胸が痛くなるほど切なく美しく、これぞ恋愛映画という感じだった。
明るくウイットに富み、その魅力で人気者街道まっしぐらのマリリン・モンロー(ミシェル・ウィリアムズ)が、実は夫アーサー・ミラー(ダグレイ・スコット)との関係でも演技でも自信が持てず、病的なまでに不安定で、付き人ポーラ・ストラスバーグ(ゾーイ・ワナメイカー)と精神安定剤のおかげで何とかしのいでいるものの『王子と踊子』の撮影に少なからず支障をきたしている。監督・主演のローレンス・オリビエ(ケネス・ブラナー)なんか、予定どおりに撮影できないのでマリリンへの嫉妬も混じってカンカンだ。オリビエの妻ヴィヴィアン・リー(ジュリア・オーモンド)は、夫がマリリンを口説くのではないかと最後まで心配そうだったが、無用の心配だった。
そういう撮影所の様子を静かに観察していた雑用係の若者コリン・クラーク(エディ・レッドメイン)が、マリリンのご指名で数日間をともにする。マリリンにとって異国での撮影は怖い人だらけなんだけど、コリンだけは怖くなかった。名優シビル・ソーンダイク(ジュディ・デンチ)なんか、マリリンのおびえを理解して常にやさしく接してくれたが、マリリンにとっては恐れ多い人なんだろう。その点、コリンは若くて人生経験も浅そうだし、何より彼女の純粋な信奉者なので、彼女が少し優位に立つことができるのだ。
コリンの方でも女神様にお仕えする~といった感じだったのが、マリリンの純真で無邪気なところに触れて、ついにフォーリン・ラブ。彼女を守りたい、自分だけのものにしたいという気持ちが芽生えるのだ。「本当に楽しかった13歳のときのデートのように、最高のデートにするわ」と言って夕日の中でキスをする。このセリフの中には悲しみもある。私はこのとき、コリンは恋に落ちたと思った。でも、マリリンにその気はなくて、帰りの車で彼女の手を握ろうとしたコリンをそっとさける。彼女の誠実な意思表示だ。この後も二人の関係は少し続くけれど、本質的にはこの日のようなことだと思う。
コリンは本当に賢い若者だ。観察力があるし、理解力がある。過去にマリリンと関係があったミルトン・グリーン(ドミニク・クーパー)は騙されたと言っていたので、もしかしたらコリンほどにマリリンを理解してなかったのかもしれない。
コリンは、マリリンから必要とされていることや好かれていることを、うぬぼれや勘違いなしに感じていたと思う。マリリンが彼に心を開いて、常に正直に接していたこともわかっていたと思う。
心身ともにボロボロのマリリンを救いたい気持ちで本気でプロポーズしたと思うけれど、どこかで「みんなのマリリン」高嶺の花という意識は残っていたんじゃないかとも思う。そうでなければ、失恋の痛手はもっと深いはずで、ルーシー(エマ・ワトソン)をデートに誘う余裕はなかっただろう。
ともあれ、美しい思い出として長い間心にしまっておけたのは、コリンが賢かったからだという気がしてならない。
MY WEEK WITH MARILYN
監督:サイモン・カーティス
(高知市民映画会 2013/02/07 かるぽーと)