へルタースケルター

日本人の心は荒廃していると思う今日この頃。もちろん私の心も例外でなく、数年前、「別に」発言でエリカ様をバッシングした人たちをバッシングし返したい思いに駆られていたのであった。←ちょっとウソ。最も美しい二十代の数年を仕事を干され、『パッチギ』『手紙』を残して私たちの目の前から消えてしまうとは映画界の損失。←本心。楽しみが奪われた嘆きで私は憔悴しきっていたのであった。←大嘘。
そんなわけでエリカ様の復帰作とあれば見逃すわけにはいかないのに、ちょっと見た限りのネットではさんざんな評価で、さほどの根性がない私はさっそくひるんだが、幸いヤマちゃんが「おもしろかった」と言うので辛くも初志貫徹できたのであった。←本当。

そして、美しさを売り物にするのは大変だな~と一種のむなしさを感じて感動しかかった。そう、ここで終われば私は感動したまま映画館を後にしたはず。ところが、りりこの写真集が復刊されて、美しさがまだ売り物になっている!(へぇ~、「目グサッ」効果があったんや~。)りりこ死しても商品は死なず。そうか、商品としての美の消費期限というのは、美しくなりたい女性がいるかぎり需要が途切れることがなく、もしかしたら永遠なのかもしれない。う~む、そういう映画だったのか、へぇ~、ほぉ~と感心しかかった。そう、ここで終われば私は感心したまま映画館を後にしたはず。ところが、「りりこ目グサッ」「写真集復刊」の後も延々と続いて、りりこ生きてるやん!(驚愕)
う~ん、そこまで描くのであれば、香港のりりこは目を覆うばかりの醜い姿になっており、「外見の美しさが滅んでも、どっこい生きている、生きられる」だった方が力強い作品になったような気がする。無残な姿になりながらも生きているりりこの強さ儚さを表現できていたら、天然美女がなんぼのものやねんという、なかなかの作品になったのでは(?)。(それだけの作品に仕上がったとしても大森南明は浮いていると思うけど。桃井かおりはすごい!拍手。もちろん、エリカ様には大拍手。これからもたくさん映画に出てね。)

りりこ(沢尻エリカ)/麻田誠(大森南朋)/羽田美知子(寺島しのぶ)/吉川こずえ(水原希子)/錦ちゃん(新井浩文)/ママ(桃井かおり)

監督:蜷川実花
(2012/07/19 TOHOシネマズ高知9)

彼女と彼

直子(左幸子)が素晴らしい。英一(岡田英次)の可愛く色っぽく溌剌とした妻というだけでなしに、子どもたちのケンカをやめさせようとしたり、田舎から出てきたクリーニング店の若者にも、夫の大学時代の友人で現在は廃品回収をしている伊古奈(山下菊二)や、伊古奈が面倒をみている目の不自由な少女花子(長谷川まりこ)にも分け隔てなく親切で優しい。だけど、見知らぬ人にまで世話を焼くわけでなく、花子と出会ったときは近寄らず、気づかれないようにそっと離れていったくらいだった。伊古奈が面倒を見ている少女とわかったから、伊古奈が留守中、病気の花子を自宅に連れてきて看病したのだった。

上映の後の武藤教授の講演で、当時にあっても直子は浮いた存在だという話があって、この映画がよく理解できた。高度成長期に経済的に発展していく一方、貧しいまま取り残された人たちもいたわけが、それだけでなく人とのつながりも薄れていって、直子のように積極的に他人と関わっていく人が少なくなったというのだ。今を生きる私の目からすると、直子が変わり者(異分子)として、いつ団地の主婦連につまはじきになるか気が気でなかったわけだが、そんなに感じたということは、今現在は昭和四十年代より更に人とのつながりが薄くなっており、変わり者を排斥する狭量な社会になってしまったかもしれない。
私もこの年になって「困ったときは、お互いさま」というつながりが大切だとわかってきたけれど、究極のものぐさ体質から「希望は仙人」なくらい人と関わることがイヤなので直子のマネはできない。ただし、「一寸先は闇。明日は我が身」と思っているから、病気の花子を自宅に連れてきたことを「関係ないだろ、そこまですることない」と言う英一のようにはなりたくない。武藤教授の話で妙に自分の立ち位置を自覚させられた(笑)。

それにしても当時の子どもは元気だったんだなぁ。本来子どもってこの映画に写っているくらいパワフルなものだと思う。今だって大人に比べれば疲れ知らずで元気なんだろうけど、この映画の子どもには圧倒された。

監督:羽仁進
(小夏の映画会 2012/07/16 龍馬の生まれたまち記念館)

メランコリア

予告編、素晴らしかった。本編は、予告編で使われたところや、バーン・ジョーンズだっけミレイのオフィーリアとか、ブリューゲルの冬の狩人だっけ、なんかそんな感じの映像で、音楽も何やらクラシックの聞いたことあるような曲で、そういうところは面白く観た(とにかくスローモーションのところ)。思えば『奇跡の海』の「スローモーション+ボウイその他の音楽」にもうなったけど、『アンチクライスト』といい『メランコリア』といい最近のスローモーションの映像には凄みがある。

