菊之助 御園座二月

弁天小僧菊之助を通しで観れる。昼夜出ずっぱりで、色悪、直侍に初挑戦。なんかチケット、余っているっぽい。というわけで、初日から1週間経った頃に観に行った。

いや~、行って良かった!登場しただけで色っぽい~。いい匂いがしそう~。綺麗で可愛くて格好よく、凛として透きとおった佇まい。見た目の美しさもあるけれど、それは、あの張りと艶のある声によるところろが大きいかもしれない。その声で河竹黙阿弥の七五調のセリフを「ビシ!」「ぱーん!」と決めてくれると気ン持ちいーことこの上なし。稲瀬川勢揃いの場での大見得、スカッとした。
白波五人男は通しで観ると、弁天小僧七変化だった。御家再興のため雌伏中の若侍に化けて千手姫(尾上右近)をたぶらかしたり、娘に化けて呉服屋で騙ったり、弁天小僧としても実父に巡り会ったり、大立ち回りの末立ったまま切腹したり。菊之助びいきとしては大満足だ。話は行き当たりばったりでも役者の魅力で十分楽しめる。
これまで稲瀬川勢揃いで捕り手を前に五人の白波が自己紹介してくれても、弁天小僧、南郷力丸以外は「?」という感じだったが、通しで観ると日本駄右衛門、赤星十三郎、忠信利平と自己紹介の中身もよくわかった(今は忘れた)。こうして一度通しで観ておくと、今後、切り取り上演でも楽しめそうだ。

初役の直侍は、客席から「カッコイイ!」と声がかかった。私の代わりに言ってくれたの?菊ちゃんは女形だけではないのだ。数年前、児雷也をやったとき、あやうく後援会に入りかけたくらい立ち役はカッコイイのだ。
侍くずれの小悪党直次郎は追われる身だが、愛する三千歳(時藏)に再会して、いっしょに逃げようかというときに捕り手がやってきて、三千歳を残し、後ろ髪を引かれる思いで逃げていく。この幕切れは胸がキュッとなるくらい切なかった。今回の御園座公演で一番感動した。
田之助さんの按摩丈賀も、このうえない人のよさで、大いに楽しませてくれた。

渡海屋と大物浦は、船問屋の女房が実は安徳天皇の乳母という役どころ。昨年、盟三五大切で、芸者に化けた世話女房という役どころを上手く演じていたので、大丈夫だろうと思っていたけれど、本人が難しいと言うだけあって、伸び代は大きいと思う。

若手が中心となった公演で、阪東亀三郎、亀寿兄弟は手堅く、中村梅枝、萬太郎兄弟は瑞々しく、尾上右近ちゃんはお顔がシャープになったわね~という感じで、皆の先が楽しみだ。

 

<昼の部 2012/02/11>
一 義経千本桜
渡海屋
大物浦
二 女伊達
三 雪暮夜入谷畦道き
直侍

<夜の部 2012/02/10>
一 青砥稿花紅彩画 白波五人男
序幕  初瀬寺花見の場
神輿ヶ嶽の場
稲瀬川谷間の場
二幕目 雪の下浜松屋の場
同蔵前の場
稲瀬川勢揃いの場
大詰  極楽寺屋根立腹の場
同山門の場
滑川土橋の場

