御園座10月夜の部

本日はキエフ・バレエ「くるみ割り人形」を観る予定(るんるん)。
DVDでいくつか見た限りでは「くるみ割り人形」の話はお子様向けのような気がして、別の演目だったらよかったのにと思ったりもするけど、音楽はいいし、見どころはたくさんあるし、「キエフ・バレエはどんな美術だろう」とか「ほんまにマトヴィエンコが来てくれるの?」とか「生オケよ~」と思うと、やっぱりワクワクしてくるなー。
観たら感想、書くぞーと意気込んで思い出すのが、10月の御園座の夜の部の感想を書いてなかったこと。
夜の部(10月20日)
 鳴神
 達陀(だったん)
 義経千本桜 川連法眼館の場
◎「鳴神」はすごくよかった。菊之助の雲絶間の姫は、賢い大人の女性だ。色気もあって色事については鳴神をリードしまくり。一方、團十郎の鳴神は色事については無垢で可愛らしい感じがして、菊之助の絶間の姫とは好一対だった。(絶間の姫の乳房を触るところでは、本当に初めて触った感じ。「柔らかくて先にぽっちりがある。これは何じゃ。」って、「本当は知ってるくせにぃ」と突っ込みを入れたくなる鳴神ではなかった。)
また、絶間の姫が鳴神をたぶらかしても、それは使命のためであって申し訳ないと独白するところでは、上人を敬う気持ちが感じられ、鳴神上人の方も敬われるだけの格を備えていて、これぞ正統派「鳴神」と思った。
◎東大寺のお水取りの儀式を舞踊にしたという「達陀」の幕開けは、夜明け前の暗い薄青の照明のなか、松明を担いで花道を入ってきた僧が、二月堂の階段を登っていく。本当に夜明け前の感じがして、なかなかよい演出だ。全体的に香の匂いが漂ってくるような独自の雰囲気がよかったと思う。
須弥壇のまわりを経を唱えながら回る僧たちが、終盤でいっせいに踊る様は土着的というか、舞踏っぽいというか、異様な迫力に満ちていた。
中盤で菊五郎演じる僧が、かつての恋人で今は亡き青依の女人(菊之助)に誘惑される場面は、誘惑されればあの世に連れて行かれそうで怖かったが、悪意のない青依の女人が哀しく、こういうのはもう菊ちゃん、お手の物やなぁ。
菊五郎の踊りは指先まで神経が行き届いていて柔らかく美しく、静かに発光していた。
◎「義経千本桜 川連法眼館の場」は、海老蔵の独壇場だと思った。これぞ歌舞伎という早変わりに次ぐ早変わり。下手で消えたかと思えば瞬時の後に上手に現れ、欄干のうえをツンツンとうさぎ跳び(狐だから狐跳び?)、宙に舞い消え去る幕切れまでよくぞ動いた、頑張った。
ただし、狐言葉を話すのに精一杯で、役はまだ海老蔵のものとはなっていない感じがした。親狐を殺され苦労したことや、親恋しさに鼓(の皮となった親)を追いかけたことなど、泣かせる話のはずが泣けなかったのは残念。
色と華は充分にあるので、自分の芸を客観的に見つめ更に磨きを掛けていってほしい。

