素晴らしい。まさしく映画。これまで観た西川美和監督作品の中で一番好きだ。相変わらず緻密で練られていて美しい。
スクリーンでこそ見られる小さな星に弁護士の奥さん(梶芽衣子)の「見上げてごらん夜の星を」の歌声が重なる。三上正夫(役所広司)の就職が決まったお祝いの会で、近所のスーパーの店長(六角精児)のギターが伴奏だ。三上君は真っ直ぐで正義感が強すぎるんだな、とか、すぐカッとなっちゃダメだ、とか言ったのは身元引受人の弁護士(橋爪功)だったか。そうよ、いいかげんに生きているのよ私たち、と言ったのは奥さんだったか。励ましの言葉を受けて照れている三上。当初、TV制作の下請けで前科六犯十犯の更生ドキュメントの素材として三上にビデオカメラを向けていた作家志望の津乃田(仲野太賀)も「本当によかった」という感じで微笑んでいる。出所した三上を支える人たちとのワンシーンだけを取っても色々な含みがあって豊かだ。
玉子かけご飯のシーンは天国、カップラーメンのシーンは地獄。シャバダバダ、シャバは大変。
地獄を見て、たまらず暴力団組織の兄弟分のところに電話すると(東京タワーの夜景)、「おつかれさん」とねぎらってくれる。私でも涙がこぼれるくらいの温かさ。こりゃあ、出所して元の木阿弥となる人の多いのは無理もない。兄弟分のところは、別の意味で天国だ。
就職先でめっちゃ嫌なことがあったとき(私は三上に爆発してほしい気持ちがあった。その方が彼らしいではないか。自分らしさを封じ込めることの気持ち悪さ、苦しさ。)、とにかく重い。身体もペダルも何もかも。そこに元妻(安田成美)から電話が掛かる(雨模様の色とりどりの水玉)。これが本当の天国だ。娑婆も捨てたものではない。
単純明快、直情径行の三上であっても人間とは本当に多面体だ。チンピラを相手に格闘し、肉食獣のように口の周りを血だらけにしているところを見たら人はどう思うか。あるいは満面の笑顔で子どもたちと草サッカーに興じた後、くずおれ泣いている背中を見た人は。(おっかさんは月となって正夫を見ていたかも。)
一口に殺人と言っても、その事情は色々だ。一人一人はいろいろで、その一人も多面体である。そんな基本中の基本を描き、娑婆の意味を描き、一人につき四、五人のサポーター(行政を含む)と良き縁の何人かがいれば、ほどよい加減で生き抜けることを描いた。
北村有起哉(生活保護担当職員)、長澤まさみ(テレビ制作)、白龍(兄弟分)、キムラ緑子(兄弟分の妻)、いいねぇ。
三上と津乃田がお風呂に入るシーン、いいねぇ。一人ご飯、電話、お風呂と二つずつシーンがある。
暴力団排除条例を私は「差別条例×警察怠慢条例」と思っているが、暴力団の子は幼稚園にも入れてもらえないというようなセリフがあって感心した。
(2021/02/12 TOHOシネマズ高知3)
シネコンの上映作品、大分変ったんですね。
西川監督の映画とはあまり相性が良くなかったけど
この記事読んで、観にいきたくなりました(^^)
今作の西川監督はストレートでしたよ(^ー^)。
「ノマドランド」の予告編も見れますので。フランシス・マクドーマンドが普通の人を演じているみたいです。
『すばらしき世界』観てきました。
西川監督の映画の「緻密で練られていて美しい」演出に
やっと出会えた気がします。
(これまでは「美しい」とはあまり思わなかった)
たまたま『ヤクザと家族』を見た数日後で
「対になってる2本」と言った知人の言葉を
思い出したりしました。
「人間は多面体」で「事情はいろいろ」で
「娑婆」の厳しさと、そこをどう生き抜くか…
私はこれまで、西川監督作品から感じる
「世の中と人との裏側を見ようとする視線」が
なんとなく居心地悪かった(そんなことしなくても
言わなくてもわかってるコトなのに…という感じ)のですが
今回はあえて「表側」というか理想(人間の善性)?というか
それで通した…という印象を受けました。
観られて良かったです。(勧めて下さって?ありがとう(^^))
『ノマドランド』はきれいな風景が見られそうで
それを楽しみに観にいこうと思いました。
ムーマさん、いらっしゃいませ。