盟三五大切 かみかけてさんごたいせつ

芸者小万、実はお六を演じた菊之助が素晴らしい!夫の三五郎、実は千太郎(中村勘太郎)と組んで、源五兵衛、実は数右衛門(中村橋之助)から百両をだまし取る。源五兵衛が惚れるのも無理はない美しさ色っぽさ。あでやかにその場を仕切って、すりゃ、皆小万の思いどおりになるわいな。「小万は俺に惚れている」と思わせられては、男としてはのぼせるしかないだろう。悪女と言えば悪女だが、それは故あってのこと。欺されたと知った源五兵衛の復讐を恐れたり、三五郎の女房としてのしっかり者風情などは芸者のときとはガラリと違うが、同一人物の異なる面を観せてもらったという感じでキャラクターに一貫性があった。
残念なのは、勘太郎と橋之助。この二人も欺す・欺されるとき、復讐する・それを逃れるときではガラリと違うのだが、キャラが立つまでには至ってなかったと思う。特に主人公とも言える源五兵衛を演じた橋之助は、仏作って魂入れずみたいな感じだった。初日だったので、今頃はもっとよくなっているかもしれない。(橋之助の子どもが源五兵衛の従者を演じていて、滑舌がよろしくないうえ棒読みっぽかったんだけど、ほんわかとした雰囲気に加え、主人には芸者にうつつを抜かさず義士に加わってほしいという一所懸命さが伝わってきて意外によかった。未完成の仏に魂入れた感じ。)
勘太郎をずっと前に観て、若いのにこなれているなぁと思ったことがあった。今回はお父さんに似てきたなぁと。注文としては、もっと助平になってほしい(笑)。だって、小万の胸をもむ場面、もまれる方はエロティックだったよぉぉぉぉ。そこで鶴屋南北はエロだと聞いていたのを思い出し、三五郎の方に不足を感じたわけだ。
演出は串田和美。
5人切りの場の緊張感には場内水を打ったよう。ギシギシと回り舞台の音だけ。斬るたびにツケの音。あまりの凄惨さに本当に胸が悪くなった。聞きしに勝る南北だ。
下座音楽はよいとして、西洋楽器(チェロかなんか?)が奏でる旋律に気が滅入り、歌舞伎の世界に合ってないと思って観ていたが、小万とその幼子をなぶり殺した後、雨の中を庵まで帰る源五兵衛の場面にこの音楽が重なると、陰々滅々が更に陰々滅々でイイ!ここは客席まで降ってくる雨といい、ある種の美しさがあり、演出のハイライトだ。(しかし、源五兵衛はどういう気持ちで殺したのか、橋之助の演技では私はハッキリとはわからなかった。義士に加わるための百両を騙し取られた恨みか、小万に心底惚れていたためか。ひと思いに殺さないこと、小万が「三五さんの顔が見たい」と言ったあと、夫にそっくりな幼子をかばいに行くのを見て子どもまで殺したことからすると、台本上は恋の恨みが勝るような気がする。この場面で、仁左衛門で観たかったと思ってしまった。)
笑えるところもたくさんあって、笹野高史も可笑しくてよかったんだけど、初めての南北は・・・・・、南北だねぇ;;;;。本当に胸が悪いわ~。しかし、おしまいは5人切りの場を再び使い、死んでいった人も生き残った人も走馬燈の中で楽しげに回っている。なにやら人生やなぁと思ったし、なにより胸のむかつきが取れて行ったのがありがたかった。
(2011/06/06 コクーン歌舞伎)
コクーン歌舞伎「盟三五大切」@シアターコクーン
ガムザッティさんの感想

NINAGAWA十二夜

朝5時起き、日帰りで大阪松竹座へ行ってきました。
菊之助目当てですけど、亀治郎、ブラボー(^o^)。
お高くとまった坊太夫(菊五郎)に一泡吹かせる腰元麻阿役なのですが、今までに見たこともないキャラクターで、酒を飲むは指をねぶるは、けっして上品とは言い難い飲み食いの仕方、洞院(左團次)とねんごろな様子は艶やかに、坊太夫を仕留める様子は毒婦のように、その一挙手一投足が可笑しくて可笑しくて、「芸人」亀治郎を見た思い(笑)。本日のワタクシの笑いの99%は、亀ちゃんのお陰です。
菊之助は真面目に二役(実質三役)を演じておりまして、獅子丸(実は主膳之助の双子の妹、琵琶姫)が決闘の際、腰が引けているのが、なかなかにコメディ演技でした。こうしてちょっとずつコメディが出来るようになるのだなぁ。菊五郎父さんみたいに遊んでいると(いや、よく知りませんのでイメージですが)、喜劇もお茶の子なのかもしれませんが、菊之助は酔っぱらったしのぶ姉ちゃんをお迎えに行っていた(いや、よく知りませんが聴くところによると)真面目な弟キャラですから精進が必要なんです。目標の玉三郎さんは、真面目で(いや、よく知りませんのでイメージですが)、かつ、ちゃんと喜劇も出来るので、菊之助も大丈夫だと思います。
今回は、片思いに身を焦がす乙女心を封じて(というか小出しにして)、大篠左大臣(錦之助)の片思いの相手、織笛姫(時藏)のもとへ、左大臣の思いを伝えに行く、言わば自分の恋する相手と恋敵の仲を取り持つ役です。自分の片思いの切なさや、左大臣や織笛姫の気持ちもわかるという切なさがよく表現できていました。←これはもうお手の物。
獅子丸の姿で、大篠左大臣に対して琵琶姫の思いを小出しにするところは、もっとコメディ化できるところですね。
とにかく、踊りは美しいし、あの涼やかな声を聴くと、脳に酸素が行き渡るというか、実に心地よきかなでした。
シェイクスピアと歌舞伎の合体ということでの感想は、ちと辛口。
歌舞伎としては、主膳之助と琵琶姫の早変わりに、わかっていても「早っ」と驚かされたり、お馴染みの台詞(?)「ビビビビビ」とか「しぇー」とか「さあ、さあ、さあ」とか、うまく嵌っていると感心させられても、花道はそれほど重要でもなく残念。
シェイクスピア劇としては、言葉遊びが韻を踏んだり洒落たり台本ではよくできている感じはしたものの、うまくこちらに伝わってきませんでした。何が原因かわかりませんが、俳優の台詞回しなどの技術的なものがまだこなれてないような・・・・(←素人意見ですから気にしないでください)。
それは道化の捨助(菊五郎)でさえ、イマイチだったんです。言葉遊びの部分だけでなく、道化には重要な台詞がたくさんあるのですが、あまり心に響いてきませんでした。
舞台装置はよかったです。特に開幕の鏡!再再演ですから、鏡のことは耳にしていましたが、それでもやっぱり「おお!」と思いました。んで、大勢の人が客席から鏡に向かって手を振っていたのが可笑しかったです。この反応はロンドンでもあったのでしょうか(笑)。
まあ、亀ちゃんですね。思い出しても可笑しい・・・(笑)。