谷口英治カルテット&横山利佳子

やー、やっぱり楽しかった(拍手)。
谷口さんは、お風邪で声が出にくく辛そうだったが、演奏には全く支障なし。クラリネットのこぶしや裏声が絶妙のところで入り、いつもより更によかったかもしれない。
また、合間のお話も面白くて、寄席で演奏しても違和感がないかも(笑)。
ラテンっぽいアレンジが多いと思ったら、最新のアルバムがラテン・ジャズとのこと。「ベサメムーチョ」が入っていると聞いて、昨年のライブでやったアレンジがめちゃめちゃカッコよかったので期待して買ったら、別のアレンジだった。帰宅途上で4曲くらい聴いたが、サラリと軽くて聴きやすい。でも、圧倒的にライブがよいな~。演奏しているメンバーが異なるからというわけではなくて、場の空気(熱気)の違いだと思う。日常的に熱気に当てられるのは疲れるから、CDの熱は低めでいいかも。繰り返し聴けそうなアルバムだ。
話がそれたが、本日は袴塚さんのピアノの音色が気持ちよく印象に残った。
ジャンボさんのベースを聴いていると、弾いて出る音が強いので、ふとベースって打楽器かもと思った。
山下さんのドラムスは、あまりにも様々な音が出るので、いったい何種類の太鼓やシンバルがあって、何本のバチを手にしているのかという感じだった。
利佳子さんは、バラードの女王だ。深みのある声質、伸びのある高音。聞きほれる。
例年どおり、音楽が本当に気持ちよく楽しいと感じられるコンサートだった。
谷口英治(クラリネット)
袴塚淳(ピアノ)
ジャンボ小野(ベース)
山下暢彦(ドラムス)
横山利佳子(ヴォーカル)
◎ムーンライト・ビカムズ・ユー
◎セ・シ・ボン
  ラテン~。
◎星に願いを
◎トゥー・クローズ・フォー・コンフォート
  リズムがころころ変って確かに面白い。
◎バッハのメヌエットとカンタータ
  バッハはジャズに限るねぇ!
◎サンタが街にやって来ない(!?)
  曲はおなじみ「サンタが街にやって来る」。ブル~ジ~。あまりにブルージーなのでサンタが来ないのではないかということらしい。このアレンジは、2年くらい連続で演奏された秋の歌メドレーのなかの「あれ、マツムシが鳴いている~」を思い出すゾ。
◎世界は日の出を待っている
(休憩)
◎時の過ぎ行くまま(Vo)
◎ス・ワンダフル(Vo)
◎ムーン・リバー(Vo)
◎マイ・ワン・アンド・オンリー・ラヴ(Vo)
  惚れ惚れ~。
◎フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン(Vo)
  いい曲だ~。「スペース・カウボーイ」を思い出す。
◎「慕情」のテーマ
◎ダニー・ボーイ
  ピアノ、きれい~。
◎シング・シング・シング
(アンコール)
◎イエスタディ