>西川監督の映画の「緻密で練られていて美しい」演出に
>やっと出会えた気がします。
良かったです~(^_^)。
>私はこれまで、西川監督作品から感じる
>「世の中と人との裏側を見ようとする視線」が
>なんとなく居心地悪かった(そんなことしなくても
>言わなくてもわかってるコトなのに…という感じ)のですが
ですよね!だから面白くても好きな作品はなかったな~。『ゆれる』さえも本当に好きかと言えば微妙です。(西川監督作品と聞いて行くのは、面白さが好きなんだろうなぁ。なんか変な言い方ですが。好きでもないのに行くのは、ウディ・アレンみたいなものかな(笑)。)
今回も「すばらしき世界」を皮肉っぽく受けとめる人がいると思うし、西川監督もそれがわかったうえでタイトルにしているとは思うのですが、私はストレートに受けとめています。捨てたもんじゃないよと。
『ヤクザと家族』は端から観る気になれなかったのですが、評判いいですね!ご覧になられたいきさつも拝読しました(^_^)。祭日だけ時間割が違ってたからかなと思ったりしていました。
僕は内心、あのタイトルは、bossの「このろくでもない、すばらしき世界」から来ちゅうはずやと観ちゅう(笑)。
ボス?ごめん、わからん~。ブルーススプリングスティーン?
今日、甥と観てきて、水玉の背景は、福岡へ飛ぶときと就職が決まった帰り道(一番星)のところと元妻の電話のところでした。
お、早くも二回目を観たん? やるねぇ。
水玉は、きらきら場面ということなんやね。
あと、bossのキャッチコピーというのは、これよん。
https://www.nicovideo.jp/tag/%E3%81%93%E3%81%AE%E3%82%8D%E3%81%8F%E3%81%A7%E3%82%82%E3%81%AA%E3%81%84%E3%80%81%E3%81%99%E3%81%B0%E3%82%89%E3%81%97%E3%81%8D%E4%B8%96%E7%95%8C%E3%80%82
ははは、缶コーヒーのbossね。
水玉は三上のしあわせ、救いのきらきら場面かな。
お茶屋さん、こんにちは。
明日付の拙サイトの更新で、こちらの頁をいつもの直リンクに拝借したので、報告とお礼に参上。
僕にとって本作は、拙日誌にも綴ったように「逃げ出すことの意味と効用、功罪はともにあり、簡単に是非を問えるものではないことを西川作品らしい辛辣さで描き出すとともに、…渡世から処世に変えて歩む道をかろうじて持ち堪えた三上の姿が痛烈」な作品やった。それは即ちお茶屋さんが「単純明快、直情径行の三上であっても人間とは本当に多面体だ」と書いていることにも通じちょって、“簡単に是非を問えるものではない”ということに尽きるんやけど、ものすごく感心したんは、「一人につき四、五人のサポーター(行政を含む)と良き縁の何人かがいれば、ほどよい加減で生き抜けることを描いた」との視座やった。
素晴らしい!(拍手) 僕は、そういう目では、よう観ちゃあせんかった気がする。ありがとね。
ヤマちゃん、リンクとコメント、ありがとう。
ヤマちゃんの日誌、追記したのかな?それとも私がmixiの方しか拝読してなかったのかも。とにかく再読して、推奨のリンク先も読ませていただきました。やっぱり作品に力があると感想も面白いねぇ。シューテツさんの三上が人好きがするキャラクターだから助けてもらえると言うのは、私もはっとさせられました。同時に、そういうときこそ行政だよねとも。
持ちこたえた三上を思い出すと苦しくてたまりません。犯罪者になることなく、誰もがその人らしく自由に生きれる世の中に何とかして行きたいものですなぁ。口ばっかりですが。
日誌に追記するときは、(追記)と表示するから、mixiのほうしか見てなかったんやろね。推薦テクストをそんなふうに読んでもらえると、リンクし甲斐があるね。ありがと。
なんか苦しかったよねぇ、あの場面。序盤での狂犬ぶりを発揮した場面との対照が利いてるよねー。
>リンクし甲斐があるね。
よかった映画はリンク先を読ませてもらっています。
リンク先のヤマちゃんのお礼と報告コメントを読むこともあるで~。