数年に1本、入れ子細工のような重層構造の素晴らしい作品が生まれる。この作品もそうで、全体としては「物語」とは、現実を昇華させたものであって、美しく面白いものであるべきだということが描かれていて、その中になぜ少年は絶望せず生きのびられたかという話があり、またその中に神さまがパイ少年(スラージ・シャルマ)を生かしてくださったという物語があった。
しかも、月夜にクジラのジャンピングや、トビウオの群との遭遇、夢のような静かな水面などの美しい映像も楽しめて、ユーモアもあり抜群の面白さだった。
カナダの大学で哲学を教えているパイ(イルファン・カーン)のもとに、スランプ突入状態の小説家(レイフ・スポール)が訪ねてきて、パイ少年の物語を聴くことになるのだが、パイ少年が生まれたときから物語は始まる。だから、リチャード・パーカー(トラ)と漂流するまでの間にもフックがたくさんある。最大のフックは、パイ少年がヒンズー教徒でキリスト信者でムスリムだということだろう。八百万の神々も如来もコックリさんもいっしょくたの日本人には違和感がないかもしれないが、海外では違和感バリバリかもしれない。ただし、これも物語の一部であって現実を昇華させたものだろうから、異教徒同士の争いに心を痛めた作者が、どの宗教も面白いし、ためになるし、いいんじゃないのという思いを反映させたのかもしれない。
他にも思うところは色々あったけれど、色々あり過ぎて忘れてしまった(笑)。
ただ、この物語を語るパイさんが、バスター・キートンも真っ青のストーン・フェイスで、どうしてニコリともしないのか気に掛かってならない。
コック(ジェラール・ドパルデュー)
[追記]
なぜ少年は絶望せず生きのびられたか
『プルートで朝食を』の主人公のように、パイ少年も自分を物語の主人公にしてお話を作ることによって、困難な状況を乗り越えられたのだと思う。
自分自身を主人公に出来る。→自分を客体視できる。→状況を面白がれる(神さまに望みを託すと絶望しないでいられる)。→生き延びることができる。
「物語」のパワーは凄いと思う。
LIFE OF PI
監督:アン・リー
(2013/01/26 TOHOシネマズ高知5)
さすがお茶屋さん!
トラの様子に夢中になってましたがそのとおりですねー
(^∇^)
この世界は物語
自分は舞台の主人公
一応脚本はあるけど、リアルタイムで直せまーす
ケロさん、いらっしゃいませ。
トラ、怖かったよねー。
CGとは知らず、ビビリまくりでした。
そうそう、この世界は物語。
パイ少年、片思いだったけど、もし、このまま死んだら自分が可哀想と思って、インドで彼女と両思いってことにしたのかもとか、缶詰が流されて菜食主義者やのに魚を食べないかんなって、自分はトラってことにしたのかもとか。トラは肉食だけどネコ科だから魚もイケルとか(笑)。
お茶屋さん、こんにちは。
ホント、抜群の面白さでしたねー。はじめ全然食指が動いてなかったのですが、観に行って大正解!
しかも僕には珍しくも、どうせ観るなら本作は3Dだろうと見越して行った勘も大当たり(エヘン)。
今あちこち渡り歩いて、無性に再見欲求が高まってきているのも、いつにないことなのですが、
「この物語を語るパイさんが、バスター・キートンも真っ青のストーン・フェイスで、どうしてニコリともしないのか気に掛かってならない。」
とのご指摘、効きましたよ~。僕も非常に気になってきました(笑)。
今いくつも観たい作品があるので、最終的に叶うかどうか分かりませんが、
このご指摘により再見を基本に臨むことにしましたよ(あは)。
ヤマちゃん、イイ勘してるね!(^_^)
私も嫌々(笑)観に行ったのですが、2Dでして、都合がつけば3Dで再見したいところです。
トビウオのあたりでスクリーンサイズが小さくなって、黒みのところまで魚が飛び出してきたような気がしたので、その確認が出来たらなぁ。
パイさんのストーン・フェイス、気になるでしょう。
だって、パイの物語はユーモアにあふれてますからね。
作家さんに手料理をふるまうシーンと「トラの話の方がいい」と言われたときと、かすかにでも微笑んでくれてらいいのですが。目が笑ってないような・・・・。
劣等感や本当に嫌なことや心の傷は、言おうと思っても言葉として発することが出来ないので、パイさんが物語に出来なかったことがあって、それがあのような目にしてるのかなと思っています。(それでミノさんが教えてくれた食べちゃった問題で、それかなぁと思ったんですが。そうかなぁ?)俳優がそういう俳優なのかな?
お茶屋さん、こんにちは。
昨日付の拙サイトの更新で、こちらの頁をいつもの直リンクに拝借したので、報告とお礼に参上しました。“「物語」のパワー”について追記なさってますが、つい最近、『藁の楯』を観て、本作を想起したものでした。
また、本作にまつわる対話のなかで、以前お茶屋さんと交わした『肉弾』対談を振り返る機会が持てたことも、嬉しいことでした。
どうもありがとうございました。
そうそう、その後3Dで見直しまして。
思うに2Dでも充分だったと思いました。印象はほとんど変わりませんでした。要は最初に出会ったのがどちらかということなのかも。
笑わぬパイについては、そう笑わぬでもなかった気がしました。笑わないと決めつけて見たせいでしょうか(笑)。
ただし、泣くパイについて気がつきましたよ。保険会社の人に真実を話す若きパイは涙を流していましたよね。中年パイは、ライターさんに「トラの話の方がいい」と言われて泣いていました。長年の間にトラの話の方が真実になったという感じでしょうか。
『藁の楯』で『ライフ・オブ・パイ』を想起したとのことで、う~む(笑)、謎です。
ともあれ、リンクとコメント、ありがとうございました。