マイケル・クラークって聞いたことあると思ったら、『グリーンマイル』のマイケル・クラーク・ダンカンの方だった。ダンサーで振付師のこの人は、今回初めて知った。
「come、been and gone」は、三つのパートからなるダンスで、休憩を挟んで「gone」、「been」、「come」の順に上演された。アフタートークによると過去の作品を改訂したものもあるとのことだった。
チラシにはパンク・バレエと書かれていたので覚悟して行ったが、いたってクラシックで驚いた。衣装や照明は飛んでいるかもしれないが、動きはクラシックの美しさが横溢している。しかも、ゆるやかなテンポで動くので動体視力の弱い私向き。ゆっくりとした踊りは、連続写真をながめているようだ。ダンスでは、ビデオ風に脳裏に活写できる記憶もあれば、瞬間的な美しさを写真風に目に焼き付けた記憶もあるのだけれど、マイケル・クラーク・カンパニーのダンスは、写真と活動大写真の中間とでもいおうか。美しいポーズの連続である。(跳躍は少なくて、寝転がる動きが多い。これを至ってクラシックと言う私は変かも。)
一番よかったのは、「gone」だ。背景のスクリーンには、いきなり「THE END」と映されたり(笑)。こういう音楽は何というのだろう。工場の機械のような音とリズムで、踊りと合っている。二人が絡み合って一体となると別の生き物のようで面白かったり。無機質っぽい音楽も最後の方には、テンポが速くなり音も段々大きくなり、踊りもフィナーレという感じで盛りあがっていって、本当に仕事の疲れも吹っ飛び、気分も高揚した。
「beeb」は、スクリーンに映し出されるものが、公序良俗に反するものらしく(笑)、サブリミナル映像のような素早さで切り替わっていった。ミラーボールに当たった光が舞台に水玉模様を作って、衣装も水玉になった。裸の乳首にスパンコールを付けているのだろう、ときおり乳首光線が飛んできて可笑しかった。
「come」は、いよいよデヴィッド・ボウイの登場だ。と言ってもスクリーンに登場するのは「Heroes」のときだけであとは歌のみ。ところが、これが裏目に出た。「Heroes」のビデオなんて見飽きるほど観ているはずなのに、ボウイが登場すると釘付け。踊りを観なければと思っても、すぐスクリーンに目が行ってしまう。その後、ボウイの姿が消えても、踊りは歌唱パワーに負けっ放し。ボウイの歌ってこんなに力強かったのかとマジで驚いた。もっと激しく熱を持って踊らなければ!機械的な踊りに見えてしまうぅっ。・・・・と音楽最高潮、ダンス冷え冷えの妙な空気に眉間にしわが寄りかけた頃、終了。「え?これで終わり?」という私のはてなマークをよそに拍手の嵐。指笛口笛ピーヒャララ。・・・・わたくし、呆然。
振付はリフトなどほとんどないし、男性がバニーガールのように見えるレオタードを着たり、女性がゴルゴサーティーンのように見えるカツラをかぶったりするとき以外は、性差は関係なさそうだった。また、物語性もあまりないので、肌の色も関係なさそうだった。ただ、どのダンサーもスタイルが抜群によいので、近年体形がよくなったとはいえ日本人ダンサーは採用されるかなぁと思っていたら、アフタートークで英国までオーディションに来るのは大変だろうから、明日の公演前の練習時間に来たら踊りを見せてもらうよというような話だった。
振付家はダンサーに触発されることもあるから、いろんなダンサーを採用するのはよいことだと思うなぁ。
というわけで、また観る機会があるなら、ぜひ、観たい。
ダンサー:ケイト・コイン、ハリー・アレキサンダー、フィオナ・ジョッブ、シモン・ウイリアムズ、オクサナ・パンチェンコ、ベンジャミン・ワルビス
☆gone(SWAMP)
作曲:ブルース・ギルバート、ワイヤー
音楽:Feeling Called Love ワイヤー/Do You Me? I Did ブルース・ギルバート
衣装:ボディーマップ
照明デザイナー:チャールズ・アトラス
come,been and gone
作曲:デヴィッド・ボウイ、ブライアン・イーノ、ルー・リード
衣装:スティービー・スチュワート、マイケル・クラーク
照明デザイナー:チャールズ・アトラス
☆been
音楽:Venus in Furs,White Light/White Heat,Heroin,Ocean ザ・ヴェルヴェット・アンダーグラウンド
☆come
音楽:Mass Production イギー・ポップ/Sense of Doubt,”Heroes”,After All,Future Legend,Chat of the Ever Circling Skeletal Family,Aladdin Sane,The Jean Genie デヴィッド・ボウイ
(2012/05/17 高知県立美術館ホール)