15年後のラブソング

海辺の博物館、イイネ。
名曲、“Waterloo sunset”、イイネ。
伝説のロッカー、タッカー・クロウ命のダンカン(クリス・オダウド)、ファンとしての狂いっぷり、笑えるね。
15年ダンカンと生活してきて別れて自分らしく生きていくジュリエット(ローズ・バーン)、とってもイイネ。早く妹を見習えばよかったけど、そうもいかない姉の立場、わかるよ。
あちらこちらで子どもを作って孫も生まれるけど、父親を一からやり直し中の雲隠れロッカー(イーサン・ホーク)、ゆるゆるでイイネ。

若かりし頃のタッカー・クロウの写真は、イーサン・ホークの写真で繊細そうなロッカーに見えた。『いまを生きる』『リアリティ・バイツ』『ガタカ』、う~ん、だよねー(^_^)。年を取ってからもずーっと、今まで作品にも恵まれて良い位置をキープしているなあ。『魂のゆくえ』を観てみるかな。
(2020/11/06 市民映画会 かるぽーと)

ペイン・アンド・グローリー

ペドロ・アルモドバル監督の自伝的作品とのことで、アルモドバルらしき映画監督サルバドールは、アントニオ・バンデラスによって演じられている。
これまでのアルモドバル作品と異なり、ヘンテコじゃない。ごく普通。アルモドバルの素なのか、母を亡くしてからのリハビリ的な作品なのか。そんなに面白いとは思わなかったが、まったく退屈しない。色彩や風景や衣服に調度品やら、何から何まで見応えのあるものばかり。

グローリーの部分は公になっているから、ある程度は知っていたり想像できると思うけど、ペインの部分はどうだろう。俳優と違って監督のことはプライベートまで知らない。作品をより理解しようと思ったら、俳優より作り手のプライベートこそ参考になるはずだけど。人間関係はともかく、こんなに心身の不調を抱えて映画を撮っていたとは大変だったねぇ。反対に言えば、よく撮れたねぇ。漢方は試したのかしら。

サルバドールが聖歌隊のリードボーカルをしていたというエピソードから『バッド・エデュケーション』を思い出したりしたが、ファンが観たらもっといろんな作品を彷彿させられるのかもしれない。
(2020/11/06 市民映画会 かるぽーと)

ガーンジー島の読書会の秘密

タイトルだけで観たくなる(^o^)。そして、タイトルどおり、若き作家ジュリエット(リリー・ジェームズ)がガーンジー島に取材に赴き秘密を解明していく話で、期待を裏切らない面白さだった。原題は「THE GUERNSEY LITERARY AND POTATO PEEL PIE SOCIETY」でセリフの中でも出てくるので、聞きながら「皮むき器をピーラーって言うのは皮がピールだからかぁ。」とどうでもいい発見をした作品でもあった。

こういう作品を英国の若者が観て、第二次世界大戦時にイギリス海峡の島もドイツに占領されていたことを知るのだろう。私も初めて知った。この作品には、空襲後の惨状、疎開、占領下での食糧などの没収、飢え、外出など行動の制限、敵兵との交流、密告、抵抗、密告者の末路、戦後も続く悲劇など、戦闘以外の戦争が網羅されているのではないだろうか。
米軍将校のマーク(グレン・パウエル)という婚約者がありながら、島の農民ドーシー(ミキール・ハースマン)と惹かれ合っているジュリエットの恋の行方は!?という興味もあり。1本で2度おいしい。というか、もっと本を読んでいたら3度おいしかったかもしれない。

敵の占領下、飢えていた時代に読書という心の糧を得た人たち。古本の新旧の持ち主という縁で繋がったジュリエットとドーシー。本を引用した手紙で真意が伝わるという妙味。そして、取材はしても書かないという約束を破ってまで書かずにいられなかった占領下の島と読書会の面々の物語は、読書会に贈られて公表はされていないけれど、時が経てば公表されると思う。そうしないと忘れ去られ、なにもなかったことになってしまう。仮に公表されなくても本はタイムカプセルの役割を果たしてくれるはずだ。そのときは、未来の人と過去の人をつなぐ役割をするわけだ。本で繋がるってイイネ。紙の浪漫の物語。
(2020/10/28 シネマサンライズ 高知県立美術館ホール)