御園座10月

昼の部(10月21日)
 毛抜
 色彩間苅豆かさね(いろもようちょっとかりまめ)
 権三と助十
夜の部(10月20日)
 鳴神
 達陀(だったん)
 義経千本桜 川連法眼館の場
◎毛抜
 毛抜を観るのは2回目のせいか、それとも演じる役者のおかげか、セリフがよく聴き取れた。
 以前観た海老蔵の粂寺弾正は、民部の弟秀太郎や腰元巻絹に色事のちょっかいをだして振られたときの驚愕(?)ポーズが傑作だった。歌舞伎らしい大仰さが漫画的で可笑しく、かつ、そのまま錦絵になりそうな美しさだった。
 松緑の粂寺弾正は如何にと、そのポーズを楽しみにしていたら、意外とあっさりしていて拍子抜けだったが、これが型の違いというものかと勉強になった。
 毛抜の幕切れは、弾正が名探偵ホームズよろしく、小野家のお姫様の奇病の原因を突き止め、お家のっとりのたくらみを暴き、意気揚々と花道を帰っていく。その松緑の表情が大変よかった。心の底から満足しており、一働きした清々しさに満ちていた。
 それにしても、弾正の衣装の模様は、なぜ、碁盤に碁石なんだろう。囲碁に目がないキャラクターなんだろうか。
◎かさね
 美しい~。海老蔵、菊之助は一人一人でも美しいが、二人が寄り添うと「ほぉ~」と口が開く。花道でのツーショットの舞台写真がなかったので、見るたび涎をぬぐう必要もなくなったわけで、それはそれでよかったかもしれない・・・・。
 歌舞伎役者の三十路は、芸がある程度こなれてきたうえに、時分の花ともいうべき美しさが保たれている頃で、さぞよい10年あろうと、これからのご両人が益々楽しみだ。
 お話は、父の敵の与右衛門(海老蔵)を好きになったかさね(菊之助)に父が祟る。そして、与右衛門はすがるかさねを殺す。
 菊之助は、かさねの悲しみをよく表現できていたと思う。与右衛門に鏡を差し出され、自分の顔の変化に気づいたときの息を飲む音に胸を衝かれた。
 しかし、これも型なんだろうか。殺された後、逃げる与右衛門を逃すまいと引き戻すしぐさは、執念らしきものが感じられない。横たわって片腕だけ上げ、手首より先で「おいでおいで」するだけとは、あまりにもあっさりしすぎではないだろうか。これは、手先だけでも充分に引き戻す力があるということだろうか。それとも、花道の与右衛門に注目あれと、控えめな演技に止めているのだろうか。
 また、鎌で切りかかる与右衛門から逃れたり、切られても追いすがったりする場面では足を引きずっているが、その引きずり方がピョコピョコといった速いテンポでおどろおどろしさがない。舞踊だからか、音楽には合っていたけれど、こんなに怖くなくていいものだろうかと思った。
 海老蔵は捕り手と戦う場面で、工夫をしていたように思う。どんな工夫だったか忘れてしまったが、「工夫をしている」と思わせられたということは、あまり自然な演技とは言えないだろう。でも、意欲的でよいことだと思う。
 与右衛門は色悪だけど、海老蔵は性悪には演じてなかった。私は海老蔵のこれぞ色悪というのを観てみたい。三十路でぜひ!
◎権三と助十
 「源氏物語」の弘徽殿の女御を観てからというもの大好きな田之助さん、これに出るってんで楽しみにしていたら、最後の締めにチラっと。もっと大きな役で観たかったけれど、うれし泣きに手のひらで顔を覆うしぐさに、人のいい小間物屋の人物像が現れていて、名人はちょっと出るだけでもよい!と思った。(田之助さんの弘徽殿の女御がどれだけ素晴らしかったかは、以前書いたものがありますので、ぜひ、ご覧くださいまし。)
 そのほか、権三(團十郎)も助十(菊五郎)も家主(左團次)もあたりまえによかった。権三のおかみさんを演じた魁春は、こういう役がうまいなぁ。「芝浜」でもおかみさんの役で、あれは感動したもの。
 「権三と助十」は、話自体はさほどではないが、江戸の風物がのんびりと、人間関係がちゃきちゃきと面白く、ほのぼのとした味わいがあった。子どもが走り回る長屋のにぎやかさもよかったし、特に井戸替えの面白さったらない。何だか知らないけれど、皆が「そーれっ」と綱を引っ張って、上手から花道へ走って出てくるのが愉快で、出てくるたびに笑わせてもらった。

ピーター55

母と「ピーターvs池畑慎之介」へ行ってきた。
第1部は池畑慎之介がお蔦を演じる「一本刀土俵入り」、第2部はピーターの「レビュー」となっており、なんだかお得な公演だ。
「一本刀土俵入り」での池畑慎之介は、さらりと上手い。話自体もいいので安心して観ていられる。(と言いつつ、眠ってしまった。他の主要な俳優さんが、いかにも芝居をしている感じだったのが残念。母は英太郎が出番は少しなのに存在感があってよかったと言っていた。)昔観た前進座の芝居と若干台本が異なるようで、お蔦と先輩酌婦(英太郎)の別れの場面が加わったりしていた。
「レビュー」の方は、かなり楽しかった。4人の男性ダンサーを従えて、歌って踊るピーターは妖しい魅力がいっぱい。「一本刀土俵入り」では、池畑慎之介が男性であることを忘れて観ていたが、「レビュー」ではピーターが男性であることを常に意識させられた。見た目はまるっきり女性なのに。艶然と手をふる姿は大女優の貫禄なのに。
腰までスリットが入ったロングドレスから、にょきりと足がのぞくたび、男性なんだよね~と思ったし、男性ダンサーとの絡みにも男性同士なんだよね~と思った。
つまり女性にしか見えないから、「実は男性」と脳内で確認作業をしていたわけだ。そして、ドレスから女性の足が見えるより、男性の足が見えていると思った方が妖しい。その足が西田敏行のものならと想像すると、妖しく思われる男性の足は限られてくるけれど。
おしゃべりも楽しく、大いに笑わされたし、なかなかのエンターテイナーだと思った。55歳になったばかりだそうだが、これからも元気で末永く(美しく)楽しませてほしい。ありがとう。がんばれ~。