RBG 最強の85才

ルース・ベイダー・ギンズバーグ。アメリカ合衆国最高裁判所の判事9名の内の一人。85歳(当時)で現役とのことで、なぜだかポップカルチャーでも取り上げられ大人気だそうな。
上野千鶴子、田嶋陽子のような人なのか、はたまたジャンヌ・モローかジェーン・フォンダか。そういうイメージで観始めたわけではないけれど、やはり弁が立つ人だろうな~という先入観があったのだろう。その淑やかさと内気さに驚いた。また、けっして怒らない(怒りを表出させない)というのは、爪の垢をもらって煎じて飲みたいくらいのものだ。議論する言葉を持っているということだし、説得力も増すし、後味の悪い思いもしなくてすむ。母の淑女であれという教えを守り、譲るところは譲り半歩でも前に進む、ゆっくり着実な生き方が出来る心のゆとりが彼女の強みだ。

このドキュメンタリーは、RBGさんの両親から始まって学業の優秀なことや法律家となってからの功績など、一通り描かれている。色々と感じることは多かったが、うえに書いた性質というか生き方の他に書きたいのは二つのことだ。
一つは夫のマーティンさん。女性が活躍することが今よりももっと困難だった時代に彼女が活躍できたのは、本人の努力はもちろんだが夫のマーティンさんのお陰でもある。彼女が月ならマーティンさんは太陽のような人であったらしい。有能な女性に対する恐怖心がないから(それは彼に自信があるから)、控えめな彼女を前へと押し出していった。彼と出会ったのは砂浜で砂金を見つけるような幸運だ。女性の頭を押さえつけたり足をひっぱたりしないだけで充分なのだが、充分以上の男性を見るのは爽快だ。
もう一つはアメリカの見える民主制度。RBGさんはリベラル派クリントン大統領の指名で最高裁判事に任命された(上院の承認が必要らしい)。任期がないので辞任か死亡で欠員ができる。合衆国最高裁の判事は、だれが保守派かリベラル派かわかっており、現在はリベラル派が少数になっているそう(トランプ大統領が次々と保守派を任命していったそうな?)。こんな風に各裁判官の立ち位置が見えるのは、アメリカのジャーナリズムが生きているからだと思う。
(2020/05/13 動画配信)

ドボン映画ベスト1

ドボンと落ちてなかなか抜け出せない。そういう体質ではないが、若いときに観た『ディア・ハンター』などは衝撃的で次の映画を観る気になれなかった。『旅芸人の記録』は、初めて観たときは全然わからなかったのだが、惹きつけられるものがあり4回くらい観た(入場料を払ったのは2回かな)。『スター・ウォーズ ジェダイの復讐』は、ただただ楽しく、とあるシーンを観たくて(どのシーンか忘れてしまったが)何回も通った。『プリティー・イン・ピンク』は、ダッキーが歌うシーン(二つある)を観たくて通った(その際、同時上映の『トップ・ガン』はパス。後にヴァル・キルマー好きになったが、『トップ・ガン』ではノーマーク(^_^;)。名画座で上映されるたびに観たのは『タクシードライバー』『スケアクロウ』『エデンの東』『冒険者たち』。一度しか観ていないが、記憶だけで全シーン(のつもり)を順番に書き留めておくことが出来た『暗殺のオペラ』。原作まで手を伸ばしたのは、『戦慄の絆』『ある貴婦人の肖像』(そこからヘンリー・ジェイムズにドボン。)『ロード・オブ・ザ・リング 旅の仲間』『華麗なるギャツビー(ディカプリオ版)』など。サントラ、DVDまで買ったのも色々あるなぁ。総じて浅い沼にしか落ちていない。

比較的深い沼に嵌まったのがこれ。『大いなる遺産(1998)』だ。


監督のアルフォンソ・キュアロンは緑色が好きとのことで、初期の作品はよく緑を使っていたみたい。『大いなる遺産』ものっけから緑が印象的ですぐに引き込まれた。とにかく映像が美しい!音楽もジャンルはバラバラなのに不思議と統一感がある。イーサン・ホークとグィネス・パルトローはどちらも好きな俳優だし、ロバート・デ・ニーロにアン・バンクロフトも出演!イーサン・ホーク演じる主人公フィンが描いた絵として出てくるフランチェスコ・クレメンテによる作品群もイイ!(パンフレットによると、クレメンテさんは『グッド・ウィル・ハンティング』で主人公ウィルの催眠療法士に扮していたそうだ。)お話は原作がディケンズだからして悪いはずがないと言いたいところだが、当時ニフティの映画フォーラムでは中身がないスカスカの脚本と叩かれていた。しかし、この映画が大好きになっていた私は4回は観たし、CDもスコアとコンピレーションの両方を買って聴いていたし、原作も読んだ。もちろん、同監督の『天国の口、終わりの楽園』『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』も追いかけた。ハリー・ポッターの二作目をキュアロンが監督しなかったら一作目で観るのを止めており、皆勤も果たせなかったと思う。未見の『リトル・プリンセス』、見たいな~。『ローマ』も。

