ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語

小学校のとき読んだきり。やっぱり一番人気はジョーだよね。大好きだった。で、ローリーももちろん好きで、二人がくっつけばいいのにと思っていた。ベスの猩紅熱や父の不在は覚えていたけれど、あとは綺麗さっぱり忘れていた。

映画のジョー(シアーシャ・ローナン)が、自作を批判されて色を成すところや、小説家を諦めローリー(ティモシー・シャラメ)の嫁になるか~と考え始めたところでは、こんなに弱い人だったんだと意外に思った。でも、それは無理もないと映画の中でちゃんと描かれていた。女性の職業といえば家庭教師か女優か娼婦、そうでなければ誰かの嫁にならないと生きていけない(小説家なんて無理)という風に。

もう一つ意外だったのは、エイミー(フローレンス・ピュー)。原作を忘れているのに何故かちゃっかり屋のイメージがあったのだが、めっちゃ良いキャラクターやん。確かに、伯母(メリル・ストリープ)にヨーロッパに連れて行ってもらったり、ローリーと結婚したり、結果だけ見るとちゃっかりイイとこ取りに見えるけれど、ヨーロッパ旅行は婿捜し(一家を養える経済力のある人から求婚されるよう使命を帯びているので責任重大)だし、ジョーに振られて腐っているローリーに対する片思いも実にいじらしく健気だ。結婚して、早くもローリーを尻に敷きそうなところも(低い声も)サイコー(^o^)。

女性にとって結婚は経済問題とセリフでもあったとおり、お金のこともしっかり描写。長女メグ(エマ・ワトソン)の夫は財力がないためコートを新調することも出来ない。妻のドレスなんて贅沢中の贅沢。でも、メグと夫を見ていると愛情があるだけで幸せだと言える。このエピソードの陰に愛も財もない不幸な結婚があり、それでもしないよりはマシなものという当時の認識がうかがえる。

ベス(エリザ・スカンレン)のお陰でジョーは「書く」ことに戻れた。それで自叙伝ともいえる物語を出版社に持ち込んだわけだが、編集長の言うとおり物語としては、やっぱりジョーとフレデリック(ルイ・ガレル)が結ばれる方が読者も観客も嬉しい(売れる)。それに今もって結婚が経済問題であるところの(多くの?)女性に夢と希望を与えるかも。能力を発揮し、職を得て経済的に自立し、愛情も得る。ジョーを目指せ(^o^)。
ジョーが伯母の遺産で男女共学の学校を開く結末は、現実の未来を少し明るくしてくれた。

クリス・クーパーが、ミスター・ローレンス(ローリーの祖父)役で出ていた~(^_^)。ローラ・ダーン(姉妹の母)、なぜか好き~。
ヨーロッパ帰りのローリーもビックリ、アメリカンな姉妹。とにかくアメリカを感じる一作。
(2020/06/17 TOHOシネマズ高知7)

デッド・ドント・ダイ

ジム・ジャームッシュがゾンビ映画!?『ワールド・ウォーZ』や『新感染 ファイナル・エクスプレス』を観たときだったか、ジョージ・A・ロメロ作品のゾンビはあんなに速く動かないという批判(?)を目にしたことがあったので、ジャームッシュ作品ならきっと由緒正しい速度だろうと思った。ロメロの作品は観たことがなくて、そんな私が見てもどうかなぁと思いつつ行けば・・・、面白かった~!作り手が楽しんで作っているのが伝わってきた。イギー・ポップのゾンビが似合いすぎ(笑)。ティルダ・スウィントンも○○が似合いすぎ(笑)。ロメロ作品を知っている人は、更に楽しめるんだろうなあ。

ゆるいテンポとオフビートなユーモア健在で、いつもどおり詩情がある。何かの工事で地軸が変わったため死者が蘇るという設定に、地球環境を破壊するような現代文明を批判しているように思えた。また、生前に執着していたものを断ち切れないゾンビたちが描かれていて、そこが人間らしいところだと思えてきた。肉を食らうゾンビは、ひじょーに恐ろしいが(オエッ)、執着していたことをつぶやきながら、さ迷う彼らには親近感がわく。さしずめ私なら「館(映画、美術、博物、図書)ゾンビ」だろうか。
はじめは消費文明を批判しているのかと思って観ていたが、ミンディ(クロエ・セヴィニー)の祖母だったゾンビが「ミンディ、ミンディ」とつぶやいていたので、文明批判だけではなく執着批判かと思い改め、更には批判ではなく親近感だと思うに至った。