感動させられなかったことは残念だが、私がこの映画にシンクロしなかったことは良いことだと思う。健康でよかった。核ボタンの入ったケースを持ち歩いていた頃に観ていたら、もしかしたら嵌ったかもしれない。
地球滅亡の前の人類滅亡。まあ、そのうちあると思うけれど、ずーーーーーっと先のことだと思う。

ジャスティン(キルステン・ダンスト)/クレア(シャルロット・ゲンズブール)/ジョン(キーファー・サザーランド)/両親(シャーロット・ランプリング、ジョン・ハート)/ステラン・スカルスガルド/ウド・キア

MELANCHOLIA
監督:ラース・フォン・トリアー
(2012/07/14 あたご劇場)

別離

ちょー面白かった!!!
夫婦の問題に始まって、イランの貧富の格差問題、宗教、裁判とフックがたくさんあった。また、日常がこれほどサスペンスに満ちているとは!!!というくらいハラハラドキドキの連続(あああ!おじいちゃんの酸素ボンベを子どもがいたずらしている~~。あああ!こんな交通量が多いところを認知症のおじいちゃんがウロウロしてぇ~!他もろもろ)。とにかく密度が高い。映像もきれい。美男美女多し。

西川美和監督が夫婦の不思議を描くべく、阿部サダヲと松たか子で撮影中だとか。西に別れそうで別れない夫婦があれば、東におしどりと呼ばれながら別れる夫婦あり。そういう不思議を作品にしてみようと思ったらしい(不確実)。
『別離』も夫婦の不思議たっぷりだ。妻シミン(レイラ・ハタミ)と夫ナデル(ペイマン・モアディ)は、お互い愛情はありそうなのに、傍から見ればささいなことで別居生活、離婚の危機となっている。シミンは娘テルメー(サリナ・ファルハディ)の教育のため移住したいと言いながら、娘にたいしてはあっと驚く冷たさで私は焦った(笑)。本当は夫の父の介護がイヤだったんじゃ???だから、夫が父をおいて国外へ移住など出来ないと言えば言うほど、本当の気持ちを言えなくなったのかしら?ただし、ナデルが自分の言うとおり示談に応じれば別れないとも言っていた。とすると、ナデルはシミンの言うことを全く聴いたことがなく、なんでも思いどおりにしてきたのかもしれない。移住の話はナデルも一旦は応じていたらしいので、初めて話し合って事が進んだつもりだったのに、やっとこさ移住の許可が下りたと思ったら移住しないと言い出す。またしても夫の思いどおりになるのか!夫がまるで言うことを聴いてくれないという妻の嘆きは割と聞こえる話である。いっぺんくらい私の言うとおりにしてくれてもいいではないか。中産階級でインテリで自我が確立されているシミンにしてみれば、積もり積もった思いがあったのだろう。

もう一組の夫婦、ナデルにヘルパーとして雇われたラジエー(サレー・バヤト)とその夫、失業中のホッジャト(シャハブ・ホセイニ)について感じたことは、貧しさは誇りをむきだしにするということだった。ラジエーはナデルから泥棒の疑いを持たれて抗弁する。信仰心が篤すぎて自分では何も考えない(宗教はアヘンだという言葉を彷彿させられる)ような人だから、抗弁とはほど遠いところにいるはずなんだけど、盗むなという教えに背いたと思われるのは堪らないのだ。夫のホッジャトも妻子に暴力を振るっているのではと疑われて激憤し、そんな疑いを口にしたギャーライ先生(メリッラ・ザレイ)のところへ乗り込む。貧しさは人を卑屈にさせることがあるし、言いたいことを言えず堪え忍ばなければならないことも多い。だから、私はラジエーとホッジャトの炸裂場面に胸が痛んだ。

この映画には裁判所の場面が何度もある。離婚の調停も傷害事件も判事一人に当事者、必要に応じて証人といった簡易な感じだった。検事と弁護人がいるような公訴事件の裁判はまた別にあるのだろうが、この映画で描かれたイランの裁判模様がすごく面白かった。また、当事者は言いたい放題言っていいるけど、必ずしも本当のことを言うわけではなく、自分に都合のよい方へ決着を付けたいのが人情だということも描かれていた。
ラストシーンは、シミンとナデルの二人が目も合わせず押し黙って相対している。二人は離婚が認められ、娘のテルメーが両親のどちらを選ぶか判事に告げるのを待っているのだ。私はテルメーがどちらを選ぶのかは重要でない気がした(どちらを選ぶか全くわからなかったので)。テルメーの気持ちを作品中では伏せたことにより、裁判によって白黒は付いても明らかにならなかった夫婦の問題(いったい離婚の原因はなんだったんだという問題)がクローズアップされたような気がした。

JODAEIYE NADER AZ SIMIN
NADER AND SIMIN, A SEPARATION
監督:アスガー・ファルハディ
(こうちコミュニティシネマ 2012/07/11 高知県立美術館ホール)