力作。このような歴史を題材にした真面目で見応えのある日本映画をもっと観たい。俳優が適材適所で、各々の立場での言動が、いちいち頷けるような脚本と演技で、もらい泣きもしばしば。東京裁判で前席の人の頭をペシッと叩いていた壊れている風味の東条英機が(←間違い。コメント参照、願います。)、この映画ではとても立派な東条英機(丹波哲郎)だった。信心するなら最初から仏陀にしておけばよかったのに、天皇を崇め奉ったばっかりに・・・・(家族との別れに涙)。その天皇信者をまっとうする姿は、哀れであり敬服にも値するような気がする。
空中戦では、特攻らしく散る覚悟の大門(西郷輝彦)と燃料切れなら引き返す江上(篠田三郎)だったが、市街戦では、劣勢のなか突撃しようとする江上と、死ぬとわかって行くことはないと制止する大門だった。二人とも冷静に道理で動けば対立することもなかっただろうに、道理で動けないのが人間だ。
フォックスと呼ばれた男張りの理想的将校である小田島(三浦友和)だって、投降しにきたはずなのに、浜辺の男女が同胞のされこうべを投げ合っていたとわかるとプッツンきてしまうのだ。心情的にとてもよくわかり泣けた。撃たれた小田島の左目だけのライトアップにも感動。
美代(関根恵子)のちゃきちゃきのキャラクターもよかった。死んでいった戦友に申し訳ないから、回復したら戦場に戻ると言う夫、幸吉(あおい輝彦)に「私はあなたのものなのよ」と言って迫る。夫を棺桶から引きずり戻した格好だ。ラブシーンになると(されるがまま~で)受動的になってしまうけれど、私が演出するなら、言葉にはしないが「あなたは私のものなのよ」というふうに能動的なラブシーンにしたいところだ(・_・)。だって、そういう勢いだもの~。
京子(夏目雅子)も戦犯として死刑の判決を受けた江上を救おうとするが、江上自身がこれを拒む。京子にそっくりなマリア(夏目二役。眼福。)を軍人として見殺しにしてしまった(言わば京子を殺した)のだから無理もない。処刑されるとき、「天皇陛下万歳」と叫んだので、あれれ?戦争には反対で天皇のために戦いたくないから「京ーーー子ーーーー!」と叫ぶんじゃなかったの?と思いながら観ていたが、観終わってから気がついた。軍人として京子を殺したのだから彼女の名を呼べるはずがないのだ(涙)。これが軍人として死ぬということなのか。
「天皇は戦わないの?」「陛下は戦争を望んでいらっしゃらなかった。責任はすべて私一人にある。」
御上、御上と天皇に関するセリフが散りばめられている。なかでも強烈だったのが大門の「政府が来なくても陛下は必ず助けに来てくださる」だ。そんなことを思っていた兵隊が本当にいたかどうかは置いといて、作り手がこのセリフを言わせたことが重要だと思う。私たちはそんな助けはなかったことを知っている。だから、このセリフは私には「政府が行かなくても陛下は助けに行くべきだった」という作り手の声に聞こえる。アメリカが天皇の戦争責任をうやむやにしても、天皇の名のもとに戦って死んでいった兵隊たちには、天皇自らが何らかの落とし前をつけるべきだろうというふうに。
監督:舛田利雄
(2011/08/16 あたご劇場)
ね、観応えがあったででしょ。
お薦めして良かった(満足)。
おかげで、よいものを読ませていただきました。
あ、一つチェックをいれるなら、東条英機は、
東京裁判で大川周明に頭をペシッと叩かれていたほうの
人物で、叩いていたほうではありませんよ。
ヤマちゃん、この映画を薦めていただいて、よかったですわ。ありがとうございました。うえに書いたことの他にもフックが色々あったと思います。
>東条英機は、東京裁判で大川周明に頭をペシッと叩かれていたほうの人物で、
やや、そうでしたか。
東条英機の顔は知っているので、これは記憶のねつ造です(^_^;。ご指摘ありがとうございました。
お茶屋さん、こんにちは。
本日付の拙サイトの更新で、こちらの頁を
いつもの直リンクに拝借したので、
報告とお礼に参上しました。
お茶屋さんが最後に言及している
天皇の戦争責任に係る部分、'80年代の作品でも
まだなおそういうところを残していたわけですよね。
昨今じゃ、とても考えられませんよね~。
どうもありがとうございました。
ヤマちゃん、いつも直リンクとご報告コメントをありがとうございます。
一方では規制緩和、もう一方では自粛、自主規制となんだか嫌な方へ転がっていますもんねぇ。
昭和天皇の御下血のときや『靖国』上映のときなんか・・・。自主規制しないためには、市民同士のつながりが不可欠ですね。