ロニー(アダム・ドライヴァー)が署長(ビル・マーレイ)に、よくない結末が待っていることを再三口にする。これは観客に対する「驚かないでね」という心遣いだろうか。でも、地上で生き残った者も4人はいるので、希望はある。続編も可能だ(^o^)。

(2020/06/11 TOHOシネマズ高知9)

ヴァーサス/ケン・ローチ映画と人生

予告編のケン・ローチの顔の感じがよかった(よい人そうに見えた)ので、敬愛する監督だし、まあ、観てみた。
BBC時代から『わたしは、ダニエル・ブレイク』までの公私を、作品の映像や関係者(本人を含む)のインタビューを交えて描くのに、かなりの頻度でダニエル・ブレイクの撮影風景が差し挟まれる。何だかわかりにくい構成。でもまあ、ケン・ローチ監督の人となりや趣味や、BBCの後の不遇時代に心ならずもCMを撮っていたこともわかった。若い頃、保守党に投票したことがあることを「ワタクシとしたことが!」という雰囲気で悔しそうに話すのが可笑しかった。交通事故で子どもを亡くしたと話すときの表情に『ラビット・ホール』を思い出した。
舞台の演出もやっていて(若いときは演者でもあった)、ナチスに協力したユダヤ人の話(実話に基づく)を公演会期中に批判され、及び腰の劇場支配人の判断で中止された。支配人はインタビューに応じて「わたしの過ちは二つ。一つはこの劇を上演したこと。もう一つは中止の判断をしたこと」。その後すぐケン・ローチのインタビューのカットが挟まれ、今もってその支配人に怒っている(笑)。その演劇の出演者ガブリエル・バーンがこのドキュメンタリーの白眉。「ケン・ローチの頑固さや筋を通すところは、見ていて爽快だ。・・・でも、敵には回したくない。」もう、間の取り方がうまい!話が上手やね。思わず声に出して笑ってしまった。
(2020/05/15 動画配信)

RBG 最強の85才

ルース・ベイダー・ギンズバーグ。アメリカ合衆国最高裁判所の判事9名の内の一人。85歳(当時)で現役とのことで、なぜだかポップカルチャーでも取り上げられ大人気だそうな。
上野千鶴子、田嶋陽子のような人なのか、はたまたジャンヌ・モローかジェーン・フォンダか。そういうイメージで観始めたわけではないけれど、やはり弁が立つ人だろうな~という先入観があったのだろう。その淑やかさと内気さに驚いた。また、けっして怒らない(怒りを表出させない)というのは、爪の垢をもらって煎じて飲みたいくらいのものだ。議論する言葉を持っているということだし、説得力も増すし、後味の悪い思いもしなくてすむ。母の淑女であれという教えを守り、譲るところは譲り半歩でも前に進む、ゆっくり着実な生き方が出来る心のゆとりが彼女の強みだ。

このドキュメンタリーは、RBGさんの両親から始まって学業の優秀なことや法律家となってからの功績など、一通り描かれている。色々と感じることは多かったが、うえに書いた性質というか生き方の他に書きたいのは二つのことだ。
一つは夫のマーティンさん。女性が活躍することが今よりももっと困難だった時代に彼女が活躍できたのは、本人の努力はもちろんだが夫のマーティンさんのお陰でもある。彼女が月ならマーティンさんは太陽のような人であったらしい。有能な女性に対する恐怖心がないから(それは彼に自信があるから)、控えめな彼女を前へと押し出していった。彼と出会ったのは砂浜で砂金を見つけるような幸運だ。女性の頭を押さえつけたり足をひっぱたりしないだけで充分なのだが、充分以上の男性を見るのは爽快だ。
もう一つはアメリカの見える民主制度。RBGさんはリベラル派クリントン大統領の指名で最高裁判事に任命された(上院の承認が必要らしい)。任期がないので辞任か死亡で欠員ができる。合衆国最高裁の判事は、だれが保守派かリベラル派かわかっており、現在はリベラル派が少数になっているそう(トランプ大統領が次々と保守派を任命していったそうな?)。こんな風に各裁判官の立ち位置が見えるのは、アメリカのジャーナリズムが生きているからだと思う。
(2020/05/13 動画配信)