も肯定的に楽しんだけれど、演出にキレがないのが映画をつまらなくしている(と思う)。
冒頭、アレックスが一目惚れの彼女のためにコンビニにチキンフリットを買いに行く場面などモタモタしすぎなのだ。どうして、サクサクッと1、2分でまとめないのか。だけど、この初っ端のもっさり具合のお陰で、そういうゆるい演出で行くのねと、こちらもギアチェンジできたのでよかったのかもしれない。

BATTLESHIP
監督:ピーター・バーグ
(2012/04/20 TOHOシネマズ高知5)