声優夫婦の甘くない生活

面白かった!
世界中に散らばったユダヤ人が、神から授かった「約束の地」としてイスラエルを目指すのだろうが、ソ連崩壊後のロシアからけっこうな数の人が移住していたとは全く知らなかった。ロシア語吹き替えの闇ビデオ店に行列が出来たり、ロシア語テレホンセックスワークに需要があったり。
イラクから毒ガス爆弾が飛来するのに備えてガスマスクが必需品だったり、警報が鳴って皆が装着して避難行動を取っている姿に驚いた。やっぱり、近隣とは仲良くしておいた方がいいよね(^_^;。
シェルター販売のチラシを貼ったり、どこまでが映画の作り事なのかわからないが、1990年代が舞台とはいえイスラエルの人の暮らしを少し覗けて面白かった。

「甘くない生活」はフェリーニの「甘い生活」から来ているのだろう。原題の「GOLDEN VOICES」も夫婦それぞれのエピソードが思い出されていいけれど、邦題は映画愛を感じるし、なにより面白そうだ。
ヴィクトル(ヴラディミール・フリードマン)が言うことに、ソ連時代に見たい映画を見れなかったことや、敬愛する映画監督と夫婦のスリーショット写真が自慢なこと、『ホーム・アローン』より『ボイス・オブ・ムーン』の吹き替えをしたいことなど、映画愛・文化愛の溢れる作品でもある。闇ビデオ店のオーナーがフェリーニを知らないことや、私もフェリーニ作品をほとんど観てないことが寂しい。

ラヤ(マリア・ベルキン)はマルゲリータという源氏名でテレホンセックスの接客をしていて、お客さんセルジュからのデートの誘いはもちろん断ったが、それでも待っているという相手をお忍びで観察していた。このとき、セルジュは花束を手にしていた。ロシアではデートの待ち合わせに男性から花束を贈るそうで、移住先でもちゃんと風習がつづいているのだなぁ。
移住生活の始まりは職探しからして大変で、中高年ならなおさら。大変だからこそ結束する夫婦もあれば、ほころびを広げてしまうこともあるのだろう。声優夫婦の関係については、キス一つで万事解決。夫婦げんかは犬も食わないと改めて思った。
(2021/07/17 あたご劇場)

Kバレエカンパニー「ドン・キホーテ in Cinema」

ドンキ、楽し~い(^o^)。
ドタバタ喜劇だから、単純に楽しめる。
キトリ役の飯島望未さん、華がある~。
バジル役の山本雅也さん、チャーミングゥ。
エスパーダ、重量感。
メルセデス、大人~。
ガマーシュ、いい人~(^m^)。
サンチョ・パンサ、踊る踊る。
第一幕の男性群舞、好きなのよね~。闘牛の踊りがカッコイイ。
衣装(シック)とか美術(重厚)とか音楽(若々しい)とかもイイし。メルセデスの衣装は、もう少し目立たせてあげた方がいいような気がするけど。
ただ、ドン・キホーテの夢のシーンは、スモークを焚くだけじゃなくて風車も見えなくして、もっと夢らしくしてほしかったな~。
ダルシネア姫とキトリは一人が演じることもあると思うんだけど、熊ちゃんの演出では別人で姫はあまり踊らないのね。熊川版「白鳥の湖」ではオデットとオディールを別人が演じてたんだっけ?観客としては一人二役って楽しみなんだけどなぁ。ドンキの場合、おきゃんなキトリも第三幕の結婚式で一人二役と言ってイイくらい大人らしい踊りになるから満足だけど。
ともあれ、ふわふわのキューピッドもよかったし、ほんま、楽しかった。

■出演   飯島望未/山本雅也 ほか K-BALLET COMPANY
      ※2021年5月の公演を4K収録

■指揮   井田勝大

■管弦楽  シアター オーケストラ トーキョー
(Kバレエカンパニーwebサイトより)

youtubeにあった公開リハーサルの模様。キャストは映画と同じではないし、1時間弱あるので全部は見てないけど、リハーサルも楽しい~。前半は第一幕の男性群舞とエスパーダ、メルセデス、後半は第二幕のパ・ド・ドゥみたい。
Tetsuya Kumakawa K-BALLET COMPANY Spring2021『ドン・キホーテ』公開リハーサル
(2021/07/14 TOHOシネマズ高知3)

ピーターラビット2/バーナバスの誘惑

二作目があるとは思わなかった。それだけ、一作目が面白かったということだ。その一作目を踏襲してラストは007も真っ青な大アクション。アニメってアクションだったんだ~。実写の重量感とか痛々しさがないぶん安心して楽しめる。ただ、ひじょーにもったいないのが、ピーター兎をはじめ様々な動物が画面のそこかしこで動いていて魅力に溢れているのに、二つの目玉では追い切れないことだ。

ところどころ、英国のポップスが使われていて聴いたことのある曲もあって嬉しかった。また、ビア(ローズ・バーン)とトーマス(ドーナル・グリーソン)は、キラキラ瞳の編集さんナイジェル(デヴィッド・オイェロウォ)が勧める儲け主義の絵本「ピーター・ラビット」の出版を拒否したのに、映画は編集さんが薦めたとおり(受け狙い)に展開していくという英国らしい自虐性も面白かった(わかっちゃいるけどやめられない)。そして、ピーターが若気の至りでバーナバスにだまされ仲間の動物たちが散り散りになるが、トーマス・マクレガーと温かいやり取りがあるのがやっぱり微笑ましい。

ビアトリクス・ポターの絵本になじみのある友人の言うことには、キャラクターが絵本とは少し異なるそうだし、今作は動物のキメのスナップショットが絵本そのままだったそうだ。私はピーターたちの絵を描くビアがビアトリクスからきていることに二作目でやっと気づいた。原作とはまったく異なる設定であっても緑豊かな景色など一応はリスペクトを感じる作りになっていると思う。
(2021/07/03 TOHOシネマズ高知1)

Arc アーク

『ザ・ファブル 殺さない殺し屋』を見るつもりだったのに、アクションよりSFの気分になっていて見てしまった。思ったとおり、あまり面白くなかった。やっぱり、このタイプ(100年以上も歳月が経つ)のSFは予算がいる。リナ(芳根京子)は17歳から139歳までを生きるのだ。不老不死で本人の外見が変わらないからと言って生活環境も今とほとんど変わらないなんて百年経った感じがしない。世界から切り離されたような島にいたとしても。
百年後の世界では一部の人を除いて、ほとんどの人が不老不死を選んでいるのも不思議な感じがした。そんなに不老不死って皆が望むものなんだろうか。そういう予算がなくても描けそうな、心の問題も描けてなかった。
面白かったのは、不老不死の技術が生まれる前に死体にプラスティネーション(防腐)をほどこして、生前のその人らしいポーズを取らせる場面。一番マンガチックで飛んでいて苦笑レベルだったけれど、エジプトのミイラが死後の「生」を信じて作られたのと比べて、プラスティネーションは生きている者の都合で作られていると思うと、とても「今」らしい感じがした。
夫婦を演じた小林薫と風吹ジュンは、さすがだった。
(2021/06/29 TOHOシネマズ高知5)