そうそう、若作りは返って老けて見えることを教えてくれたのもこの映画だ。子ども時代(子役が演じる)から二十代の長きに渡る話で、成人前の十代を演じたイーサン・ホークはグィネス・パルトローよりマシだったが、グィネスは若作りの服が致命的に似合ってなかった。似合っていれば大人びた十代で行けたかもしれないのに。似合う服を身につけるって大切なんだと思った。
そういえば、クリス・クーパーをこの映画で好きになって、その後『アメリカン・ビューティー』を始め、よく見かけていたが、最近、どうしているんだろう。ラストシーン、海辺の家にフィンが帰ってきたのを(気まずい別れをしたのに)、よう来た、早う入れという感じでおしりをポンとたたくおじさん。よい役だった。


こんなのまで書いていた。→『大いなる遺産』場面再録

パラサイト 半地下の家族

起承転結、高低差を表す階段など、型にはまった安定感。ユーモアも大。

高いところに住んでいる金持ち一家。
低いところに住んでいる貧乏一家。

起:長男がお金持ちの家に家庭教師として潜り込むことに成功。
承:長女、両親も同家に潜り込むことに成功。
転:金持ち一家が外泊中、貧乏一家がパーティーピーポー化しているところへ、策略で辞めさせられた元家政婦がやって来る。嵐~。
結:金持ち一家の長男の誕生会で思いもよらない(ポン・ジュノ監督作品としては当然のような)ウルトラC級の山場と、ピタリと決まった着地。

ラストショットは蛇足に思えるし(長男が金持ちになって父を地下から救い出すシーンは、下克上が困難な世の中を見ていれば幻想だと想像がつくので、幻想だと観客に知らせるシーンは無用だと思う)、あの石が象徴するものは何なのか私にはわからなかったけれど、やっぱり面白かった。

特筆すべきは「臭い」。いじめや差別などで(そこまでいかずとも他人を傷つける場面において)、加害者側は加害を認識していないことがよくあるようだ。例えるなら、気づかずに他人の足を踏んでいる状態。しかし、踏まれた方は、痛いし、その足をどけてほしいと思い続けているし、思っていることを口に出来る力関係だとまだマシなのだけれど、我慢し続けると「足を踏むのを止めてもらえますか。」と丁寧に言うのが難しくなる。我慢のあげく出た言葉が「どけろよ、バカ」であっても私は構わないと思うので、フィクションであれば、「なんか臭う」と言う言葉に傷つけられてきた貧乏一家の父(ソン・ガンホ)が、遂に雇い主を刺すのもありかなぁとは思うが・・・、さすがに痛かった。貧乏父さんの傷が益々深く感じられて。金持ち父さんはそれほど可哀想じゃないなぁ。その子どもは可哀想だったけど。金持ち父さんは「臭い」によって傷つく人がいるとは思いもよらなかったのだろうけど、無知は罪深い。近年、その思いが強くなるばかりだ。

最高のカット。地下室から首が~。ぎょろ目が光る~。怖可笑しい~。金持ち坊ちゃん、そらトラウマになるわ~。
(2020/02/01 TOHOシネマズ高知8)

ジョジョ・ラビット

『ジョジョ・ラビット』のパンフレットの画像
メルヘンチックな快作。感動した。
色彩設計や、ビートルズからデヴィッド・ボウイまでの音楽もよかったし(ボウイもジョジョやエルサみたいに踊っていた)、リルケのシメ「総てを経験せよ、絶望が最後ではないのだから」もよかった。『サウンド・オブ・ミュージック』でのシメは、尼僧長が歌う「すべての山へ登れ」だった。ジョジョ(両親はいないしベルリンの壁が出来るわけだから)もトラップ大佐一家もまだまだ苦難はあるだろうけど、どちらも前向きになれるシメだ。(リルケと言えば、『天使にラブソングを2』でも引用されていた。「君が作家になれるかって?そんなこと聴くなよ。君が書かずにいられず書き続けたなら、既に作家だ。」)

ドイツ映画だと思って観始めたものだから、ドイツもヒトラーをこんな風に表現できるようになったのかと驚いた。『ヒトラー 最期の12日間』はともかく、『帰ってきたヒトラー』といいドイツはヒトラーのトラウマから解放されたと思った。でも、スカーレット・ヨハンソンやサム・ロックウェルを見かけたら、それはもうアメリカ映画(笑)。ようやくドイツ語じゃないわけだと納得した。鑑賞後わかったのは、制作(資本)はドイツとアメリカで、監督はニュージーランド出身とのこと。ジョジョ役のローマン・グリフィン・デイヴィスはロンドン生まれ、エルサ役のトーマシン・マッケンジーはニュージーランド出身、私の頭は化石。

社会的な影響は、子どもにとって絶大なはずの親の影響を凌駕する。(母はジョジョをヒトラー礼賛するような子に育てた覚えはないぞ。)
社会的な影響も個人が体得したものには勝てない。(まさか自分ジョジョが、ユダヤ人エルサに恋をするとは。)
個を磨き世界平和を実現するには本当に色んなものに触れることが大切なんだなぁ。(それでリルケか。)
音楽のことを知りたくてパンフを買って満足。(売り場に並んでいた人全員が、ジョジョのパンフ買いだった!)
ヨーキー(アーチー・イェーツ)、かっわいい(^o^)。
(2020/01/19 TOHOシネマズ高知1)