朝が来る

観てよかった。
と言うのは、河瀬直美監督作品は相性がよろしくないし、「子どもを返してください」という予告編を見て『八月の蝉』とか『そして、父になる』のような子どもをさらうとか血のつながりがどうのこうのとかは、もう充分な気がしていて迷ったあげく観てみると、原作がある作品だったので河瀬直美臭は薄められ、「子どもを返してください」というのは養子に出した若い母親のSOSだったことがわかり、涙ものの感動作だったからだ。
「女はつらいよ」がベースとしてあり、そのうえに特別養子縁組や養子に出す親の事情などのちょっとした啓発的側面があり、ど真ん中は子どもを鎹とした血縁の親と養母の理想的な繋がりの始まりをサスペンスフルに描いた作品だと思う。

栗原清和(井浦新)を無精子症の設定にしたのは、これまで不妊の原因が女性にあると思われがちだったからだと思う。近年は男性にも原因があると一般に浸透していると思うけれど、治療方法の一端をこの作品で知らせてもらって、男性側もつらいのだな~と思った。
特別養子縁組の条件は、一つを除いて子どものために当然のことで条件となっていることに安心した。納得がいかなかったのは、養子を授かる方の両親のどちらか一人が育児に専念できることというものだ。この条件は多分法的な根拠はなくて浅見さん(浅田美代子)が主宰するNPOだけの条件ではないだろうか。条件を満たすために栗原佐都子(永作博美)は退職する。性別役割に固定観念がない夫婦であっても、性差別によって賃金の低い女性の方が退職することになるんだろうと思いながら観ていた。

養子に出す親の事情は様々だと思うが、片倉ひかり(蒔田彩珠)は中学生という最も弱い立場だ。甘酸っぱい告白シーンから林の中のラブシーンまで、ひかりのことを本当に好きだった麻生巧(田中偉登)も妊娠を機に離れてしまった。彼は早々とミサンガを外したんだろうなぁ。彼を責める気にはなれないが、性教育を推進しない教育委員会を責める。トイレの個室で産んで捨てるなんてことのないように、様々な相談先も男女ともに教えてほしい。両親は本人の気持ちを聴く耳持たずで保護者でありながら子どもを保護しない(保護しているつもりだとは思う)ため、ひかりは居場所をなくしてしまう。出産から養子縁組まで面倒をみてくれた浅見さんを頼って広島へ行くのは無理もない。
髪を染めて屈託を抱えるようになっても、ひかりは真っ直ぐで強くて優しい、いい子だ。新聞販売店の店主もいい人だった。同じ販売店で働いて同居していた友だちも(無断でひかりを保証人にするが)悪い人ではない。ここでは、金の切れ目が縁の切れ目を通り越して命の切れ目にまで来てしまった今の社会を意識させられる作りになっている。

佐都子は二度肝が冷えた。一度目は朝斗(佐藤令旺)が幼稚園で友だちをジャングルジムから突き落としたと言われ、やってないと言う息子を信じ切れないのだが、息子に対しては信じている振りをする。怪我をした子どもの親の圧がすごい(^_^;。朝斗は「僕がやったって言った方がよかった?」と母にたずねるまでになってしまう。たずねられてどう応えたかまでは描かれてないが、結局、相手の子どもの嘘だったとわかり、それを聴いたときの佐都子の驚きの表情がホラー(笑)。朝斗にたずねられたとき、「本当のことを言えばいいんだよ。嘘はいけないんだよ。」くらいの応えはしていたんだろう。対応としては「セーフ」、信じ切れなかったことに冷や汗だったろう。

二度目は「子どもを返してください」とやってきたひかりを夫とともに「あなたは、あの人(母親)じゃない」と言って追い返してしまった後のこと。広島でひかりから預かった子ども宛の手紙を読み返して「なかったことにしないで」(←特別養子縁組についての作り手の作意を感じる。)という言葉を発見する。そこでハッ(ひやり)とする。ひかりは妊娠中にちゃんと親になっていたのだなぁ。警察がひかりを探していると知って窮状を察し、ひかりを見つけてセーフ(ToT)。朝斗にも広島のお母さんと紹介して、まことに「朝が来る」であった。
(2020/10/26 TOHOシネマズ高知3)