愛、アムール

エンドロールは無音だったけれど、私の頭の中では佐良直美が「愛、あなたと二人~」「二人のため~、世界はあるの~」と歌っていた。鳩も入れない二人きりの世界。娘でさえ本当の意味で入れたのは、二人が亡くなった後のことだ。

物語の世界における究極の愛の形は、常に心中として描かれてきたように思う。この映画も正しく「物語」であり、究極の愛の形を描いた心中ものだ。週3回の訪問介護や2週間に1回の往診、娘の訪問なども強力に描かれ現実味はあるけれど、社会性を極力排しており、タイトルどおり愛の物語に徹している。
もちろん、別の考え方もありだ。夫が寝たきりの妻に水分を取らせようとして思いどおりにならず、思わず妻の顔を叩いてしまい忸怩たる思いに沈む場面がある。(その前に妻の意思を尊重しないという理由で介護ヘルパーをクビにした場面を配しているのは残酷なほどにうまい。)その暴力性の延長に無理心中があるという考え方もできる。愛する対象が変わり果ててしまっても耐えられるかどうか。要するに介護疲れ。しかし、私はそういうのは現実の世界で充分なので、この映画は悲しくも美しい愛の物語でよいと思っている。物語でもなければ、殺した妻の服を着せ替え、花で飾るなんて余裕はいくらフランス人でもないのではないか???う~ん、どうでしょー。

始まって間もなくして物語の先が読めるし、弟子のピアニストが訪れるシーン(きっと重要なシーン)では眠っていたし、あまり面白いとも感じなかったけれど、ジャン=ルイ・トランティニャンの演技には脱帽だ。これほど自然で、表情筋をほとんど使わずして様々な思いを表現できるとは。エマニュエル・リヴァも凄かった。カーテンコールがあったら指笛だ。

[追記]
そうそう、大事なことを書き漏らしていた。ハネケ監督の作品を観るのは、これで3本目だと思うけれど、まさか「愛することは美しい」とこんなにストレートにわかりやすく描く人だとは思ってなかったのでいささか驚いた。遺体が放つ悪臭から始まり、介護の不安が見せる悪夢など辛いことも描かれているから、きれい事に収まらず本当に美しいと感じられるのかもしれない。「愛することは美しいのだー」と観た後、しばらく叫んでいたことであった。

妻アンヌ(エマニュエル・リヴァ)/夫ジョルジュ(ジャン=ルイ・トランティニャン)/娘エヴァ(イザベル・ユペール)

AMOUR
監督:ミヒャエル・ハネケ
(こうちコミュニティシネマ 2013/10/15 高知県立美術館ホール)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です