セイジ 陸の魚

伊勢谷友介さんは俳優より監督の方が私はイケテルと思う。いい風景を切り取っているし、雰囲気の作り方がうまい。バーの賑やかさ、トンネルの音が響きそうな静けさなどなど、状況に応じて見せ方(編集)を工夫していると思う。ただ、バー、セイジ(西島秀俊)、ショウコ(裕木奈江)の部屋の美術が、どれもある種の美しさがあるのは改善の余地ありかな。『善き人のためのソナタ』で人物によって部屋の雰囲気をがらりと変えているのがいいお手本だと言うと、私の思っていることが伝わるかしらん。カズオ(新井浩文)の片思いの彼女がいる店とか、りっちゃんの和風のお家とかは、いいと思ったので、セイジとショウコの部屋の雰囲気に似たようなところがあるのは、何か意図があるのかもしれないけれど。

セイジがとった最後の行動は、何かしてあげたいけど何もしてやれないということの表明だと思った。義憤を感じて書いたり言ったりする口先だけの私と比べてどうなのか、・・・・・(・_・)。しばし考えた。
(カズオ、すっきー(^o^)。)

旅人(森山未來)

監督:伊勢谷友介
(とさりゅう・ピクチャーズ 2012/08/23 自由民権記念館)

ダークナイト・ライジング

前二作ともあまり好きでなく、ゴードン(ゲイリー・オールドマン)以外は(ジョーカー(ヒース・レジャー)でさえも)ほとんど忘れ、まるで観る気が起こらなかった本作だったけれど(冒頭のハイジャックシーンのバイオレンスぶりにやっぱりよせばよかったと思ったことを除けば)、すごく面白かった!

私にとっての前半のハイライトは、涙をためたアルフレッドの青い瞳だ。マイケル・ケイン渾身の演技に引き込まれ、思わずもらい泣き(笑)。
そんなアルフレッドの制止もむなしく、ブルース・ウェイン(クリスチャン・ベイル)がバットマンとなってゴッサムシティに再登場したとき、フォーリー市警副本部長(マシュー・モディン)の勘違いは甚だしく、バットマンを追いかけだしたときは「わ~、ばかばかばか」とかつての青春スタアをバカ呼ばわり(笑)。
それに、バットマンが乗っていたバイクみたいな乗り物が、突然、タイヤの回転軸を換えて方向転換したのには、「さすが、マンガやーーー!!!」と大受けだった(笑)。

中盤で面白かったのは、やはりベイン(トム・ハーディ)だ。目的がさっぱりわからなかったので、破壊のための破壊に見えて、これぞ究極の悪といった感じだった。「ウォール街を占拠せよ」と比較するのもおぞましい証券取引所の乗っ取り、スーパーボウルの競技場爆破。楽しいから壊すというわけでもない。世間への恨みを晴らすといったふうでもない。そして、破壊の先には何もない。やっていることは派手なのに、この虚しさといったらなかった。(娯楽映画のはずなのに、まじめくさっているったらなかった(笑)。)

終盤、ミランダ・テイト(マリオン・コティヤール)の正体がわかり(子役の容姿は重要だと改めて思った)、ベインの破壊の動機もわかり(虚しさが吹き飛び微笑ましくなった)、ブレイク(ジョセフ・ゴードン=レヴィット)の本名もわかり(なんかピッタリ~(^o^))、セリーナ・カイル(アン・ハサウェイ)の末路に灯がともり、娯楽映画としてとても気持ちのよい幕切れで満足した。
ただし、鉄腕アトムみたいなバットマン決死の運搬は、もっともっと遠くでないとゴッサム市民はのちのち苦しむことになるのではないだろうか。

THE DARK KNIGHT RISES
監督:クリストファー・ノーラン
(2012/08/20 TOHOシネマズ高知1 吹替版)

プロメテウス

むむむ、さすがリドリー・スコット監督だ。映像が何から何まですごい。冒頭のハイランドだか、イグアスの滝だかよくわからないが、スケールの大きい景色につかみはオッケー。(宇宙人ぽい人が何かよくわからないものを飲んでDNAから崩壊していく場面では、あることを連想してぞっとした。)
ところが、宇宙船プロメテウスが問題の星に到着したあたりから話が怪しくなる。そもそも時代も場所も異なる壁画に描かれた同じ星図を発見しただけで、その星に行けば人類の起源の謎が解けるという推論がどうして成り立つのかわからなかった。でもまあ、気にせず観ていたわけだが、話が進むにつれて筋がとおらなくなっていく。映画が終わっても冒頭の宇宙人がDNAから崩壊していったのは、なぜなのかわからない。なかなかにぶっ壊れた作品だ。しかも、登場人物があまり魅力的でない。人類滅んでよし(^_^;。
感心するのは、話は壊れ、人物にも同調できないのに、まったく退屈しなかったということだ。それだけ映像にパワーがあるのだろう。
ショパンの音楽が使われていて、宇宙にクラッシックは『2001年宇宙の旅』っぽいな~と(笑)。ローレンスの登場は嬉しかった。

エリザベス・ショウ(ノオミ・ラパス)/デヴィッド(マイケル・ファスベンダー)/メレディス・ヴィッカーズ(シャーリーズ・セロン)/チャーリー・ホロウェイ(ローガン・マーシャル=グリーン)

PROMETHEUS
監督:リドリー・スコット
(2012/08/25 TOHOシネマズ高知5 2D鑑賞)

ピナ・バウシュ 夢の教室

私はへそ曲がりなのだろうか。ほぼ1年の訓練で若者が踊りを完成させていく過程にはあまり感動しなかった。確かにおしまいの方が踊りは上手くなっている。最初から上手な人もいて、その人といっしょに踊っていた人の不足が目立ったりしていたが、最後には遜色ないか上手な人を上回るくらい魅力的な踊りになっていて驚いた。若者たちが本心を語ってくれる場面があったし、本番が迫っているのにまだまだ不十分な点があり大丈夫かいねと思わされる場面もあった。最後はスタンディングオベイションのなか、ピナ・バウシュが出演者に一輪ずつバラを渡していく達成感~な場面なのだが、それもこれも淡々と描かれているので淡々と観てしまう。
そんなわけで私が素晴らしいと思ったのは、コンタクトホーフというダンスと、それを創造したピナ・バウシュだった。

コンタクトホーフには喜怒哀楽がつまっている。個人と個人、あるいは個人と集団、はたまた集団と集団の関係性が描かれている。プロのダンサーの洗練された踊りは見応えがあるだろうとは思うけれど、洗練された動きよりも感情を開放して演じることの方がより大切な作品のような気がする。だから、老人が演じても若者が演じても、それぞれの世代のコンタクトホーフが出来上がり、観客は感動することができるのだろう。
そんなわけで、若者たちのコンタクトホーフを「とおし」で見せてもらえなかったのが残念だった。

TANZTRAUME
監督:アン・リンセル
(こうちコミュニティシネマ 2012/08/22 高知県立美術館ホール)

[追記]
2003年の高知公演の感想です。読み返すと、なかなかよう書けてます。よかったらどうぞ。
 ↓
ピナ・バウシュとヴッパタール舞踊団