アマンダと僕

青年とその姪っ子が、ともに愛する人(青年の姉)を突然失った喪失感を共有し、ともに生きていこうとする再生の物語・・・・のつもりで観ていたので、いつ、姉ちゃんが亡くなるのか(自転車に乗っていたので交通事故に遭いそうで)ハラハラしていたら、いつまで経っても事故は起きず。忘れた頃に事件が起きてビックリ。無差別殺傷事件に遭ったのだ。

ダヴィッド(ヴァンサン・ラコスト)とアマンダ(イゾール・ミュルトリエ)の物語であると同時にフランスで実際に起きたテロで傷ついた人々へのメッセージでもあった。テロで心身ともに傷ついた人、身内や知り合いを亡くした人、後遺症やPTSDに悩む人、犠牲者の知り合いの知り合い。大勢の人が事件前とは全く異なる状況に陥り、先が見えず、不安にかられ、フランスは人生は「もうおしまいだ」と感じたときに「大丈夫。おしまいなんかじゃないよ。」と寄り添うような作品だった。

ダヴィッドは、若いし、子どもを育てる自信が全くない。アマンダを施設に預けることまで考える。夜中に突然泣き出し、涙をこらえきれないアマンダの傍にいてオロオロする。母を亡くした子どもにどう接してよいかわからない。深く傷ついた人にどう接すればいいのか。してあげられることはあまりないかもしれないけれど、寄り添うだけのことでも力になると信じたい。
ダヴィッドだってアマンダにパワーをもらっている。アマンダは存在するだけで、いのちのシャワーをダヴィッドに浴びせている。子どもは特別だな。でも、誰かのために寄り添うとき、自分でも気づかないうちに力を得ているんじゃないだろうか。
二人が歩くとき、離れて歩いたり手をつないだり。同じ方へ。つかず離れず、寄り添うのがイイと思う。
(2020/11/27 DVD)

AI崩壊

入江悠監督作品は観たことがなかったが、何年か前に高知のオフシアターベストテンに入っていて気に掛かっていた。本作は監督のオリジナル脚本だという。近未来の日本を舞台に、安全保障関連法、相模原の障害者殺傷事件、個人番号と他の情報の紐付けなどを彷彿させられる社会問題を織り込んだアクション娯楽作で滅法面白かった。それに、福島の漁師も登場するのだ。ハリソン・フォード主演の『逃亡者』を彷彿させるような下水道シーンもあり、主人公(大沢たかお)がいつ谷底(?)に飛び込むか期待しまくった(笑)。

この映画を観た人が、命(でも何でも)の格付けをするのは権力者であって、私たちは格付けされる側(殺されるかもしれない側)であることに気づいてくれたらよいと思う。どんな差別も許さないこと、仲間割れしないことが、格付けされないことに繋がると思うけど、今、日本では殿さまでもないのに殿さま気分の人がいて相模原の事件の加害者の考えに共感したりするから困ったもんだ。トリアージも市民間でよく話し合っておかないと、それほどでもないときにトリアージが必要と言い出しかねないのが権力者だ。

ああ、話が脱線した。
脱線ついでに素晴らしいコラムがあったのでリンクを貼ります。短くて面白いので、ぜひ、ご覧ください。

<新・笑門来福 笑福亭たま>絶対アカン考え方
(2020/11/21 DVD)

オン・ザ・ロック

ソフィア・コッポラ監督らしいコメディだ。面白さは中くらいな感じだったが、やっぱりセンスを感じる。この調子で等身大の随筆風作品を作り続けてほしい。

父の放蕩と浮気で苦しんでいる母を見ていた娘としては、父を嫌いな時期もあったが、二児の母となり四十路を前に大人の付き合いができるようになっている。(というか、父の言うことをちゃんと聴いてやって娘の方が大人らしい。夫の浮気疑惑を父に相談したのが間違い。)娘が夫婦円満で家内安全なら父親孝行ができるよというお話。どうしても監督自身の話のように感じてしまう(笑)。

ローラ(ラシダ・ジョーンズ)とその父フェリックス(ビル・マーレイ)が何かのパーティーに行ったとき、ローラに話しかけた女性が離れたところにいる人を指して「彼女は柔らかい岩を作っている」みたいなことを言わなかったっけ?on the rocks は座礁の意味があって、ローラが夫ディーン(マーロン・ウェイアンズ)の浮気を疑って結婚生活が暗礁に乗り上げたことを言うらしいんだけど。そんなこと言ってないかもしれないのに、「柔らかい岩」って何か関係があるのだろうかと考えてしまった。(このパーティーから抜け出すときに、親子であとずさりして行ったのが一番受けた(^Q^)。)

父といっしょに偵察しておきながら、浮気でなかったとわかり、おまけに夫と行き違いになったと知ったとき、父を(過去を含めて)大いに責めたローラ。そこまで父親のせいにすることが可笑しくもあり、フェリックスが気の毒でもあり(笑)。

ローラが、父からもらった時計を外して夫からの誕生日プレゼントを腕にはめて、めでたしめでたし。フェリックスの話によるとローラが父のモノから夫のモノになったってことになるけど、その考えがもう笑える感じ。父を捨てて夫を取ったと見えるもの。ラストは捨てたわけじゃないよというおまけ。
(2020/11/20 あたご劇場)

シェイクスピアの庭

最後に「これ、全部本当の話」と赤の大きな文字でバーンとクレジットされたとき、つい「うっそ~ん」とツッコミを入れてしまった。本当なら本当らしく、他のクレジットと同じ色と大きさの文字にすればいいのに、「ホンマやでー!」という気合いがケンちゃん(ケネス・ブラナー監督)らしい。と思っていたら、タイトル「ALL IS TRUE」だった(驚)。

グローブ座炎上を機に引退してストラットフォードアポンエイボンで庭仕事をしながら妻と暮らすはずの余生が紆余曲折ありで面白かった。
いちばん見応えがあったのは、サウサンプトン伯(イアン・マッケラン)とシェークスピア(ケネス・ブラナー)のやり取り(腹芸)。サウサンプトン伯がめっちゃカッコイイ!!!シェークスピアが萌えるのも無理はない。

夫が20年も単身赴任の妻のアン(アン・ハサウェイじゃないの?演じていたのはジュディ・デンチ。)も、跡継ぎを生むのを期待された二人の娘(次女は文学の才能があるのに認めてもらえないし)もつらいと思ったけれど、家族を養い財産を築いたことを自負し、跡継ぎを待望するシェイクスピアも普通の男性すぎてつらい。
引退したとは言っても詩人なら生涯書かずにいられなかったはず。俳優なら演じられずにいられなかったろうし、演出家なら村芝居でもなんでも催したくなったろうと思うが、何も残ってないとしたら庭仕事に嵌まったのかもしれない。
(2020/11/16 シネマサンライズ 高知県立美術館ホール)