源平布引滝

『イントゥ・ザ・ワイルド』のおかげで他の映画を観る気がしなくて、『その名にちなんで』などパスしてしまいました。他にもいっぱいパスしたけど悔いはないわ。なーんてね。本日感想をアップしたので、そろそろシネマイレージが貯まる頃だし、がんがん観まくるぞー。
その前に、せっかく観たお芝居の感想をば。
9月16日新橋演舞場で「源平布引滝」三幕を観ました。
一幕は、身重の妻葵御前と源氏の白旗を百姓九郎助とその娘小万に託し、自らは討ち死に覚悟で平家軍を迎え撃つ「義賢最期」。
二幕は、追っ手から逃れるため、大事な白旗を咥え琵琶湖に飛び込んだ小万が、敵方平家の御座船に救い上げられる「竹生島遊覧」。
三幕は、九郎助の家に葵御前がかくまわれているとの噂を聞きつけ、詮議に来た平家方斉藤別当実盛と瀬尾。なんとか言い逃れようとする九郎助は孫が湖で拾った「腕」を葵御前が生んだと言い張り、「そんなバカな」と怒る瀬尾に、「いやいや、腕を生むこともある」とうなずく実盛が実は・・・という「実盛物語」。
上演の機会が多いのは「義賢最期」と「実盛物語」とのことで、なるほど「竹生島遊覧」は「実盛物語」のなかで実盛が語るので、芝居の筋運びとしては必要ないと思いました。
烏帽子姿の海老蔵と小万(門之助)の熱演が観られるのがいいかな。
海老蔵の義賢は、ぶっきらぼうという意外はキャラクターはあまり立ってないものの(折平(権十郎)との腹芸などなど伸びしろはたくさん)、病を得て弱っているところとか感じがよく出ていました。声もずいぶん低くしていました。ちょっと色っぽかったりしました。
そして、なんと言っても平家軍との戦いですね。荒技はお手の物だけど、そんな軽々しいものではなく、本当に最後の戦いのように力を出し切る様に重量感とスケール感がありすごい迫力でした。また、悲壮な表情は胸に迫るものがあり、思わず落涙。圧倒されました。素晴らしい(拍手)。
戸板のうえに仁王立ちというワザも仏壇倒しも、もちろん決まりましたよ~(^_^)。仏壇倒しは海老ちゃん本気でぶっ倒れて怪我しないでねと念じておりましたら、ちゃんと怪我をしない程度にぶっ倒れて、加減というものを学んだなと(笑)。
実盛は、襲名披露の巡業で高知でも観ていましたが、その時と同様、キャラクターが立っています。ユーモアと余裕のある知将といった感じ。舞台外での実盛の言動なども想像できます。大まじめに「腕を生むことがある」「さて天竺では・・・」のくだりは本当に可笑しい。
清々しい幕切れで後味のよいお芝居です。この清々しさは実盛のキャラに負っていると思うので、(海老蔵贔屓の友人の話では小万を切ったときの語りが下手とのことで、こちらも伸びしろはあるようですが)海老蔵の実盛にハズレなしと思います。
それにしても、平家方の人物が源氏方に嫁いだり、その息子は源氏として平家方の祖父を討ち取ったり(実は孫に手柄を立てさせようとワザと討たれる)。昨日の敵は今日の友というか、味方の振りして実は敵だったり、敵味方が入り乱れて凄まじい世界だったのですね。>源平時代
源氏の白旗を守るためとか、主君のためとか、本懐を遂げるためとか、様々な犠牲があって、武士の世界は大変だと思いながら登場人物の心情に泣いたり笑ったりで楽しませていただきました。